南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑧高知県の遍路道 区間ごとのアドバイス
弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。
写真・文=岸田 明 トップ写真=塚地峠から見た、宇佐の集落と青龍寺のある横浪半島の宇都賀山
目次
【区間2】第二十九番国分寺から第三十七番岩本寺 4泊5日公共交通の区切り:後免駅~土佐佐賀駅
後免駅からJR線に沿って東北へ進み、踏切で左折して第二十九番国分寺に向かう。国分寺はその名の示すように風格のあるお寺で、整然とした伽藍配置と美しい庭園、さらに立派な山門を誇っている。第三十番善楽寺(ぜんらくじ)参拝の後、重要文化財の土佐神社楼門を抜け南下する。第三十一番竹林寺(ちくりんじ)へは五台山の急な坂を、お砂踏み(ミニ八十八ヶ寺霊場めぐり)をしながら登る。牧野植物園内では小径も歩くので、ルートに注意が必要だ。海上交通の安全を祈願して建立されたという第三十二番禅師峰寺(ぜんじぶじ)からは、海の眺めがすばらしい。禅師峰寺を過ぎて平坦な道を行き、浦戸湾を渡船で渡る。
第三十三番雪蹊寺(せっけいじ)、第三十四番種間寺(たねまじ)とお参りし、仁淀ブルーの仁淀川大橋を渡り、高岡の町を抜けて第三十五番清瀧寺(きよたきじ)へ。南下に転じてしばらく行った塚地(つかじ)峠からは展望がすばらしく、ぜひ歩きたい旧遍路道だ。第三十六番青龍寺(しょうりゅうじ)への旧遍路道はザレた急登を登り、峠から長い坂を下る。里に降り、山門から中腹の本堂に登り返す。お参りの後の宇佐へと戻る海岸線からは、天気がよければこれまで歩いてきた室戸岬方向が見えるだろう。
宇佐(埋立)~横浪間はその日の出発地によるが、できれば巡航船を利用したい。なお横浪から須崎へは時間に余裕があれば、車の通行の少ない、光明峯寺(こうみょうぶじ)の岩不動尊を経由する、風物が楽しめる仏坂経由がおすすめだ。
須崎から第三十七番第三十七番岩本寺(いわもとじ)へは、焼坂(やけざか)峠と七子(ななこ)峠の2つの峠を越えるが、どちらの峠も登り坂が非常に荒れている。特に焼坂峠の荒れはひどく、山歩きに慣れていない人は国道を行ったほうがよいだろう。
七子峠へは有名なそえみみず(添蚯蚓)遍路道と、大坂遍路道の2ルートがある。そえみみずの登りはアップダウンが多くまた荒れているが、標高305mの肩を越え山道がトラバースになってからは特に問題はなくなる。一方、大坂遍路道は七子峠直前まではほぼ平地を歩き、最後が標高差300mの急登の山道になる。荒れた山道に不安があれば、興味をそそる名前の遍路道を歩くことは諦め、大坂遍路道がよいだろう。岩本寺(いわもとじ)までは仁井田米の名産地のおおらかな谷筋を、国道に絡みながらのんびりと下る。
岩本寺は窪川台地の上にあり、文字通りの下り一辺倒の片坂(かたさか)を下って、土佐佐賀で海岸線に出る。岩本寺から次の霊場・第三十八番金剛福寺までは遍路道最長で、約80kmある。区間途中の土佐佐賀あたりで区切りとし、その先の難関に備えた方がよいだろう。
●アドバイス
歩き遍路はまったく乗り物を利用してはいけない、ということはないと聞いている。考えてもみれば、弘法大師の時代に橋は少なく、当然渡し船に乗ったであろう。また断崖絶壁の海岸線に当時必ず道があったとも考えにくく、そのような区間は船を利用して移動したことも充分に考えられる。今回の区間においては以下の船の利用箇所がある。
【種崎(たねざき)渡船】浦戸湾を渡る航路は、県道の一部をなしている。1時間に1便、無料。長浜種崎間渡船は内海なので強風などでの欠航の可能性は低いが、陸路の浦戸大橋の登り口は港から離れているので、天候が微妙な場合は問い合わせるとよいだろう(高知土木事務所 道路管理課:088-882-8646)。なお浦戸大橋は細い歩道があるものの、大型車の交通量が多い。
【浦ノ内湾の巡航船】宇佐(埋立)~横波間。一日3便と本数が少なく、また埋立発の最終が14時50分なので、日没と須崎到着時刻をにらみつつ歩行計画を慎重に検討する必要がある。陸路では浦ノ内湾北岸道路と、青龍寺からそのまま西に行く横浪スカイラインの2本がある。
宿泊場所に関しては竹林寺は交通の便が悪いので、後免駅を昼前発の場合、時間は余るが五台山手前で泊まるか路面電車で高知市中心部に出る。高岡(土佐市)は大きな町だが、現在宿は1軒のみなので要注意。焼坂峠とそえみみず通過はそれほど長時間を必要とせず、須崎を早朝に出ればその日のうちに窪川の宿に問題なく到着することができる。
窪川から先の打ち止め箇所は、土佐佐賀駅か土佐入野駅が候補となる。
MAP&DATA
後免駅・・・第二十九番国分寺・・・逢坂峠・・・第三十番善楽寺・・・高知東消防署(周辺で宿泊想定)
【2日目】
高知東消防署・・・五台山登山口・・・第三十一番竹林寺・・・高速アンダーパス・・・第三十二番禅師峰寺・・・大平山トンネル南・・・種崎渡船場・・・長浜・梶ヶ浦渡船場・・・第三十三番雪蹊寺・・・第三十四番種間寺・・・新川大師堂・・・高岡(周辺で宿泊想定)
【3日目】
高岡・・・第三十五番清瀧寺・・・三島神社・・・塚地峠遍路道入口・・・塚地峠・・・宇佐大橋入口・・・第三十六番青龍寺・・・埋立・巡航船乗り場・・・横浪・巡航船乗り場・・・鳥坂トンネル・・・住友大阪セメント入口・・・土佐新荘駅(周辺で宿泊想定)
【4日目】
土佐新荘駅・・・安和駅入口・・・焼坂峠・・・久礼駅・・・そえみみず遍路道入口・・・そえみみず遍路道・・・七子峠・・・仁井田駅入口・・・道の駅あぐり窪川・・・第三十七番岩本寺(周辺で宿泊想定)
【5日目】
第三十七番岩本寺・・・片坂遍路道入口・・・いしん橋・・・市野々川橋・・・熊井隧道・・・土佐佐賀駅
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プロフィール
岸田 明(きしだ・あきら)
東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。
四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/歩き遍路旅の魅力と計画アドバイス
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