定番大型バックパックの新サイズを、初夏の八ヶ岳で徹底チェック! グレゴリー/バルトロ55

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今月のPICK UP グレゴリー/バルトロ55 [グレゴリー]

価格:37,000円+税
重量:S 2.10kg/M 2.10kg
※同じ仕様の女性用として「ディバ(DEVA)」があります

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ハーネス、ヒップベルト…、登りだす前にその構造を確認!

初夏のある日、八ヶ岳中央部への玄関口となる稲子湯登山口は晴れ渡っていた。日増しに大きく成長していることがわかる木々の葉はとても目に鮮やかで、夏好きの僕としてはうれしいばかりだ。

今回の目的地は天狗岳。初日はしらびそ小屋でのテント泊を予定しており、バックパックは大型のものを使用した。それが、このグレゴリー「バルトロ55」である。アルパイン、トレイルランニング、さらにはタウンユースなども想定した幅広い同社のラインナップのなかでも「王道」ともいえるバックパッキング用であり、日本の一般的な山歩き、とくにテント泊縦走などに適した看板的な存在だ。ちなみに、バルトロこれまでに何度もリニューアルされ、アップデートを重ねている。もちろん今回紹介するバルトロは、現在の「最新バージョン」だ。

とはいえ、この最新型「バルトロ」は2年前に発売されており、じつは僕も容量「65L」をすでに使っている。だが、今回ピックアップした「55L」は今期からの新展開。発売以来、バルトロの注目度は非常に高く、いまだレビューの要望も多いため、ここでは改めてチェックしていきたい。

さて、僕が以前から使っていた「バルトロ65」と比べると、「バルトロ55」はやはり一回り小型だ。ここでは形をよく見せるため、荷物をあまり圧縮せずにパッキングを行なったが、テント泊のフル装備に加えて1泊分の食材を入れた程度ではまだまだ余裕がある。

現代の軽量コンパクトなテント泊装備をそろえ、無用な荷物を減らせば、一般的には容量55Lで2~3泊の夏山山行は充分に可能だ。違う言い方をすると、容量55L以上はかなりの長期山行や防寒着や分厚い寝袋で荷物がかさばる寒冷な時期、もしくはパッキングに慣れていない人に向いたサイズといってよい。僕自身、1~2泊程度の山行に「65L」を使うと収納力をもて余すことが多く、もっと小さなものがほしかった。だから、今期の「55L」の登場は大歓迎なのである。

「55L」は容量こそ新登場だが、基本的な構造やポケットの位置などは以前のバルトロとまったく同様だ。以前からのバルトロユーザーとしては安心感がある。では、まずはフィッティング方法から確認していこう。

こちらはショルダーハーネスと本体の取り付け部分。使用する人の体に合わせて連結する場所が2段階で選べ、フィット感の向上に貢献している。わずか2㎝ほどの差でしかないが、非常に重要な部分だ。

この部分の調節は、ハーネスに付いている金属パーツを本体の樹脂パーツのスリットに差し込むだけでよく、とても簡単だ。バルトロはこの部分を中心にショルダーハーネスの長さを変えることで、背面長の調整を行なうシステムとなっている。

ヒップハーネスにも細かな工夫がある。構造が複雑で、写真では説明しきれないほどだが、以下を見ていただきたい。
このヒップハーネスの上にはポケットがベルクロで取り付けられており、これを外すと樹脂製のパネルやストラップを使った内部構造が現れる。よく見ると、左幅広のストラップは板状のパネルに連結し、それがさらにヒップハーネスそのものに差し込まれているのがわかるだろう。

このとき、パネルとハーネスそのものは固定されず、使用する人の腰回りに合わせてスライドさせることでフィッティングを変えられる。そして、パネルはストラップでバックパック本体とつながり、このストラップを引くことでフィット感が一定に保たれるのだ。

ヒップハーネスとバックパック本体の連結部分の近くにもベルクロのパーツがついている。これを前後左右に張りなおすことで、より微妙なフィッティングが可能だ。

他のメーカでは省いてしまうほどの細かな微調整システムである。バルトロは大雑把にフィッティングを行なっても心地よく背負えるほどの背面パッドやハーネス類を備えているが、こういう部分まで微調整しきれれば、ますます使用者との一体感は増していく。

ひとつ説明することを忘れていた。バルトロ55のハーネスのサイズ展開は、SとM。どちらも重量は2.1kgである。背面長やハーネスを調整する以前に、まずは自分に合うサイズを選ぶようにしよう。日本人として小柄な人はS、大柄の人はMというわけだが、どちらが適しているのかはショップで計測してもらうといい。またバルトロは男性モデルで、55L、65L以外にも95L、85L、75Lサイズを展開しているが、ハーネスの形状などを女性に合わせたモデルは「ディバ」となり、80L、70L、60L、50Lの4サイズをもっている。

ボトルホルダー、フロントポケットも念入りにチェック!

