「なにかがおかしい・・・」。単独行中に突如訪れた“無音地帯”の怪奇
2024年6月に山と溪谷オンラインで実施した「山の心霊体験・不思議な体験に関するアンケート」では100件を超える回答があった。そのなかでも特に怖かった心霊体験について、「登山×心霊」をテーマに執筆活動を行なう成瀬魚交(なるせ・うこう)さんが、追加取材のうえ実話怪談としてリライト。第5弾は突如異界に入り込んでしまったような体験をしたNさんのお話。
文=成瀬魚交 写真=山と溪谷オンライン
人けの少ない山で単独行
Nさんは毎週のように山へ登っている50代の女性だ。夏は遠方にも行き、冬は八ヶ岳(やつがたけ)や北海道の旭岳(あさひだけ)など、本格的な雪山登山も行なう。
「車を持ってないので、ピストンがなかなかできなくって……。公共交通機関を使って、入山場所とは違う地点から下りる縦走がほとんどです」
縦走がメインということもあり、最近では体力づくりのためにトレイルランニングもはじめ、高尾山(たかおさん)の周辺などで毎週のようにトレーニングをしているそうだ。
「以前は、たとえば『関東で駅から行ける山100』みたいなガイドブックがあったらそこに載っている山に全部行く、みたいなことをしていました」
そうした山巡りをしていた時期、Nさんは関東の山で不思議な体験をしたのだという。
「その当時はおもしろいなあって思っただけだったんですけど、いまあらためて思い出していたら、なんだかとても怖い気がしてきました」
10年ほど前の3月某日。Nさんは山梨県の九鬼山(くきさん)を訪れた。大月市と都留市の境にある標高970mの低山である。山頂からは南アルプスや大菩薩嶺(だいぼさつれい)方面がよく見えるため、低山ながら人気がある。
大月駅から富士急行線に乗り、禾生(かせい)駅で降りて登り始める。その日の空模様は青一色の快晴で、絶好の登山日和だった。目の前に見える九鬼山には、2時間ほど登れば登頂できる。Nさんはそこから登山道を北側へ歩き、途中で西側の田野倉(たのくら)駅へ下りるという行程を組んでいた。
「途中まで全然、誰にも会わなくって、こんなにも人がいないのは珍しいくらいでした」
その日は平日だったため、たまたま人が少ない日だったのかもしれない。ただ、人の多い関東近郊でこれほどまでに人と会わないのは初めてだった。
「登り始めて30~40分くらい経ったくらいのときにようやく人とすれ違いました。3人組のおばちゃんたちで、やっと人に会った! って向こうも喜んでました」
その後、1人の男性ともすれ違ったが、それ以降はまた誰にも会わなくなった。山でひとりきりというのは心細いうえに、もし熊に遭遇したら・・・という嫌な想像も膨らむ。Nさんはスタスタと早歩きになっていった。
プロフィール
成瀬魚交(なるせ・うこう)
1990年生まれ。東海大学探検会OB。学生時代はスリランカ密林遺跡踏査、秋田県民間信仰調査などの活動を行なった。現在は編集者・ライターとして各地の渓谷や不思議スポットを訪れたり、聞き書きなどで実話怪談を手がける。
登山者たちの怪異体験
太古の時代から、山は人ならざるものが息づく異界だった。そうした空間へ踏み込んでいく登山では、ときとして不可思議な体験をすることがある。そんな怪異体験を紹介しよう。
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