日本の雨に適するレインウェアを雨の掃部ヶ岳でテスト パタゴニア/クラウド・リッジ ジャケット&パンツ
今月のPICK UP パタゴニア/クラウド・リッジ ジャケット&パンツ [パタゴニア]
価格:30,000円+税(ジャケット)/19,000円+税(パンツ)
サイズ: XS、S、M、L、XL、XXL(ジャケット/パンツ)
重量: 391g(ジャケット)/309g(パンツ)
カラー: 4色(ジャケット)/2色(パンツ)
日本の意見を採用! パタゴニアが日本人にも合うように開発したレインウェア
あと1か月もすれば、今年も夏至がやってくる。日が長くなり、当分のあいだは遅い時間まで遊んでいられるのだ。野外にばかりいて、自分の人生が小学生の夏休みの延長線上にあるような、夏好きの僕はうれしくてたまらない。
だが夏至がやってくるということは、いずれ梅雨の時期も到来するということである。
そこで、今回ピックアップするのは、新型レインウェア。ジャケットとパンツがバラ売りになっているパタゴニアの「クラウド・リッジ・ジャケット」「クラウド・リッジ・パンツ」だ。
早速だが、こちらは収納時の様子。エメラルドがジャケットで、ブラックがパンツだ。それぞれにスタッフバッグが付属するが、そのスタッフバッグはかなり大きめ。だからひとつの袋にジャケットとパンツをいっしょに入れることも可能である。
写真左はジャケットとパンツをセパレートで収納し、右はジャケットの袋のほうにジャケットとパンツをまとめて収納した状態。どのように収納するかは、使う人の好みでいい。
ところで、なぜはじめに収納状態を紹介したのか。
レインウェアにスタッフバッグが付属しているのは、日本のメーカーの製品、もしくは日本企画の製品ならば当たり前だ。だが海外メーカーではそうとは限らない。実際、これまでパタゴニアのレインウェアにスタッフバッグが付属することはなかった。
いや、あったのかもしれないが、少なくても僕の記憶に残る近年にはなかったはずだ。それなのに、この新製品にはスタッフバッグがあらかじめ付属しているのである。
パタゴニアのレインウェアが、日本的になったのか?
まさにその通り! このクラウド・リッジ・ジャケット&パンツは、パタゴニアが日本からの意見をもとに、アジア人向けに開発した製品なのである。テクニカルなウェアの開発でのこのような動きは、これまでのパタゴニアにはほとんどなかったことで、ある意味画期的なことだ。
スタッフバッグの付属は、ひとつの象徴に過ぎない。他にもアジア人向けの視点で作られた箇所はいくつも見られる。
では、これからその点を確認していこう。
僕はこれまでにもパタゴニアのレインウェアを使っていた。そのときに大きな問題になっていたのが、パンツのサイズ感だ。具体的に言えば、足の長さでサイズを選ぶとウエストが緩すぎ、歩いているうちにズリ落ちてくるのである。
ウエストの部分にゴムを使い、いくらか伸縮性を持たせたデザインのパンツでも、結局ウエストは緩すぎ、とても使い物にならない。僕以外にも同じ問題を抱えた人は多く、欧米人はみんなそんなに腹がでているの? などと思ったほどである。それなのに、パタゴニアは日本メーカーのレインウェアでは当たり前の仕様である「ウエストの紐」を、どんなレインパンツにも頑なに付けてはくれなかった。
それが、このクラウド・リッジ・パンツには、ウエストのゴムに加え、しっかりと「紐」もついているではないか。これで僕が長年抱えてきた、パタゴニアのレインパンツに対する不満は解決だ。早くやってくれればよかったのに……。
パンツのアジア人向けの改良は、ウエストにとどまらない。丈の「長さ」もいくぶん短くなり、無用にたるむことがなくなった。足の長さには個人差があるとはいえ、アジア人は欧米人よりもおおむね短足だ。そのあたりは悔しいが、はきやすくなったことは事実なのである。
短くなったのは、腕の長さも同様だ。クラウド・リッジ・ジャケット&パンツは、日本人を含むアジア人全般に適したサイズ感に仕上がっているのは間違いない。
