あれはUFOだったのか? 山のなかで目撃した謎の発光体
遭遇
――ジャリ、ジャリ
夜、テントのなかで寝ていると、テントの周りをしきりに歩き回る足音が聞こえたという。恐怖で誰も確認に出ることができず、翌朝ようやく外へ出ると、テントの入り口に置いてあったはずの靴が、少し離れた場所に移動していたそうだ。誰も外へ出ていないのにもかかわらず、である。
「そんな話を聞いたもんですから、登り始める前からちょっと怖かったんです」
屯鶴峯から歩き始めた3人は、二上山の2つのピークを越え、順調に歩みを進める。峠をいくつも越えながら徐々に標高を上げていった。
「葛城山の先にある水越峠(みずこしとうげ)にテントを張る予定でした。でも、明るいうちに着かなくて、葛城山の山頂手前にあるピークで夕飯を食べたんです」
午後6時ごろ、食事を済ませると友人のうちの1人が片づけをしている間、Yさんともう1人の友人は、何をするわけでもなく少し離れたところで食休みをしていた。
「少し下った先にキャンプ場があるんですが、そこに光が見えたんです。懐中電灯の明かりに見えました。距離にしてだいたい200mくらいやったかな。登山道を登るみたいにジグザグに光が登っていく。そやから、普通に懐中電灯を持った人が山頂に向かって登っていってると思ってました」
まだ空に明るさは残っているものの、あたりはだいぶうす暗くなってきていた頃合だった。ライトだけが煌々と光り、持つ人の姿などは闇にまぎれて見えない。友人と2人でぼうっとその光景を見ていた。光の動き方も、普通の人間が歩いているくらいのスピードであり、なんら違和感はなかった。しかし――。
「山頂を越えて、そのまま昇っていったんです」
光はなんとさらに上へ向かっていった。
人が持つライトであれば、当然山頂で停止するなり、その奥へ消えていくなりするだろう。しかし、その光はジグザグの軌道を描きながら、そのまま中空へと昇っていったのだ。
「なんやあれ……」
Yさんたちは唖然として固まってしまった。恐怖心はあまりない。しかし、目の前の光景が信じられず、思考が追いつかない。なにも合理的な説明が浮かばない。
「しばらく上空へ昇っていくと、いったん静止したんです。あ、止まった、と思ったら、ビューン! って――」
光は一気に飛び去っていった。西の空、大阪港の方角だったという。
「ものすごいスピードでした。あんな急加速する物体なんてほかで見たことありません。まさに未確認飛行物体――いわゆるUFOやったんかなと思います」
UFOらしき物体を目撃したYさん一行は、葛城山を下りテン場である水越峠へ向かう。
「禿げ山なので山頂から水越峠が見えるんですが、そこに光があってビビりました。でも、あとからあれが車のヘッドライトの明かりだとわかり、ひと安心しました」
水越峠へ下りたあとは、テン場まで砂利道の林道を歩く。道を進んだ先に開けて平らにならされた広場のような場所があり、そこで荷を下ろしてテントの設営にとりかかった。
すると突然、友人のヘッドランプがYさんのほうを向いた。
「お前ら、どっちか石投げたやろ?」
唐突にそう言ってくる。先ほど食事の片づけをしていてUFOを見ていなかったほうの1人だ。
彼いわく、ちょうどいま、頭に小石のようなものが飛んできたのだという。
「もちろん、さっきUFOを見たぼくらはビビッてそれどころやないんですよ」
Yさんたちは、車のライトをUFOと間違えて震えあがるような精神状態である。一刻も早くテントに収まりたい一心で、とてもふざけたりできる気持ちではない。
「……そんなん投げるわけないやろ」
ひと言だけ告げたあとは、ひたすら無言でテント設営を済ませた。
就寝前のトイレは3人一緒に行き、すぐにテントに潜りこんだ。沈黙のまま恐怖心と闘いながらなんとか眠りについたという。
果たして、彼の頭に当たったのが小石なのか。それを投げたのは誰か。UFOのような光と関係があるのか。いまも謎のままだ。
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プロフィール
成瀬魚交(なるせ・うこう)
1990年生まれ。東海大学探検会OB。学生時代はスリランカ密林遺跡踏査、秋田県民間信仰調査などの活動を行なった。現在は編集者・ライターとして各地の渓谷や不思議スポットを訪れたり、聞き書きなどで実話怪談を手がける。
登山者たちの怪異体験
太古の時代から、山は人ならざるものが息づく異界だった。そうした空間へ踏み込んでいく登山では、ときとして不可思議な体験をすることがある。そんな怪異体験を紹介しよう。
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