無人小屋の怪奇。あの声、足音の正体は・・・
2024年6月に山と溪谷オンラインで実施した「山の心霊体験・不思議な体験に関するアンケート」では100件を超える回答があった。そのなかでも特に怖かった心霊体験について、「登山×心霊」をテーマに執筆活動を行なう成瀬魚交(なるせ・うこう)さんが、追加取材のうえ実話怪談としてリライト。第2弾となる今回は、長野県在住のOさんが、冬の三伏峠(さんぷくとうげ)小屋で、不思議な女性たちの声を聞いたときのお話。
文=成瀬魚交、写真=PIXTA
三伏峠小屋にて
「その冬は南アルプスの塩見岳(しおみだけ)に登りました。そのときに奇妙なことが起きたんです」
長野県の南信地域に住むOさんは、スキーやSUP、温泉など多彩な趣味をもつ男性だ。それら以外にも18歳のころから登山を始め、今もひと月に1、2回の頻度で山へ行くという根っからの山屋である。そんなOさんが冬山で奇妙な体験をした。
「2泊3日の登山を計画していました。三伏峠を経由するピストンです」
大鹿村(おおしかむら)のゲートから登り始め、初日は三伏峠まで登りそこで1泊。2日目に塩見岳を登頂して三伏峠に戻り、また1泊。3日目にゲートへ下山するという行程を組んでいた。
「両日とも、泊まるのは三伏峠小屋の隣にある冬季小屋を選びました。無人の簡易的な小屋で、今はもう開放されていないそうですが、当時はまだ冬には無料で開放されていたと記憶しています」
大鹿村のゲート前に駐車して登り始めたOさんは、昼過ぎには三伏峠に到着した。途中、空が徐々に曇り始めたときは若干の不安を覚えたものの、問題なくたどり着くことができた。
到着してひと息ついた、午後1時半ごろのこと。
「大学生かな?・・・っていう感じの女の子たちの声が聞こえてきたんです」
Oさんは小屋の中にテントを張って過ごしていた。すると、外から若い女性たち特有のキャアキャアという明るい話し声が聞こえてきた。
「ボリュームや雰囲気から思うに・・・だいたい4、5人くらいの感じかな? 元気だなーって思いました」
明るく楽しそうにしゃべりながら登る女性たちは、徐々に小屋に近づいてきているようだ。聞き耳を立てれば、話の内容まで聞こえてきそうなボリュームである。
グズッ、グズッ
気が付けば、彼らが雪を踏みしめる音も聞こえてくる。
しかし、小屋の扉を開けることなく、そのまま脇を通過していく。
「休憩がてら小屋に立ち寄ったりするものかと思っていたのですが、そのまま行ってしまいました」
小屋の脇を通過して歩みを進めていく。と同時に、Oさんはある疑問を覚えた。
プロフィール
成瀬魚交(なるせ・うこう)
1990年生まれ。東海大学探検会OB。学生時代はスリランカ密林遺跡踏査、秋田県民間信仰調査などの活動を行なった。現在は編集者・ライターとして各地の渓谷や不思議スポットを訪れたり、聞き書きなどで実話怪談を手がける。
登山者たちの怪異体験
太古の時代から、山は人ならざるものが息づく異界だった。そうした空間へ踏み込んでいく登山では、ときとして不可思議な体験をすることがある。そんな怪異体験を紹介しよう。
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