山岳・風景写真の教科書 第8回 時を究める
今回は撮影のゴールデンタイムとマジックアワーについての解説です。太陽の方向と時間は密接に関係しているという基本事項を理解して、撮影に生かしましょう。
文・写真=菊池哲男
ゴールデンタイムとは
昔から風景・山岳撮影では朝夕をゴールデンタイムと呼んでいます。影が長く伸び、雲や山などが朝焼けや夕焼けに染まり、その色合いが刻々と変化する、撮影に絶好の時間です。
現地ではネットが圏外になることもあるので、事前に撮影予定場所での大まかな日の出・日没時間を調べておきましょう。また、地球は1日で1回転しますから24時間で360度、すなわち太陽や星は1時間で15度動きます。これらのことを頭に入れて、撮影スケジュールを立てましょう。
マジックアワーとは
日の出前と日の入り後のわずかな時間に不思議な色の空が見える時間をマジックアワーと言います。これは日の出前や日の入り後のうっすら明るい時間のことで「薄明」の一部の時間帯を指します。
薄明は、明るい順に「市民薄明」「航海薄明」「天文薄明」の3段階に分かれ、合計約1時間30分です。マジックアワーは日の出直前・日没直後の30分ほどのライトなしで行動できる時間帯「市民薄明」に当たります。太陽は地平線の下なので日差しによる影が出ず、柔らかな光になります。
薄明の時間帯にはブルーモーメントという深い青空が見られたり、太陽と反対側の空にピンクの帯「ビーナスベルト」とその下に「地球の影」が見られることもあります。
■ブルーモーメント
■ビーナスベルトと地球の影
太陽の方向と日照時間について
日本には四季があります。これは地球の地軸が約23.4度傾いていることによるものです。地球は太陽の周りを1年で1周しますから、北極が太陽側に傾いているときが夏、反対側に傾いているときが冬、自転軸が太陽と垂直になると春と秋ということになります。赤道上では厳密な四季がありません。
この季節の違いは太陽の南中高度の違いとなって現われます。夏は南中高度が高く、太陽は北寄りから昇り、北寄りに沈みます。冬は反対に南中高度が低く、南寄りから昇り、南寄りに沈みます。春分・秋分のころはほぼ東から昇り、西に沈みます。したがって夏は日照時間が長く、冬は短くなります。
今年の東京の夏至の日照時間は14時間34分、冬至の日照時間は9時間45分で、実に4時間49分もの差があります。春分、秋分のころは昼と夜の長さがほぼ同じで日照時間は約12時間です。つまり夏はトップライトの時間が長く、冬にはほぼトップライトの時間がありません。
北半球における地軸の傾きと季節の関係
(『山と溪谷』2024年12月号より転載)
プロフィール
菊池哲男(きくち・てつお)
写真家。写真集の出版のほか、山岳・写真雑誌での執筆や写真教室・撮影ツアーの講師などとして活躍。白馬村に自身の山岳フォトアートギャラリーがある。東京都写真美術館収蔵作家、公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。
山岳・風景写真の教科書
『山と溪谷』で2024年5月から連載の『山岳・風景写真の教科書』から転載。写真家の菊池哲男さんが山の写真を撮る楽しみをお伝えします。
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