朝日連峰のブナ林からしたたる艶かしい流れを釣った72時間【山釣りJOY・後編】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

源流をめざして深山に分け入る山釣りの楽しみを紹介する雑誌『山釣りJOY』2024 vol.8から、山形県と新潟県にまたがる荒川流域の釣行記をご紹介。禁漁日前日の渓流にイワナを求めた一行は・・・。

写真=矢島慎一、文=森山伸也、釣り人=大森千歳

今日から禁漁。源流を離れて尾根へ

「胃袋、ほとんどなにも入ってないや」

河原にしゃがんでイワナを捌く千歳がつぶやく。胃袋の消化物を広げた石の上にはコガネムシの体表が夕日を受けて光っていた。上空を見上げるも、虫は一匹として飛ばず、星のみ輝いている。タープの下に吊るしたソーラーランタンにも虫がいない。僕が心配すべきことは、大雨よりも渇水と酷暑であったのかもしれない。

3日目の最終日、今日から禁漁期間である。それを知ってか知らずか、イワナは淵の浅瀬を優雅に泳いでいる。

東股沢と五郎三郎沢の出合から尾根に取り付く。初日の蕨峠越えと同じように濃い藪がかすかな踏み跡を覆っている。雨は降っていないのにウェアとパンツは朝露で早くもびしょ濡れ。草という名の沢を泳いでいるかのようである。

ブナの根元でしばし腰を下ろす。昨晩仕込んだイワナの燻製を頭からかぶりつく。冷えて塩と燻が染み込んだ肉と皮。舌にのせると脂が溶けて渓の香りがした。頭の中だけが沢へと引き戻され、いっときだけ不快な濡れを忘れさせてくれるのだった。

新潟県関川村・山形県小国町/荒川水系女川源流
千歳がヘッドライトの明かりで黙々とイワナを開く。胃袋になにが入っている? 卵を抱えたメス? そんなことを観察できるのは料理人の特権で、それが楽しいという。ノンベーとしてはありがたい
新潟県関川村・山形県小国町/荒川水系女川源流
明日の脱渓に備えて、行動食をこしらえる。非常食とならないことを祈りながら
新潟県関川村・山形県小国町/荒川水系女川源流
豪雪の水が育てた新潟県下田産のコシヒカリを焚き火でふっくらと炊き上げる。いつも食べている米なのに、養分たっぷりの沢水と焚き火で炊くと10倍くらいうまくなる。あとは刺し身(醤油とワサビ)があれば、言うことなし
新潟県関川村・山形県小国町/荒川水系女川源流
美渓・東股沢に別れを告げて、尻無沢集落へ続く尾根に乗る。初日の山越えと同様に、こちらも藪がうるさいが踏み跡はしっかりしていた。車の回収は下山後に考えるとして、とりあえず人里をめざすのだった

今回の釣り人

大森千歳

大森千歳

新潟の山村に暮らすフォトグラファー。山菜採りから渓流釣り、キノコ狩り、山スキーまで四季を通して山に通う。シャツは着心地よく、におわず、濡れても寒くないメリノウール一択。パンツはすぐに乾く薄手のトレッキングモデル。首に巻いた手ぬぐいで汗と毛バリの水分を拭く。ザックは背負いやすいドイター/エアコンタクトコアを愛用。ソーラーランタンを外付けして充電

森山伸也

森山伸也

山岳やアウトドア雑誌などで執筆するアウトドアライター。昨今の外遊びは、夏=テンカラ、冬春=テレマークスキーの二極に偏りつつある。著書に『北緯66.6°北欧ラップランド歩き旅』。足元はモンベル/サワートレッカー。斜面トラバースにはL.W.チェーンスパイクを併用。ザックはマックパック/ヘスパー50が最近のお気に入り。シャツはウールと化繊のハイブリッド

千歳さんの釣り道具

大森千歳さんの釣り道具

①テンカラ竿は2本とも宇崎日新「ロイヤルステージ7:3 3.6m」「スーパーテンカラ 7:3 3.2m」。②ドライフライ(浮く毛バリ)はエルクヘアカディスやイワイイワナなど。③マタドールのヒップパック。④ドライシェイクスプレー。⑤フォーセップ。⑥ラインカッター。⑦ハリス1号。⑧ズックビク

大森千歳さんの釣り道具

①モンベル/サワーシューズ。②キャラバン/渓流スパッツ。③ペツルのヘルメット。④ハーネス、ビレイデバイス、シュリンゲなどの登攀器具。⑤モンベル/チェーンスパイク。草付斜面でフェルトソールは滑りやすいので。⑥テン場用のビーサン。5本指ソックスではく

大森千歳さんの釣り道具

①サーマレストの自動膨張式マット。②モンベル/ドライシームレスダウンハガー900#3。防水透湿性が備わりシュラフカバーいらず。③ヒルバーグ/タープ10UL。④シートゥサミット/モスキートネット。⑤スタッキングマグ雪峰×2。⑥タダフサ/ペティナイフ。⑦まな板と割り箸

DATA

新潟県関川村・山形県小国町荒川支流女川

解禁期間 4月1日〜9月30日
取材日 2023年9月29日〜10月1日
入漁料 日釣り券1000円
問合せ先 荒川漁業協同組合 TEL:0254-62-1163
地形図 2万5000分ノ1「舟渡」
アクセス 山形県小国町舟渡集落から林道を使って入山させてもらう。林道は荒れているので、無理のないところで車を路肩に止めて歩きはじめよう。蕨峠の山越えは藪こぎを強いられるため、地図によるルートファインディング技術が必要

山釣りJOY 2024 vol.8「ヤマトイワナ 釣り人が愛してやまない、深山幽谷の赤い点」

山釣りJOY 2024 vol.8
「ヤマトイワナ 釣り人が愛してやまない、深山幽谷の赤い点」(別冊山と溪谷)

発行 山と溪谷社
価格 2,200円(税込)
Amazonで見る
1 2

山釣りの世界へ

源流域に生息するイワナとの出合いを求めて、釣り竿を手に谷を遡行し、沢音を聞きながら眠る。登山とは異なる角度から山を楽しむ山釣りの世界をご紹介します。

編集部おすすめ記事