ヤマトイワナとは、なにものなのか?混沌とするイワナ分類の歴史【山釣りJOY】

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源流をめざして深山に分け入る山釣りの楽しみを紹介する雑誌『山釣りJOY』2024 vol.8から、地域差の大きいヤマトイワナの分類について考察するページを紹介する。

文=若林 輝、カバー写真=森田健太郎、イラスト=松島ひろし


そもそもヤマトイワナとはなにものなのだろう。分類学的にはイワナは斑点の色などにより4亜種に分けられ、朱点を持つヤマトイワナは、その中の1亜種とされている。沢ごとに模様や色が異なるとも言われるイワナの分類には、歴史を通じて数多くの議論が交わされてきた。そして現在もなお、その議論に決着はついていない。

日本のイワナが5種に分けられていた時代

ヤマトイワナとは、なにものなのか?

この問いは僕たちにとって永遠のテーマであり、あるいはこれ以上ない酒席の肴かもしれない。釣り人の間で広く共有されるヤマトイワナの特徴は「体の横に赤い点を持つ」というものだ。もう少し興味を持つ者同士なら「白点がないのがヤマトだ」とか「本当のヤマトは木曽の山奥に棲むものだけだ」とか「ヤマトは背中のパーマークが独特なのだ」などなど、持論に花咲くことだろう。一方で学問における「ヤマトイワナ」の定義とはどのようなものなのだろう。近年の魚類図鑑をいくつか引いてみると、ヤマトイワナはアメマス、ニッコウイワナ、ゴギとともにイワナの1亜種であるとされ、分布域は神奈川県相模川以西の本州太平洋側、琵琶湖流入河川、紀伊半島北部としている点で、おおよそ一致する。

ヤマトイワナ
ヤマトイワナ
1961年、大島正満による「日本産イワナに関する研究」の挿画より。当時、ヤマトイワナは単独の種(Salvelinus japonicus)として記載されていた。岐阜県益田川支流山ノ口川産のオスの成魚(鳥獣集報18(1)より転載)

亜種とは種よりも小さな分類グループのこと。魚類分類学の基礎とされる『日本産魚類検索』によると「同種内の地理的変異を示す個体群」と定義されている。地理的変異とは、生息地による形質の違いだ。またこのようにも書かれている。「同種内の他の亜種と遺伝的にあまり離れていないので、よく似てはいるが、形態的には区別できる点をもっている」

これらの定義によってヤマトイワナはイワナの1亜種とされている。では、図鑑に書かれている内容を見てみよう。

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源流域に生息するイワナとの出合いを求めて、釣り竿を手に谷を遡行し、沢音を聞きながら眠る。登山とは異なる角度から山を楽しむ山釣りの世界をご紹介します。

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