次にポケット類を見てみよう。これらのポケットの使いやすさは、バルトロシリーズの人気の一因でもある。

下の写真はリッド(雨蓋)表面のポケット。上から見て縦方向に2つのファスナーが付けられ、それぞれがポケットの出し入れ口になっている。右には行動食、左には飲み物など、入れ分けができるので便利だ。

これらの2つのポケットの内側には仕切りがある。この部分の生地には余裕を持たせてあるために仕切りは可動するので、一方のポケットにたくさんの荷物を入れ、もう一方は少なめにとどめるといった自由な使い方ができる。

バルトロはフロントにも大きなポケットが付けられている。ファスナーは長く、大きめのものも収納可能だ。ここにはレインウェアやゲイターなど、行動時にすぐに取り出したいものを入れると便利である。

フロントポケットの内側にはさらにメッシュのポケットがあり、付属のレインカバーが収納されている。わざわざレインカバーを別途購入しなくてもよいのは、うれしい点だ。ただし、このレインカバーは容量55Lのバックパックに合わせるには少々大きく、かなりたるみが出てしまう。おそらく同シリーズの65L以上のモデルと同じサイズなのだろう。強風時に使うと風をはらんで飛ばされる可能性も出てくるので、レインカバーに取り付けられているフックなどでバックパック本体にしっかりと固定しておかねばならない。

サイドポケットは背負ったときに右側にくる部分は、ボトル用だ。1Lのボトルでも余裕を持って収納でき、しかも斜めに固定されるので背負ったままでも取り出しやすい。

ストラップで絞れば行動中もボトルを落としにくく、普段は収納しておけるので邪魔にならず、便利といえば便利だ。ただ、個人的には少々使いにくいようにも思う。この形状ではボトル以外のものは収納しにくく、ポール状のものなどは必ず反対側のポケットを使わねばならないからである。もう少し汎用性が高いデザインのほうが僕の好みではあるが、このほうが使いやすいという人も多いだろう。

こちらはヒップハーネスの上につけられた左右のポケットである。下の写真の左が、背負ったときに左側にくるポケットで、同様に右が右側に位置するポケットだ。

左側のほうは内部に入れたものがすぐにわかるメッシュ素材。右のほうは防水素材と止水ファスナーを使った「ウェザーシールド」ポケットである。

このウェザーシールドポケットの防水性はなかなかのもので、背負っている状態であればほぼ完全に水の浸入を防いでくれる。下の写真のように、寝かせた状態で閉じたファスナーの隙間に無理やり水を流し込んでやれば、さすがに内部は濡れてくるが、通常の使い方では川の中に転落でもしない限り、こういう状況は起こらないはずだ。

厚みは4㎝ほどで、腕の振りにも干渉せず、邪魔にはならない。その代わり、縦と横の幅はあまり広くはなく、止水ファスナーの開口部も狭い。そのために行動中によく使うもので、防水したいものの筆頭であるスマートフォンは、小型のものしか入らない。サイズ感だけは少々残念だが、GPS機器などには有用だろう。

背面パッドはメッシュ素材で覆われ、通気が高い。とくに背骨の位置になる中央部分は、パッドの肉抜きも行なわれ、ますます風通しがよくなっている。

レール状のパーツに取り付けられたチェストハーネスは上下に移動でき、フィット感を向上するのに役立っている。

腰の部分には格子状の模様になった滑り止めも付けられている。この効果は強力で、ウェアの上に張りつくような感覚を覚えるほどの固定感を生みだし、これまたフィット感を増す働きをアップしている。

ある意味、“粘着力”ともいえなくもないほどだ。ときには細かな土や砂がこびりついてしまうこともあるくらいなので、きちんと払ってから背負うようにしたい。

さて、先ほどと似ているカットだが、これはバルトロ55を横から見た写真である。ボトム部分が湾曲していることがわかるだろう。これが何を意味するのかといえば、地面に置いたときの設置面積が狭く、しかも斜めになるということ。そのために、地面の上で「自立」させることが難しく、なにかにもたれさせないと倒れてしまう。山中はもちろん、電車内などでは置き方に注意してほしい。

バックパックを地面にドンと立てて置きたい人は多く、この点が気になる人もいるはずだ。意外に大事なポイントかもしれない。

グレゴリーの看板モデル、新サイズの使い勝手は果たして…。

細部のチェックとフィッティングを終えた僕は、稲子湯登山口から、しらびそ小屋へと歩いていった。好天で気温も高く、重い荷物で一気に汗ばんでくる。しかし、それ以上に初夏の山は気持ちがよかった。

歩きながらバルトロ55の使用感を確かめていく。とはいえ、以前から65Lサイズのユーザーだった僕には、すでに慣れ親しんだ背負い心地だ。登山口から小屋までの距離は短いが、55Lも65Lも同じ背負いやすさであると確認できれば、それで充分。背面パッドやハーネスが同じなのだから当たり前なのだが。

