春の陽光に誘われ、宝探しの山旅へ。ルポ・高尾山とサクラ【山と溪谷3月号】
雑誌『山と溪谷』2025年3月号の特集は「春、花の低山へ」。春の訪れを告げるカタクリ、ニリンソウなどのスプリング・エフェメラル。山を華やかに彩るサクラ、ツツジ……。自然の息吹を感じるこんな季節には、のんびり花を楽しめる低山がおすすめ。春の花を愛でる、あの花に会える、ぽかぽかハイキングコースを多数紹介している。特集の中から、高尾山(たかおさん)でサクラを楽しむルポを紹介しよう。
構成・文=西野淑子、写真=矢島慎一
東京都のオアシス・高尾山から城山へ。満開の桜と多彩な草花がちりばめられた縦走路
ガイドブックや雑誌の取材、ハイキング講座の引率、あるいはぽっかりと休みができた日に。高尾山は年に数回訪れる。春夏秋冬、いつ歩いても発見があり、楽しみが尽きない山だと思っているが、歩いていて私が喜びを感じるのは春だ。
春の山は楽しい。咲き乱れる花木や草花。針葉樹の濃い緑と広葉樹の芽吹きの淡い緑、ヤマザクラの淡いピンクで山の斜面がだんだらに彩られているのを見るのが好きだ。道端を見守りながらゆっくり歩き、お目当ての小さな草花を見つけるとうれしい。春の低山歩きは私にとって「宝探し」のようなものだ。
今回はサクラを目当てに高尾山から城山(しろやま)への縦走登山。案内役として同行してくださるのは、山岳ライターの先輩、石丸哲也さん。知識豊富な石丸さんとなら、きっとたくさんの「宝」に出会える。ワクワクしながら高尾山口駅に降り立った。
高尾山口駅から川沿いを進んで6号路の入り口をめざすが、さっそく道沿いのカエデが小さな花火のような花をつけているのを見つけて足が止まる。間近で見ると愛らしい。
6号路に入るとさらに歩みがゆっくりに。花の色や葉の形が違うスミレがいくつも現われる。高尾山はスミレ類の種類の多さでも知られる。「これはタチツボスミレ、最もポピュラーなスミレですね。こちらはナガバノスミレサイシン、名前のとおり葉が細長いんですよ」。石丸さんの説明がわかりやすい。
琵琶滝(びわたき)から急な道を進み、1号路に上がった。薬王院(やくおういん)を経由して山頂に向かう道沿いに咲いているのは、青くてかわいい姿のヤマルリソウ、小さいブラシのような姿のヒトリシズカ、うつむいて咲く白い花が可憐なチゴユリ。いつもは急ぎ足で歩いてしまう1号路の道中で、こんなにたくさん草花が見つけられるのか。うれしい驚きだ。
薬王院のサクラはちょうど見頃、階段を登っていくとミツバツツジもたくさん咲いている。サクラとミツバツツジ、濃淡のピンクの競演がなんともぜいたくだ。奥の院の階段を登り、山頂をめざす。山頂直下で、3号路方面へ分岐する道の脇に寄り道。例年はここでシュンランが見られるのだ。今年もひっそりと咲いていた。その近くにジュウニヒトエの姿も。「今年も出会えたね、ありがとう」と呟く。
高尾山の山頂は多くの人でにぎわっている。サクラは満開、青空に淡いピンクの花がよく映える。展望ポイントの大見晴園地(おおみはらしえんち)に足を運ぶ。天気はよいのはいいが気温が高いせいか、富士山は薄い雲の中に隠れてしまっている。それでも大山(おおやま)や大室山(おおむろやま)など丹沢(たんざわ)の山々はきれいに見渡せた。
道の両側にサクラが咲き乱れる、高尾山から城山へ向かう尾根道を「春のビクトリーロード」と勝手に呼んでいる。もみじ台の細田屋さんに立ち寄り、サクラを眺めながらそばをいただき、先へ進む。
赤みを帯びた葉をつけたヤマザクラがところどころに現われる。青空にサクラの淡いピンクはよく映える。2024年は気候のせいか、花木の開花がやや遅く、一方で木々の芽吹きは少し早く、ヤマザクラの花と木々の芽吹きが同じタイミングだった。新緑とサクラが両方楽しめるなんてぜいたくだなあ、当たり年だなあと思いながら歩く。
