下山メシ、ドラマになるってよ。〜連載「下山メシのよろこび」原案者のひとりごと~

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文=西野淑子 写真=西野淑子、テレビ東京(ドラマ関連画像)


「『下山メシ』を原案としたドラマを作りたいとオファーがありました」

拙著『関東周辺 美味し愛しの下山メシ』の編集担当のS氏から、連絡を最初にいただいたのが2023年9月のこと。深夜の飯ドラマで定評のあるテレビ東京さんからのオファーで、たまたま拙著を手に取った監督さんが「おもしろい本がある」とプロデューサーさんに勧めたのがきっかけだという。にわかには信じがたかったが、その後いろいろなやり取りを経て企画が進み、撮影が行なわれ、まもなく初回の放送が始まろうとしている。

ドラマ『下山メシ』で主演を務める志田未来さん
©「下山メシ」制作委員会

ヤマケイ新書『関東周辺 美味し愛しの下山メシ』は、山と溪谷オンラインの連載「下山メシのよろこび」を書籍化したものだ。ライター西野が山から下りてきておいしい物を食べたことをつづったエッセイで、山と溪谷オンライン(当時はヤマケイオンライン)で連載がスタートしたのは2017年12月のこと。登山をテーマになにか連載をできないかと当時の担当者から問い合わせをいただき、下山後の立ち寄り食はどうかと提案したのだった。ランチや飲み、あとは当時マイブームだった下山後スイーツなども取り入れつつ、現在も継続中の連載だ。

お腹をすかせて山から下りてきて、軽く、あるいはがっつり食べて帰る。1人で、あるいは仲間たちと料理を待ち、食べながら今日の山行を振り返り、次回の山行に想いを巡らせる。私にとってはある意味当たり前の時間で、充実したいい山行ができたときほどおいしいもので、お腹と心を満たしたいと思う。下山メシは手っ取り早く、かつ間違いのない「自分へのご褒美」だ。

連載を、あるいは書籍を読んだ方から、ドラマ『孤独のグルメ』に似ているとよく言われる。

内容を寄せているつもりはないのだが、していることは基本的に井之頭五郎さんと同じだ。五郎さんは仕事でどこかの町に出かけ、仕事を終えて「腹が減った」と店を探して食事をする。五郎さんは店の下調べなどしておらず、そのときにピンときた店に入る。たぶん食材や調理法のうんちく、店の歴史などにこだわりはなく、おいしい物でお腹を満たして幸せな気持ちで店を出る。下山メシも同様で、山から下りて「腹が減った」と店を探して食事をする。そのときに食べたい物を食べてお腹を満たして、幸せな気持ちで帰途に就く。五郎さんとの違いは、こちらは必ずしも孤独にこだわっていない(=同行者と食事をすることもある)ことぐらいか。

ドラマ『下山メシ』と拙著『関東周辺 美味し愛しの下山メシ』の関係は、「原作」ではなく「原案」だ。「主人公が登山をし、下山後においしい物を食べる」というシチュエーションを提供し、ストーリーは完全オリジナル。主人公は私とは全く別の人間で、拙著に登場しない店があるし、登場する店でも主人公が食べる料理の大半は私が食べた料理と違っている。ドラマ化にあたり、制作者の皆さんが店を訪れて実際に食事をしてリサーチをしていた。打ち合わせのときに、下見で行った店や料理の写真を見せてもらったが、候補として訪れた店の多さ、食べた料理の量に圧倒された。こんなに熱量の高い人たちが作っているドラマがおもしろくないわけないだろう。嬉々として店のこと、料理のことを語り合ううちに、不安や疑念が信頼に変わっていった。

ドラマ『下山メシ』で主演を務める志田未来さん
予告映像でみねこが食べていたナポリタン。初めて食べるのに懐かしい、昭和を感じる味だった。どこのお店かはドラマを見てのお楽しみ

ドラマ化にあたり懸念していたのは「登山に関する描写」だった。

登山のルールや考え方としてよろしくない表現がないか。しかし、打ち合わせやその後のやり取りを通じて、登山に関する部分については非常にこまやかに調べ、配慮をして進めていることが分かった。お店のリサーチと同様に山の下見にも訪れておられたし、事前に脚本を読ませていただいて、気になるところはお伝えして検討をしてもらったりした。メインは食、登山のシーンは添え物・・・と思っていたが、登山の部分も真摯に丁寧に作り込んでいる。登山が好きな者のひとりとして、とてもうれしくてありがたいことだと思った。

ドラマ『下山メシ』で主演を務める志田未来さん
©「下山メシ」制作委員会

11月1日、番組の予告映像が解禁になった。

志田未来さん演じる主人公が、私の好きな店で食事をしている。なんておいしそうに食べるんだろう、なんて幸せそうに食べるんだろう。ああその階段、その登山道、私も歩きましたけど、一緒ですね、仲間ですね(たぶん違う)。何度も見返してはニヤニヤしている。きっと同じように、ああこの店で同じものを食べたとか、同じ山に登ったとか、やっぱ下山後はビールだなとか、予告映像を見ながらニヤニヤしている登山者たちがたくさんいるだろう。

初回放送は11月14日(木)の深夜。

登山を愛するたくさんの人たちに観ていただき、次の登山の帰りにはどこかでおいしいものを食べて帰ってほしい。登山のことをよく知らないたくさんの人たちに観ていただき、次の休みの日には山を歩いてみたいと思ってもらえたらうれしい。

さて、次の登山の帰りには、なにを食べて帰ろうか。

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プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きから沢登り、雪山登山まで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

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