南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑤徳島県の遍路道 区間ごとのアドバイス

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弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。

写真・文=岸田 明 トップ写真=玉ヶ峠の先にある神山遍路小屋付近から見る里の風景

目次

【区間4】第二十三番薬王寺から高知県県境まで 1泊2日
公共交通の区切り:日和佐駅~甲浦(かんのうら)駅/海の駅東洋町

日和佐から内陸に入り、寒葉坂(かんばざか)峠を越えて再び海岸線に出る。牟岐(むぎ)からは、かつての難所・八坂八浜(やさかやはま)になる。町を抜け国道55号から左の旧道に入り、さらに大坂峠手前で右に旧遍路道を登る。国道と絡みつつ海岸線に出たあと、最後は山側から別格第四番鯖大師(さばだいし)の境内に直接降りる(※本説明は八坂八浜の旧遍路道を解説しているが、ヤマタイムでは一般道のみ表示している)

阿波海南から海部(かいふ)川を渡って緩やかな峠を越えると、眼前に静かな那佐湾(なさわん)が目に飛び込む。なお浅川湾から海部川間は2ルートある。所要時間はほぼ同じだが、ヤマタイム地図では示していない海岸寄りルートの方が交通量は少ない。

宍喰(ししくい)の先、高知県との境となる古目(こめ)峠は倒木が道をふさぎ、また峠からの下りでルートが不明瞭になる非常に難しい道だ。山道に慣れていない遍路、また夕方は国道のトンネルを抜けたほうがよいだろう。

〉古目峠を越える道の倒木
古目峠を越える道の倒木

古目峠越えを終えると山の雰囲気は一変し、高知県の漁港甲浦(かんのうら)に出る。番所跡から漁村風景を楽しみながら湾の奥まで進み、遍路道を離れそのまま西に向かうと甲浦駅、遍路道を行き小池川から左に曲がると海の駅東洋町に着く。

〉甲浦の港
甲浦の港

●アドバイス
徳島・高知県境を越える本区間計画のポイントは、第二十三番薬王寺から室戸岬にある第二十四番最御崎寺(ほつみさきじ)までの通常最低でも2日かかる75kmの長いロードをどう歩くかの一点につきる。

「区切り打ち」の場合、筆者としては本区間は宿泊せずに、日和佐駅から半日先の牟岐駅、あるいはJRの終点・阿波海南駅で打ち止めとするのがよいと思っている。阿波海南駅からは、直通列車で徳島に向かうことができる。

再スタートにあたっては、高知県東洋町(生見)を過ぎると次の宿は20km以上先になるので、県境前後のどこかで宿泊が必要だ。遍路宿は、徳島県では鯖大師、阿波海南・海部、宍喰、そして高知県では甲浦から東洋町(生見)間に点在する。

ちなみに「一国参り」としては、県境手前の宍喰と県境を越えた先にある道の駅東洋町(甲浦)が打ち止め候補地である。徳島方向へ戻るには海の駅東洋町からのバス、または甲浦駅発の阿佐海岸鉄道を利用するが、いずれも徳島へは途中乗り換えが必要で本数も少ないので、下調べが必要だ。

また上述の阿佐海岸鉄道では、鉄道線路・一般道両方走ることができるDMV(Dual Mode Vehicle)が運行されている。阿波海南駅から甲浦駅は線路区間だが、週末には甲浦駅から室戸岬の先の「道の駅とろむ」まではバス区間として運行されている。鉄道ファンならずともDMVの利用に食指の動くところかもしれない。(※DMVは甲浦駅から道の駅宍喰温泉間も走っているが、室戸岬と逆方向なので注意)

行程・コース

最適日数:1泊2日 12時間10分
総歩行距離:40,838m /上り標高: 856m 下り標高: 861m
行程:第二十三番薬王寺・・・日和佐トンネル入口・・・寒葉坂最高点・・・小松大師・・・牟岐駅入口・・・大坂峠・・・鯖大師入口・・・別格第四番鯖大師・・・鯖大師入口・・・浅川駅入口・・・海部川橋左岸(※阿波海南・海部周辺で宿泊想定)・・・那佐湾の奥・・・道の駅宍喰温泉前・・・古目大師・・・甲浦番所跡石碑・・・分岐・・・海の駅東洋町
高低図
コースの詳細を見る

補足:南海トラフ地震と遍路について

四国八十八霊場をめぐる遍路道は、四国の海岸線に沿っている区間が多いので、基本的に地震による津波のリスクを負っている。ただし、歴史的に数多くの津波や高潮に被災した地域なので、付近の遍路道や山門が津波浸水想定地域にあっても、ごく少数の霊場を除けば、本堂はもともと被災しにくい高台に建てられている。とはいえ地震はいつどこで起こるかわからない。大規模地震の可能性を念頭に置く必要があり、南海トラフ地震臨時情報発表時や大地震発生のリスクが高まっているとされる場合は、計画の中止や変更を検討したい。

国土交通省のほか、行政や新聞が避難所の所在を含めて防災マップを公開しているので、出発前に確認する事をおすすめする。また津波浸水想定地域の市町村には、数多くの避難タワーや避難場所を示す看板が立てられているので、確認しながら歩くのがよいだろう。

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プロフィール

岸田 明(きしだ・あきら)

東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。

四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/

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