僕の身長は177㎝、体重は70㎏である。これまでパタゴニアのウェアであれば、上半身はMサイズか、まれにSサイズ、下半身はMサイズで決まりだった。ところが、クラウド・リッジを試着してみると、いつもとサイズ感が少し異なった。僕はレインウェアの下に衣類を何枚も重ねることはしないので、内部にはTシャツ一枚という前提だが、ジャケットはSサイズで十分。パンツはMサイズだと緩く、Sサイズだといくらかタイトな感じで迷ったが、どちらかといえばSサイズのほうがよさそうである。
そこで、上下ともにSサイズに。比較的大柄な僕の身長と体重でSサイズならば、一般的な体格の方はXSサイズになりそうだ。だがそうすると、小柄な人は着るものがなくなる。そしてL~XXLサイズは、大半のアジア人には必要なさそうである。
現代のレインウェアには当然の機能「防水透湿性」をつかさどるのは、パタゴニア独自の「H2Noパフォーマンススタンダード」。そのメンブレンの上には比較的厚みがありながらもしなやかで柔らかい表地と裏地を張り、いわゆる3レイヤーの生地に。強靭さと着心地のよさを両立させようという素材になっている。
また、フロントやポケットのファスナーには、止水タイプが用いられている。「防水」ではなく「止水」なので、完全に雨水の侵入を防げるわけではないが、通常の使用範囲であれば、ほぼ問題なく雨水をシャットアウトできる。
初期状態での撥水性は上々だ。
今回は歩き始める前から雨が降ってきて撮影が非常に大変だったが、ウェア自体は軽く振るだけで水滴が落ちるので、ほとんどドライであった。
気になる細部の仕様は? フード、袖、裾、フィット感など徹底レビュー
今回はあえて悪天候の山を求めて場所を選び、歩き始めたのは榛名山の掃部ヶ岳。
思いのほか明るいが、雨は断続的に降り注いでいた。登山道も濡れ、一部は滑りやすい。
SサイズとMサイズで迷ったパンツは、僕の足にタイト気味にフィットしている。だが、ストレッチ性が効いていることもあり、足が上げにくいわけではない。立体裁断のよさも貢献しているのだろう。
だが、いかにも「はいている」というような着用感が強いことは否めない。正直なところ、パンツに関してはMサイズにしておけばよかったと後悔。Mサイズが正解だった理由にはもうひとつあるのだが、それは後述する。
いずれにしろ、これは僕のサイズ選びのミスであり、クラウド・リッジ・パンツ自体に問題があるわけではない。むしろサイズさえ合っていれば、とても足を動かしやすいレインパンツであろう。
ジャケットのフードのつばには張りを持たせ、視界を妨げないように工夫されている。また、首元のドローコードを引くと、このフードを絞ることも可能だ。
後頭部にもドローコード。頭部へのフィット感が簡単に調整できるようになっている。
左の写真はドローコードを締めず、緩やかにした状態。それに対し、右はドローコードを絞り、フィット感を高めた状態だ。
無風であれば、左のような状態のほうが蒸し暑さは軽減されるだろう。だが風雨が強いときは右のように。フードは大きめなので、帽子はもちろんヘルメットをかぶっていても余裕がある。このフードは収納できないが、首元に丸めてフックで留めることができる。
このようにすれば、フードをかぶらないときに風の影響を受けたり、フード内に雨水がたまったりすることはない。
ドローコードはウエスト部分にもつけられ、フィット感をより高くすることに貢献している。
それに対し、手首部分はベルクロで簡単に留めるだけのシンプルな仕様だ。
僕は次第に標高を上げていった。雨が降っていないタイミングであれば、遠くの景色も眺めやすく、いくらか気分も明るくなる。眼下に見えるのは、榛名湖の湖面だ。
いつしか気温も上がってきたようで、レインウェアを着ていると蒸し暑さを感じてきた。
レインウェアのなかには、脇の下などに換気のためのベンチレーターをつけたモデルも存在する。とくに海外メーカーのものには多いようだ。だが、クラウド・リッジ・ジャケットには、そのようなベンチレーターは付属していない。これもまた、日本的なレインウェアといえなくもない特徴だ。
その代わり、腰元のポケットはベンチレーターを兼ねている。内部がメッシュになっており、ポケットを開いたままにすれば、熱気と湿気が逃げていくのである。本格的なベンチレーターに比べれば効果は限定だが、これだけでもついていると蒸し暑さは軽減されるだろう。
