南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑩愛媛県の遍路道 区間ごとのアドバイス

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弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。

写真・文=岸田 明 トップ写真=国道56号・内子線喜多山駅付近の景色。やはり春が遍路のベストシーズンであることに間違いはない

目次

【区間3】第六十四番前神寺~第六十七番大興寺(香川県)  3泊4日
公共交通の区切り:伊予氷見駅~観音寺駅

第六十四番前神寺(まえがみじ)はその寺名、石鉄(いしづち)山金色院前神寺とあるように、かつて石鎚山の別当だった霊場で、非常に立派なお寺だ。再建ではあるが、入母屋(いりもや)造りの神殿を思わせる本堂が特に美しい。また、なによりも隣には石鎚神社が鎮座しているので、ぜひそちらにも立ち寄りたい。

第六十五番三角寺の麓の三島までは、住宅地を抜ける非常に単調な道が続く。途中の延命寺(第五十四番と同じ寺名)は別格札所で、境内には、枯れてしまったが弘法大師お手植えとされる「いざり松」が大切に保存されている。

三角寺は標高350mにある山寺で、弘法大師が三角形の護摩壇を築いて祈念したのが寺名の由来だ。サクラが美しく、また小規模ではあるが第二十一番太龍寺を思わせる、厳かな雰囲気の境内がすばらしい。

三角寺を出た後はトラバース気味に高度を下げ、別格第十四番常福寺(椿堂)にお参りする。中央構造線に沿って東に歩き、国道から境目峠へと登る。歩道は左側で遍路道の登り口は右なので見落とさないように注意が必要。短い急登の後すぐに舗装道で、まさに徳島県との境となる境目峠になる。

第六十六番雲辺寺へは完全な登山なので麓に前泊し、佐野から山道の旧遍路道に入る。道は明瞭だが、稜線筋の林道まで1時間半程度は急登が続くので頑張ろう。雲辺寺は大きな霊場で、左に見える境内にすぐ入らずにまっすぐ仁王門に向かう。

門の手前からは、四国山地方向のすばらしいパノラマが広がる。剣山(つるぎさん)はその山並みの奥に位置し、残念ながら見えない。遍路道は剣山の結界なので基本的に霊場からは見えない、と主張する歴史家もいるが、筆者の検証した範囲では唯一、高知県にある第三十六番青龍寺(しょうりゅうじ)の浜からは確認することができた。

〉雲辺寺の仁王門手前からの四国山地のパノラマ
雲辺寺の仁王門手前からの四国山地のパノラマ。右の美しい三角形が中津山。左のスカイラインが複雑になっている左端の三角形が矢筈山で、剣山はその奥に隠れている

続く香川県側の第六十七番大興寺への下りは、全道が山道で滑りやすいので注意。大興寺は田園の中にあり、カヤとクスノキの大木が茂る森に囲まれた心静まる霊場だ。観音寺駅まではひたすらロードを歩く。なお観音寺駅はその名の通り第六十九番観音寺のある駅だ。観音寺と神恵院(じんねいいん)のお参りは、駅の到着時刻と次回のスタート可能時刻を合わせて考えればよいだろう。帰路は観音寺駅からJRか、あるいは高松空港へのリムジンバスがある。

〉大興寺の境内にあるクスノキの大木
大興寺の境内にあるクスノキの大木

●アドバイス
本区間ではルート選択に迷う箇所は少ない。ただし前神寺から三角寺間は長い住宅地を歩くので、いささか単調である。方法としては前神寺から中萩駅までは山沿いの道を歩けば、田園風景を味わうことができて、気分が紛れるだろう。その先も山沿いの道はあるが、かなり遠回りか高速道路脇なので、筆者はあまり気が進まず歩いたことはない。本区間・三角寺への登り口までは標石も里にあるのでそれに従って一般道を歩くが、所々にある小さな寺社をお参りして気分を紛らわせるとよいだろう。

本区間の最大かつ唯一の課題は全霊場で最高高度の雲辺寺で、まず宿に関しては、登り口の佐野には遍路宿は1軒しかない。ただしここも第二十番鶴林寺(かくりんじ)のケースと同じで、徳島県の三好市池田から車で送迎してくれる遍路宿があるので、非常に助かる。

〉佐野の雲辺寺遍路道入り口
佐野の雲辺寺遍路道入り口(池田方向から撮影)

第二の課題は雲辺寺をどのルートから登るかで、ほとんどの遍路は南麓の佐野から登っている。ただしもう1本、七田橋(しちだばし)から入る曼陀(まんだ)峠越えがある。曼陀峠は歴史ある峠で、味わいもあり一度は歩いてみたい道だ。曼陀峠へは七田橋から20分ほど山道を登り、以降は緩やかな起伏の、長い舗装道の林道を歩きが中心になるが、所々で展望が楽しめる。

七田橋、佐野どちらからの入山でも七田橋から雲辺寺までの所要時間に大差はないが、伊予三島を朝出て三角寺と雲辺寺越えを合わせて1日で歩ききるのは厳しいので、曼陀峠を考える場合は境目峠の西側で宿泊する必要がある。

〉曼陀峠にある説明板
曼陀峠にある説明板

MAP&DATA

高低図
最適日数:3泊4日
コースタイム: 25時間0分
行程:【1日目】
第六十三番吉祥寺・・・第六十四番前神寺・・・西条駅入口・・・上室川橋・・・渦井川橋・・・新居浜中村郵便局・・・国領川橋(周辺宿泊想定)

【2日目】
国領川橋・・・関ノ戸大師・・・関川郵便局・・・延命寺・・・桧木川・中津橋・・・土居料金所アンダーパス・・・伊予寒川駅入口・・・伊予三島寒川郵便局・・・四国中央警察署南・・・伊予三島駅(周辺宿泊想定)

【3日目】
伊予三島駅・・・四国中央警察署南・・・戸川公園・・・ひびき休憩所からの遍路道合流点・・・第六十五番三角寺・・・堀切峠分岐点・・・ゆらぎ休憩所・・・常福寺(椿堂)・・・境目峠遍路道入口・・・境目峠・・・境目峠遍路道出口・・・佐野・雲辺寺遍路道入口(周辺宿泊想定)

【4日目】
佐野・雲辺寺遍路道入口・・・尾根上・・・尾根・・・林道・・・第六十六番雲辺寺・・・分岐・・・一升水・・・粟井ダム遍路道出口・・・白藤大師堂・・・観音寺こて絵休憩所・・・第六十七番大興寺・・・高速道路アンダーパス・・・観音寺駅
総歩行距離:約87,200m
累積標高差:上り 約1760m 下り 約1772m
コース定数:90
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プロフィール

岸田 明(きしだ・あきら)

東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。

四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/

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