一丁平(いっちょうだいら)からゆるやかに尾根道を登り、本日最後のピーク、城山へ。ここもまた山頂一帯にサクラが咲いている。山頂直下はハナモモやサラサモクレン、レンギョウなどの花木がたくさん開花している。白、濃淡のピンク、黄色、春の花木は色とりどりでにぎやかだ。石丸さんおすすめの城山茶屋でこだわりの甘酒をいただいた。疲れかけた体に、滋味豊かな甘酒がじんわりと効く。
城山からの下山は、花好きハイカーならみんな好き、と言われる日影(ひかげ)林道。下り始めてほどなく、道沿いのヤマザクラが午後の日差しを浴びて葉と花がキラキラ輝いている。赤っぽい若葉の輝き方が金箔の細工みたいで不思議だ。
道が沢沿いにさしかかると、石丸さんがなにかを探し始めた。「このあたりで、タカオスミレが見られるんですよ」
タカオスミレは、やや細長く黒紫色を帯びた葉が特徴。石丸さんに教えていただき探してみる。葉は多く見つけられるのだが、花がなかなか見つからない。腰を落とし、地面を注意深く眺めながらゆっくり歩く。そしてとうとう見つけた! 知らずに歩いたら、急ぎ足で歩いたら、絶対に見つけられない、小さくて貴重な宝物。
幸せな気持ちで沢沿いを下っていくと、最後に現われたのはニリンソウの花園だ。群生のなかを突っ切る散策路、花の山旅のフィナーレにふさわしい。標準コースタイムの倍近い時間をかけ、夕方に日影バス停にたどり着いた。今日の「宝探し」は大成功。すてきな一日に感謝。
(取材日=2024年4月14日)
立ち寄り情報
高尾ビジターセンター
高尾山の歴史や自然をわかりやすく展示解説するほか、登山道や見られる動植物の情報も提供する。ネイチャーショップではバッジや手ぬぐいなどのオリジナルグッズも。
| 営業時間 | 10〜16時(月曜休) |
|---|---|
| 入館料 | 無料 |
| TEL | 042-664-7872 |
細田屋
高尾山から縦走路を歩いて約10分、奥高尾・もみじ台に立つ素朴なたたずまいの茶店。山菜そばやとろろそばなど、そばの種類が豊富。なめこ汁やみそおでんなども美味。
| 営業時間 | 11〜14時(不定休) |
|---|---|
| TEL | 042-659-2646 |
城山茶屋
城山山頂に立つ茶店。店の前のテーブルでゆっくり休憩できる。奥高尾名物のなめこ汁や、新潟の酒蔵から酒粕を取り寄せて作る本格派の甘酒などが人気。夏はかき氷も名物。
| 営業時間 | 9〜17時 ※変更あり(土休日営業) |
|---|---|
| TEL | 042-665-4933 |
富士山の眺望を楽しみ、サクラが彩る尾根道へ 高尾山(たかおさん)599m
見頃:4月上旬〜4月中旬
一年を通じて登山者が訪れる高尾山。春は山頂周辺や、高尾山から城山へ向かう道中のサクラが美しい。山頂に向かうルートは複数あるが、今回は草花や花木の花見をテーマに、高尾山から城山へ縦走し、草花の宝庫として人気が高い日影林道を下る。
まず6号路に入り、琵びわ琶滝から1号路に向かう道を登る。1号路は山頂までコンクリート舗装がされて歩きやすい。高尾山の山頂広場はソメイヨシノやヤマザクラの大木も多い。南側の大見晴園地で富士山や丹沢の山々の眺望を楽しんだら、西方向へ延びる縦走路へ。道の両脇にヤマザクラが見られるようになる。サクラが密集して美しいのは一丁平園地周辺。ベンチやテーブルもある。
城山の山頂はサクラに彩られ、周辺にはさまざまな花木が咲き乱れて美しい。景色を充分に楽しんだら日影林道へ。下り始めは高尾山や関東平野の眺めがよく、後半はニリンソウやスミレ類などの草花が楽しみだ。キャンプ場管理棟の建物を過ぎ、日影バス停をめざす。
MAP&DATA
(『山と溪谷』2025年3月号より転載)
この記事に登場する山
プロフィール
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。
雑誌『山と溪谷』特集より
1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。
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