パンツのサイドにはかなり長めのファスナーがついている。引き具が2つ付いたダブルタイプだ。
これもまた、ベンチレーターとしても機能するための工夫といえる。
左はサイドのファスナーの上部だけを開いた状態。少々大げさに開いているが、こうすれば熱気と湿気を逃せることがわかるはずだ。雨が止んだ後でもレインパンツをはき続けているときなど、重宝する場面は多いに違いない。
一方、右は下を開いた状態だ。これだけ大きく開くことができれば、ブーツをはいたままで、パンツの脱着が容易である。
突然の降雨時にすばやくレインパンツをはくには、非常に便利だ。
だが、ブーツを履いたままでパンツを脱着しやすいのはいいが、少々問題がなくもない。下の写真は、レインパンツの裏地だ。黒く泥が付着しているのがわかるだろう。
このように使用した場合、どんなレインパンツでも裏地に泥がつくのは避けられない。だが、クラウド・リッジ・パンツの裏地には強いザラ付きがあり、一般的なレインパンツ以上に泥が付きやすいようなのである。レインパンツをはく前にブーツの泥をできるだけ落とすようにするなど、この点は留意しながら使ったほうがよさそうだ。
このパンツの裾にはスナップボタンがつけられている。
その留め具は2か所で、通常のいわば「ストレート」から、8cmほど「スリム」な状態に調整できる。少しでもブーツの上にパンツをフィットさせようとする工夫である。しかし他にフックなどはなく、あくまでも隙間を減らして「覆う」ためのものだ。
僕は右足を「ストレート」な状態に、左足を「スリム」な状態にしてはいていた。
繰り返すが、パンツのサイズはSである。丈はぴったりだが、裾のボタンを留めると、かなりキツい。もう少し余裕があってもよかったかもしれない。やはり僕にはMサイズがよかったのか……。
その結果、歩いているうちに左足はパンツがずり上がり、ブーツの上に裾がきてしまう状態になることがあった。これではレインパンツを伝った雨水がどんどんブーツ内に入ってしまう。
ただし、これは自分のブーツとクラウド・リッジ・パンツ(のSサイズ)の相性の問題だ。他の人が同様のことをした場合、このような問題になるとは限らない。自分なりに様子を見ながら、適した履き方を考えるとよさそうだ。
従来製品より格段に着やすいサイズ感とディテール。まずは試着を!
頂上にたどり着き、いつものよう記念撮影。
すでに雨はほとんど上がり、レインウェアは脱いでもよさそうだ。しかし今回はテスト。もう少しだけ着たまま歩いてみることにする。
気温もいくらか上昇したようで、レインウェアの内部が汗ばんでくる。しかし裏地が肌に張り付くことはなく、着用感は良好だ。
織りの関係でザラついているクラウド・リッジの裏地は、先に述べたように少々泥は付きやすいが、反面では肌に張り付くことはないというメリットを持つ。僕は体質的に発汗量が多く、泥付きが多少多くなろうとも、肌触りがよいこの裏地を支持したくなる。
ちなみに、首の裏のタグの付近にあるグレーのパネルは、極薄のマイクロフリースだ。
これも肌触りのよさを追求したものであり、起毛素材ではあるが、ほとんど水分を含むことはない。
最後に撥水性をもう一度、確認しておく。
擦れやすい裾の部分、かがんだときに地面に接した膝の部分は、さすがに撥水力が低下し、表面が濡れ始めていた。だが内部に水分が浸透したわけではない。あとは、この生地の耐久性だが、これだけはもっと何度も着込んでみなければわからないのである。
明るさを増した山中を下っていく。榛名湖に下りたころには、青空すら見え始めていた。
これから梅雨に入っていくと、これくらいの天気ですら、ありがたく思うのかもしれない。
パタゴニアがとうとうアジア向けに開発、販売し始めたクラウド・リッジ・ジャケットとパンツ。ある意味では、これまでのパタゴニアらしさが薄れた印象もあるが、日本人には従来の製品よりも格段に着やすいサイズ感とディテールになったのは確かだ。興味がある方は、僕のようにサイズ選びのミスをせず、まずはしっかりと試着してみてもらいたい。
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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