バックパック界の雄とされるグレゴリーを代表するモデルだけあり、バルトロの背負いやすさは格別だ。左右それぞれが上下に動くヒップハーネス、程よい硬さを保ちながら肩にフィットするショルダーハーネス、背中全体に荷重を分散してくれる背面パッドと、ほとんどどこにも文句はない。まさに体と一体になるバックパックである。もちろん、体の形状には個人差があるので、どんな人にでも合うとまではいえない。だがサイズ展開や細かなフィッティング方法を考えれば、大半の人は心地よく背負えるだろう。
フィッティングに関することで少しだけ気になったのは、レール状のパーツに取り付けられたチェストハーネスの位置が、上下にずれやすいことくらい。この部分だけはあえて滑りを抑えたりして、もっと確実に固定できるとよさそうである。

テント場に到着し、バックパックから荷物を取り出していく。バルトロのフロントはU字型に大きく開閉し、荷物の取りだしは非常に容易だ。また、ボトム部分も空けることができ、内側には仕切りがついた、いわゆる二気室構造となっている。

今回は写真がわかりやすくなるように、ボトム部分には黄色い寝袋をあえてそのまま入れてみた。仕切りはわりと小さめで、完全にバックパック内を上下にわけるものではないが、大きめの荷物は充分に抑えられることがわかる。ただし、効率よくパッキングを行なうのならば、この仕切りは外してしまい、実質的には一気室として自由に荷物を収められる状態にしてしまうことをオススメする。

内部を見ると、樹脂製のパネルが露出している。一般的な大型バックパックは布地などで隠されることが多く、ちょっと珍しい構造だ。

だが、どうして露出させたままにしているのだろう? パッキングの際、僕は荷物を圧縮して上から押し込んでいくのだが、そのときに出っ張っている部分が引っかかり、いくぶんストレスを感じてしまうのだ。出っ張ってはいても、尖っているわけではないので、荷物を破損するほどではないが、改善してほしい点である。

とはいえ、この樹脂製パネル、常に露出しているわけではなかったりもする。じつはバルトロには小型サブパックが付属しており、このサブパックは背中側にトグルで固定され、水を入れたハイドレーションパックを収納する役割も担っているからだ。

だが、僕はこのサブザックを内部に固定せず、行き帰りの電車やクルマのなかで使うことが多い。そして山中では丸めて内部に収納してしまう。そのために、先ほど述べたように、パッキング時にはパネルの出っ張りが少し気になってしまうのである。

ともあれ、このサブパックの存在は、最新型バルトロの大きな特徴でもある。細長いハイドレーションパックを入れることを想定していることもあって、薄手の作りになっており、左右の幅も狭めだ。その代わり、縦には長めである。

ショルダーハーネスはかさばらず、収納性がよい簡素なもの。だが、柔らかくて違和感がなく背負える素材である。

荷物を詰め込めば、だいたい10L程度の容量ではないだろうか。テント場から山頂へ往復したり、行き帰りに温泉に入りに行くときなど、夏場はこれほどの大きさがあれば多くの人には足りるはずだ。

上部はシンプルな巾着式。雨が降ってくると内部に水が入ってくることは避けられないので、ドライバッグなどで別途防水を考える必要はある。

しらびそ小屋からは、サブパックのみで八ヶ岳の稜線へと向かった。

行動食、飲み水、レインウェアなどで荷物の重量は3~4㎏ほどになったが、これくらいの重さならば、簡素なサブパックでも支障なく背負えた。

登山道は中山峠で稜線に合流し、そこからは南下。

2つの山頂を持つ天狗岳がだんだんと大きくなっていく。森の中を進み、岩場を越えていくと、山頂が次第に近づいてきた。

僕ははじめに東天狗岳に登り、そこから尾根に移って、西天狗岳へ。山頂でもすばらしい好天が続き、気分がよすぎて仕方がない。

さらに南には硫黄岳が見え、あちらまで縦走していきたくなる。今回はしらびそ小屋にテントを張り、サブパックで稜線に上がったが、テント泊装備のままで硫黄岳へ向かってもよかったか……。そんな気持ちにさえなってしまった。

ポケットが豊富なバックパック本体、フィット感が高い背面パッドや各種ハーネス、さらにはおまけのようなサブパックと、バルトロの完成度は非常に高い。さすがはグレゴリーの看板モデルである。しかも今期から展開される55Lは短期のテント泊に向いた大きさで、本国アメリカはともかく、日本ではこのくらいの大きさのほうが使いやすいはずだ。すでに65Lモデルを使っていた僕ではあるが、55Lモデルの登場は本当にうれしい。テント泊愛好者ならば、バルトロ55は一度試してみる価値はあるだろう。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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