アルプスの岩稜帯で頼りになる登山靴 アゾロ/フレネイEVO GV|高橋庄太郎の山MONO語りVol.110
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回はアゾロの「フレネイEVO GV」を紹介します。
文・写真=高橋庄太郎
いよいよ岩稜帯へ。本領発揮!
その後、高度は上がり、とうとう岩稜帯に突入する。

テント場にテントを設営してから登っているため、荷物が軽くなって体への負担は減った。

しかし歩きにくさは格段にアップしている。ここからがフレネイ EVO GVの真価が発揮されるシチュエーションというわけだ。
1時間も歩いていると、シューズの持ち味がだいたい理解できてくる。

ライトアルパインシュ-ズとして、フレネイ EVO GVの岩場での安定感は充分だ。トレッキングシューズならば、一歩一歩足を置く場所を慎重に考えなければ危険な場所でも、難なく進んでいける。言い方を変えれば、トレッキングシューズよりも“安心して足を置ける場所”が何倍にも広がり、その結果、安定感と安全度が高まっているのだ。

アウトソールの一カ所だけが岩の上にかかっているような状況でも、体重がかかってもゆがみにくいアウトソールの硬さで体のバランスがとりやすい。

さすがはライトアルパインシュ-ズだ。トレッキングシューズやトレイルランニングシューズでは、こんな歩き方はできない。
起伏が緩やかな地面の上では歩きにくかったフレネイ EVO GVのアウトソールだが、予想通りに岩場では優れた歩行力を発揮してくれている。

なお、フレネイ EVO GVのアウトソールの凹凸は、ライトアルパインシュ-ズとしては少し深めだ。岩の突起をとらえやすいが、小石が少し挟まりやすい気もする。違和感が生まれたときには、チェックして外すようにしたい。
また、フレネイ EVO GVのアウトソールのつま先には、いわゆる“クライミングゾーン”があり、グリップ力を高めた平面的なデザインになっている。

つま先ほどではないが、かかと部分も同様だ。

これにより、岩の細かな凹凸はさらにとらえやすくなり、岩場での安定性は高まる。これはフレネイ EVO GVだけの特徴ではないが、これまでにライトアルパインシュ-ズをあまり履いたことがない人のために、簡単に紹介しておきたい。
僕はその後も岩場を進み続けたが、いたって快調である。

ほかのライトアルパインシュ-ズに比べて感心したのは、やはり足首への違和感の少なさだ。岩稜帯での安定性を高めるためにシューレースを強く締めると足首が痛くなるようなライトアルパインシュ-ズも多いなか、フレネイ EVO GVは本当に足なじみがよいのである。
つま先から前足部のランドラバーの強度も高い。

足を岩にぶつけても傷みがなく、衝撃も緩和されている。
高密度で太い繊維を使っているアッパーの耐久性も上々である。

上の写真はまだテストを行なっていない新品のときの状態で、下はもっと履きこんだときの状態である。

じつはこのときのテストの後、僕はほかのハードな場所でも4~5日、フレネイ EVO GVを履いていたのだが、ステッチが一部だけ毛羽だった程度でアッパーの傷みはほとんどなかった。耐久性にも問題はないようである。
登りよりも体が不安定になる下り道でも、フレネイ EVO GVはしっかりと力を発揮してくれた。一般的なライトアルパインシュ-ズ以上ではないだろうか。

これは先に述べたように、アウトソールの凹凸が深めだからかもしれない。浅いと簡単に外れてしまう岩の突起が、足裏でちゃんと引っ掛かっているような歩行感なのだ。

登り道とは感覚が少し異なるが、相変わらず調子がいい。
テスト時は残雪も一部にあり、雪上での歩きやすさも試してみた。

フレネイ EVO GVは冬季を除いた“3シーズン”用のシューズだが、春から初夏の残雪にも対応できる機能を持っている。そもそもアルパインシュ-ズは岩場主体のシューズとはいえ、その構造はある程度の雪山でも活用できるものだ。
ランドラバーとアッパーは、雪面を蹴りこんで足場を作るだけの硬さを充分に持っている。

アウトソール周囲のエッジは立ち、しっかりと雪面に食い込む。横方向に体重をかけても滑りにくく、柔らかな残雪の上では支障なく使えた。

しかし、春先の早朝など雪面が硬く凍り付いた場面では、雪を蹴りこんだり、横向きに体を支えたりしようとしても、シューズだけではなかなか難しい。
そんなわけで、フレネイ EVO GVのかかとにはセミワンタッチクランポン(アイゼン)を取り付けるためのコバが設けられている。

ライトアルパインシュ-ズにはごく普通のディテールとはいえ、いざというときにクランポンを組み合わせやすいのはありがたい。それほど標高が高くはなく、気温があまり低くない山であれば、冬の雪山でも活躍するだろう。
残雪が溶けて水になっても、シューズ内部に浸水はなかった。むろん沢の中に足を突っ込んでも、濡れることはない。

フレネイ EVO GVのライニングは、ゴアテックス・パフォーマンスコンフォート。その防水透湿性はたしかに信頼できるものなのであった。
まとめ:「適材適所」が大切な登山靴。フレネイ EVO GVは岩稜帯で最高のパフォーマンスを発揮してくれる
そんなわけで、岩稜帯や残雪上で確実な機能性を発揮してくれたフレネイ EVO GV。平坦な場所では少々歩きにくいものの、危険な場所での安全性を重視した設計だと考えれば、それは短所や欠点と言うべきことではない。

僕は山岳系のライターとして山道具を取り扱うことが多く、年間に実際に履く機会がある登山靴はおそらく30モデル以上にもなり、触って確認する程度ならば100モデルを超える。そこからの視点でいえば、山で使うシューズは「よく作り分けられている」ということだ。最近はトレイルランニングシューズやスピードハイクシューズで超ハードな岩場を登るよう人も増えているが、岩に足がかからずに滑ったりしていて、見ているだけでひやひやさせられる。反対に、ライトアルパインシューズを緩やかな低山で履いていて、無用に疲れている人も散見される。シューズは軽ければ体力を補えるわけではなく、頑丈であれば安全性が保障されるわけではない。要するに「適材適所」が大事なのである。
そういう意味で、日本アルプスや八ヶ岳のような岩場では、ライトアルパインシューズの出番だ。もちろん登山者によって力量は異なり、トレイルランニングシューズでも難なく歩ける人もいるだろう。しかし、よほどの人でもなければ、ライトアルパインシュ-ズのほうが適しているというのが僕の考えだ。危険な場所では、シューズが少々重くて疲れるとしても、安全が高まるほうがいい。また、無理に力を入れなくても岩場で体が安定するから、むしろ疲れにくいと感じる人も多い。僕自身、岩場ではライトアルパインシュ-ズのほうが圧倒的に楽なのである。
ライトアルパインシュ-ズの最新型であるフレネイ EVO GVは、岩稜帯での使いやすさをよく考えたシューズであった。ただ、フットベッドが簡易的すぎるのだけは気になり、“もしかしたら、もっと履き心地がよくなるのかも”とは思ってしまったが、あとは総じて優れている。とくに足首周りのフィット感の高さは非常に優秀で、驚いてしまった。
あとは使う人の足に合うかどうか? 機会があれば、ショップなどで実際に試してみていただきたい。
今回のPICK UP
アゾロ
フレネイ EVO GV Men’s

| 重量 | 743g(K8.0片足) |
|---|---|
| 価格 | 51,700円(税込) |
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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