憧れの北海道の百名山。美しい9山を一挙に紹介!【山と溪谷1月号】
雑誌『山と溪谷』2026年1月号の特集は『美しき日本百名山』。本州以南に住む登山者は、北海道の百名山に行くことを夢見ていたり、最終目標になっている人は多いのではないでしょうか。絶賛発売中の1月号から全9山の紹介です。
十勝岳(とかちだけ) 2077m 大地から感じる地球の鼓動と可憐な命
日本最大級の面積を誇る大雪山(だいせつざん)国立公園の南端に位置し、今も噴煙を上げる活火山。最後に噴火したのはわずか36年前。火山礫に覆われた荒涼とした山肌は、地球のエネルギーをむき出しにしたような迫力をもつ。100万年以上前の大規模な火砕流堆積物が基盤となっており、ジオパークにも認定され、地面が石英でキラキラと光ることで知られている。一方で、夏には麓を中心にエゾイソツツジやイワブクロ、メアカンキンバイなど火山ガスに強い高山植物が咲き、厳しい環境に宿る生命の美しさを感じさせる。
山頂からは「北海道の屋根」と呼ばれる大雪山の山々や、美瑛(びえい)の丘、富良野(ふらの)盆地の雄大なパノラマが広がる。下山後には、温泉入浴スポットも点在し、体の疲れを癒やせる。
文・写真=大塚友記憲
利尻山(りしりざん) 1721m/南峰 北の離島にそびえる孤高の霊峰
日本海に浮かぶ利尻島の中央にそびえる利尻山は、海上に孤高の姿を見せる成層火山。利尻は先住民族のアイヌ語で「高い峰のある島」という意味。均整の取れた円錐形の山容は「利尻富士」とも称され、島のどこからでもその存在感を放つ。山腹にはハイマツ帯や高山植物が広がり、海風に揺れる花々が彩りを添える。リシリヒナゲシやボタンキンバイ、リシリリンドウなどの固有種も多く、特に九合目付近にはお花畑が広がり、登山者を魅了する「花の百名山」の一峰でもある。山頂からは三六〇度の大展望が広がり、サハリンまで見渡せる日もある。冬はこの山の地形を生かしたバックカントリースキーやスノーボードが人気で、多様な谷や尾根を海に囲まれた絶景の中で滑れる聖地の一つだ。
文・写真=大塚友記憲
羅臼岳(らうすだけ) 1660m 希少種が多数生息する知床半島の名峰
知床(しれとこ)半島にある火山群の主峰で、アイヌ語名ではチャチャヌプリであり「親爺(おやじ)山・老いた山」を意味する。その秀麗な山容から知床富士とも呼ばれている。山頂からは知床連山が連なり、地の果て、大地の先端を意味する「シレトコ」の名にふさわしい風景が広がる。
足を延ばして、硫黄山(いおうざん)までの絶景の縦走路は少し覚悟が必要だが、訪れる価値はある。羅臼岳の周辺には、知床連山が望める知床五湖や羅臼間歇泉があり、シマフクロウ、オオワシなどの希少種が生息する。写真の羅臼湖・三ノ沼は知床国立公園にあり、湿原に高山植物が咲く楽園のような場所だ。
ただし現在は、羅臼岳で発生したヒグマによる人身事故を受けて、羅臼岳および硫黄山の登山口は閉鎖されている。
文・写真=大塚友記憲
斜里岳(しゃりだけ) 1547m 知床連山や摩周湖などのパノラマが広がる
知床(しれとこ)半島の付け根にある火山。アイヌ語名はオンネヌプリであり「大きな山・年老いた山」を意味し、オホーツク富士、斜里富士とも呼ばれる。
山頂からは知床連山、摩周湖(ましゅうこ)、屈斜路湖(くっしゃろこ)など北海道東部のパノラマが雄大に広がり、国後島(くなしりとう)も見渡せる。
登山道は沢登り主体でいくつもの滝が現われる旧道と、尾根を通る新道がある。旧道は沢の徒渉や岩場の登行が必要とされる中級者以上向けで、特に下山路には新道の利用が推奨される。
登山適期は6月下旬の山開きから、紅葉の美しい9月下旬。麓からの山容も美しく東西南北どの方角から見てもすばらしい。特に新緑の季節、秋の紅葉、厳冬期、摩周湖の第一展望台からの斜里岳は絶景である。
文・写真=前川 悟
阿寒岳(あかんだけ) 1499m/雌阿寒岳 独立峰の雄阿寒岳と火山地形広がる雌阿寒岳
北国らしいうっそうとした針葉樹林のなかにたたずむ阿寒(あかん)湖。その神秘的な湖面を挟んで東西に対峙するのが雄阿寒岳(おあかんだけ)と雌阿寒岳(めあかんだけ)だ。『日本百名山』では併せて阿寒岳と紹介されるが、それぞれ独立した別の山である。
雌阿寒岳は遠目には柔和な印象を受けるものの、雄阿寒岳より100m以上高い。山頂一帯は天地創造の言葉を連想させる茫漠とした火口群が広がっている(2025年11月現在、噴火警戒レベル2発令中で立ち入り規制中)。
一方の雄阿寒岳はすっくとした山容が美しい独立峰。登山道は1本で、五合目までひたすら我慢の急登が続く。そこを抜けると一気に展望が開け、山頂部の複雑な火口地形や山裾に点在する湖、噴煙たなびく雌阿寒岳を見渡せる。
文・写真=長谷川 哲
