秘境・川内山塊の最高峰が錦繍をまとうとき。粟ヶ岳ルポ
観光開発が進む日本の山岳エリアにあって、未だに秘境の趣を残すのが新潟県の川内(かわち)山塊だ。紅葉の季節を待って最高峰の粟ヶ岳(あわがたけ)をめざした。
文・写真=打田鍈一(トップ写真=粟庭から振り返る頂上稜線)
紅葉展望を求めて再び粟ヶ岳へ
新潟の山の紅葉は、関東の山々より格段に艶やかだ。2023年10月31日。34年前に天候に恵まれぬまま登った加茂コースの紅葉展望を求めてまたも足を運ぶ。10歳若年の仲間との二人旅で、77歳となっていた。
加茂市の宿に前泊し水源地を6時10分発。登山口から20分ほどで「中央登山道 粟ヶ岳に至る」と標柱が立ち、たどる尾根筋が見えてくる。標高716mのベンチのピークに出ると、めざす頂上稜線に見参だ。右手に守門岳が道連れとなる。それにしてもこんなに急だったか、と過去の記憶とのズレに当惑しつつの一本調子。地形図で見れば三条、加茂ともに登山口の標高は150mだからいずれも標高差は1143m。距離的にも似たようなもんだ。それなのになぜこうも急登が続くのかと、なんとも不思議。
左手に宝蔵山から越後白山への尾根が紅葉に包まれてせり上がる。鎖の岩場で立った粟庭のピークは、先ほどから気になっていた小さな鋭鋒だ。背後に出発点の水源地を見下ろすが、目前には壁のような紅葉斜面。登り着いた粟ヶ岳ヒュッテは古びていたが手入れが行き届き、ようやく山頂がターゲットに入った。登山口の1番から山頂の10番まで明瞭な道標が心強く、權ノ神岳、宝蔵山から越後白山への縦走路を分ける道標9の北峰に立てば、山頂はじきだった。
2年前と変わらぬ山頂、変わらぬ山岳展望ではあったが、カエデ、ブナ、ツツジなどの絢爛の紅葉は期待以上。20日間の違いは大きかったのだ。この日も山頂で1時間以上もの長居を楽しんだ。しかし輝く紅葉の美しさは下山時に極まる。行きは東へ登るので逆光線となり、めざす行く手はシルエット気味だ。しかし下りでは太陽を背にしているので、粟ヶ岳ヒュッテをちょこんと載せた紅葉燃える尾根と背景に薄青い弥彦山、角田山とのコントラストがみごと。粟庭から振り返る錦秋の急斜面を前景に、背後に連なる頂稜の存在感がクライマックスを飾った。
大当たりの紅葉と往復登山のメリットを存分に享受したが、今回も芍薬甘草湯とロキソニンにはお世話になり、駐車場で着替えなどするうち真っ暗になった。登り5時間10分、下り4時間35分と、34年前より登りで20分遅いのは齢相応だが、下りで1時間20分も遅いのは、それに加えて写真撮影に熱中したからだ。今日このコースの登山者は20名ほどか。登りも下りも追い越されどおしで、出発時も帰着時も駐車場には私の車だけだった。
三条燕ICに近い中華レストラン三宝での五目うま煮麺が、4回の粟ヶ岳山行で最高のシメとなった。
この記事に登場する山
プロフィール
打田鍈一(うちだ・えいいち)
1946年鎌倉市生まれ東京・中野育ち。埼玉県飯能市在住。低山専門山歩きライター。群馬県西上州で道なき薮岩山に開眼。越後の山へも足を延ばし、マイナーな低山の魅力を雑誌や書籍などで紹介している。『山と高原地図 西上州』(昭文社)を平成の30年間執筆。著書に『薮岩魂―ハイグレード・ハイキングの世界―』『続・薮岩魂 いつまでもハイグレード・ハイキング』『分県登山ガイド10 埼玉県の山』(いずれも山と溪谷社)、『晴れたら山へ』(実業之日本社)、『関越道の山88』(白山書房)のほか、『関東百名山』(山と溪谷社)など共著多数。
(プロフィール写真=曽根田 卓)
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