南アルプスの展望台をつなぐ。夜叉神峠から樺平の静かな尾根歩き

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読者レポーターより登山レポをお届けします。小白直樹さんは、南アルプスの展望台となる夜叉神峠(やしゃじんとうげ)から高谷山(たかたにやま)、樺平(かんばだいら)へ。

文・写真=小白直樹


夜叉神峠を起点に、南へ櫛形山(くしがたやま)、富士見山(ふじみやま)、七面山(しちめんざん)、十枚山(じゅうまいざん)と、南アルプス前衛の山々をつなぐルートは「南アルプスフロントトレイル」と呼ばれ、整備が進められているそうだ。全長約70kmのうち、40kmほどが有志の尽力ですでに整備されているらしい。今回はその入口の夜叉神峠~高谷山~樺平を歩いた。

夜叉神峠登山口の100台ほど停められる駐車場に朝6時に着くと、土曜日とあってすでに8割方は埋まっていた。登山口からカラマツの多い林の中を緩やかに登って行く。

夜叉神峠に続く緩やかな登り
夜叉神峠に続く緩やかな登り

辺りはハルゼミの大合唱に包まれて、コルリやジュウイチなどの野鳥のさえずりもかき消されてしまう。山腹から尾根に登り着いた所が夜叉神峠。右へ少し登ると夜叉神峠小屋の前の明るく開けた広場に出る。ここは白峰三山(しらねさんざん)の絶好の展望台だ。北岳(きただけ)の雪はもうほとんど消えて黒々としていたが、間ノ岳(あいのだけ)の山肌には斑模様に雪が残っていい感じのアクセントになっている。

夜叉神峠からは白峰三山の絶景が観られる
夜叉神峠からは白峰三山の絶景が見られる

峠に戻って南へ稜線をたどる。ブナ、モミ、カラマツなどの疎林の中に緩やかに続く尾根道は気持ちがいい。20分ほど進むと高谷山に着いた。樹林に囲まれた山頂は、南側の一部だけぽっかりと樹林が切れていて、緑の額縁の中に収まった北岳が望める。

高谷山からは木の間に北岳が望める
高谷山からは木の間に北岳が望める

樺平へはさらに尾根を南下していくが、ここから先は踏み跡が急に薄くなって、足元の地面もやわらかくあまり歩かれていない感じだ。歩きやすい所を選びながら、南南西にやや急な尾根を標高差150mほど下って行く。踏み跡がわかりにくい箇所もあるが、ほどよい間隔で南アルプスフロントトレイルのオレンジ色のテープが木の幹に巻き付けられている。これを着実に追っていけば道迷いの心配はない。

下っていくと次第に傾斜が緩んで、コルに着いた所に中池(なかいけ)の道標がある。ここからは東側の山腹へ桧尾峠(ひのきおとうげ)に通じる道が分かれている。西側にある窪地が中池と思われるが、涸れていて水はない。雨が降った時だけ池っぽくなるのだろうか。この辺りは尾根が東西二手に分かれた二重山稜になっていて、尾根に挟まれた所に同様の船窪地形がほかにも見られる。ルートは東側の尾根筋をたどっていくが、地形が複雑なので目印がないとちょっとわかりにくい所だ。

二重山稜に挟まれた船窪地形
二重山稜に挟まれた船窪地形

緩いピークを越えて上下していくと、今回の最終目的地の樺平に到着した。疎林と小笹の緩やかな山頂で西側が開けている。ここも先ほどの夜叉神峠と同様に白峰三山の絶好の展望台だ。更に右手に視線を向けると、鳳凰三山(ほうおうさんざん)に続く早川尾根の向こうに甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ)が三角形の頭をのぞかせている。花崗岩砂で白く輝く姿がひと際目を引く。仲間の一人曰く「いつまでも眺めていられる」。まさにその通りだ。しばらく眺めを堪能してから下山にかかった。

樺平に到着
樺平に到着
樺平も白峰三山の展望台
樺平も白峰三山の展望台
早川尾根の先には甲斐駒が頭をのぞかせる
早川尾根の先には甲斐駒が頭をのぞかせる

中池の分岐まで戻ってここからは右のトラバース道へと進む。山腹に付けられた狭い道だがルートは明瞭だ。切れ落ちていて滑りそうな所には鎖が設置されていた。

滑りそうな箇所には鎖がある
滑りそうな箇所には鎖がある

この辺りは植生が豊かで特にミズナラの大木が多い。20分ほどで桧尾峠に到着。左上に高谷山からの尾根道が下ってきているが荒れた印象だ。峠には古い案内図があり、尾根をさらに東へ下って行くと桃ノ木温泉に出られる。夜叉神峠登山口へはトラバース気味に山腹を下っていく。途中幅広い崩壊地のガレ場を通過するが、踏み跡がしっかりしているので特に危険はない。

崩壊地も特に問題なく通過できる
崩壊地も特に問題なく通過できる

やがて自動車の音が聞こえてきて、夜叉神トンネルの東側の入口の脇に下り着いた。後は南アルプススーパー林道を歩いて登山口の駐車場に戻った。

メジャーな山ばかりではなく、たまにはちょっと変わったコースも歩いてみたいなと思う人には、静かで眺めもよくなかなか楽しめるコースだと思った。植生はほとんどが落葉樹なので、紅葉の時期に訪れるのもよさそうだ。

(山行日程=2024年6月15日)

MAP&DATA

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コース

夜叉神峠登山口~夜叉神峠~高谷山~樺平~桧尾峠~夜叉神峠登山口(参考コースタイム:4時間10分)

小白直樹(読者レポーター)

小白直樹(読者レポーター)

丹沢山地の麓、神奈川県相模原市緑区在住。自然と酒をこよなく愛する仲間たちと共に山歩きや釣りなどのアウトドア活動にいそしみ、日々アクティブな隠居生活を送る自由人です。

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