トムラウシ山 2141m 眺めても登っても奥深い大雪山(だいせつざん)系のラスボス的存在
表大雪(おもてだいせつ)と十勝連峰(とかちれんぽう)の中間、広い大雪山系のど真ん中に鎮座し、どこから眺めても遠い山である。しかし、王冠のような山頂部のシルエットと重厚な存在感はひと目でそれとわかるもので、この山域の盟主と呼ぶにふさわしい。山上には南沼や北沼などの湖沼群や広々としたお花畑、ロックガーデンが展開し、はてしない山並みを借景に自然庭園の趣が漂う。
その魅力を存分に堪能するには、大雪山や五色ヶ原(ごしきがはら)方面から縦走するのがおすすめだ。ただし、山中1~3泊のテント泊が必要なうえ、近年はヒグマの出没も懸念されており、少々ハードルが高い。一般的にはトムラウシ温泉から短縮コースと呼ばれるルートを日帰りする人が多いが、それでも往復10時間弱の行程。周到な準備と的確な判断で臨みたい。
文・写真=長谷川 哲
大雪山(たいせつさん) 2291m/旭岳 おおらかな山並みと雪渓、そして一面の花々
東西・南北それぞれ約60㎞にわたる大雪山系。そのほぼ中心に位置するのが大雪山だ。もっとも大雪山という単独のピークはなく、最高峰の旭岳(あさひだけ)をはじめ北鎮岳(ほくちんだけ)、白雲岳(はくうんだけ)などの山々を総称したものである。広大な溶岩台地にお椀を伏せたような山々=溶岩円頂丘がいくつも並び、夏でもさまざまな雪渓模様が描かれる様子はいかにも北海道らしい。さらに約360種といわれる高山植物の豊富さも特筆すべきものである。特にチングルマやツガザクラ類など単一種が形成する大規模なお花畑はこの山域の特徴で、壮観のひと言だ。
百名山目的の人は旭岳のみの往復が多いようだが、コースは豊富にある。この山の懐深さに触れるには縦走や周回など余裕ある行程がおすすめだ。
文・写真=長谷川 哲
幌尻岳(ぽろしりだけ) 2052m 山紫水明の深き山の頂に抱かれる
海から山岳まで連続した南北およそ140㎞に及ぶ山脈を中心とした日本最大(陸域)の国立公園にあり、日高山脈(ひだかさんみゃく)では唯一の2000m峰。アイヌ語で「ポロ」は大きい、「シリ」は山を意味し、周辺は複雑な地形の峰々、麓には深い森が広がり、北海道屈指の原生環境が残っている。また、氷河期の名残とも言える3つのカール(七ツ沼カール、北カール、東カール)も特徴的で、7〜8月の短い夏にはエゾノハクサンイチゲやハクサンチドリなどの高山植物で覆われている。メジャーな額平(ぬかびら)川コースからは、林道を経て徒渉を何度も繰り返す沢を通過してからの登山となるため、百名山の中では剱岳(つるぎだけ)と並び難関コースと言われているが、人けの少ない静寂さと豊かな自然を五感で存分に味わえる。
文・写真=大塚友記憲
羊蹄山(ようていざん) 1898m 美しいフォルムの成層火山植生も一見の価値あり
その美しいフォルムが人々を魅了する羊蹄山(ようていざん)。比羅夫(ひらふ)登山口から山頂部までの植生は、国の天然記念物に指定されている。選定理由は、典型的な成層火山に、植生が明確に垂直分布していることが、学術的価値が高いためと考えられている。
羊蹄山を登れば針広混交林の森からダケカンバを中心とした亜高山植生、お花畑の広がる高山植生へと変わっていく様子がよくわかる。特に7月上旬ごろに山頂部で咲くエゾノツガザクラの花色の濃さは一見の価値がある。羊蹄山には、近似種で白い花を咲かせるアオノツガザクラが存在せず、薄ピンクの花が咲く交配種(雑種)が生まれないからだ。
比羅夫コースは、夏の日差しを浴びずに登れるが、標高差は1550mもあり、早朝の出発が必要となる。
文・写真=古市竜太
(『山と溪谷』2026年1月号より転載)
プロフィール
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。
雑誌『山と溪谷』特集より
1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。
こちらの連載もおすすめ
編集部おすすめ記事

- 道具・装備
- はじめての登山装備
【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

- 道具・装備
「ただのインナーとは違う」圧倒的な温かさと品質! 冬の低山・雪山で大活躍の最強ベースレイヤー13選

- コースガイド
- 下山メシのよろこび
丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

- コースガイド
- 読者レポート
初冬の高尾山を独り占め。のんびり低山ハイクを楽しむ

- その他
山仲間にグルメを贈ろう! 2025年のおすすめプレゼント&ギフト5選

- その他