八甲田山 大岳 スノーモンスターに出逢いにゆく【山と溪谷12月号】
八甲田山の冬の名物スノーモンスター。関西・関東からはるばる会いに行く価値はとってもあります! そんな八甲田山をスノーシューで歩いたルポを『山と溪谷』2025年12月号から転載します。
構成・文=阿部 静 写真=宇佐美博之
冬山の楽しみ方はさまざまあるが、真っ白に雪化粧した山に登ることは、なにより冬の醍醐味だと私は思う。
雪山は無雪期にはない魅力がたくさん詰まっている。ほんのり雪が付く関東の身近な山から豪雪地帯の山、厳冬期の高山などいろいろな山に登ったが、どの雪山も魅力的で、季節やその日の天候、年によってもまったく違った景色になるので何度訪れても飽きることがない。また、毎年のように新しい雪山にも出合いたくなる。
右 真っ白な雪原に走るアニマルトラックが時折見られる
そして今回、新たに出合いに行った雪山は八甲田(はっこうだ)山。“スノーモンスター”と呼ばれる巨大な樹氷群が有名で、この景色に出合ってみたいと思ったのだ。
車を10時間走らせて、遠路はるばるやってきた。辺りには硫黄臭が混じった酸っぱい匂いが漂っている。温泉好きにとっては非常にかぐわしい香りだ。登る前から下山後の楽しみに思いをはせながら酸ヶ湯(すかゆ)温泉登山口へと向かった。
真っ青な空が美しい冬晴れの朝。前日の夜に雪が降ったため森の木々は薄く雪を纏い、まるで満開の白い花のようだ。森に日が差し込むと雪の花々はきらきらと輝き、より美しく咲く。日が高く昇ればいずれ消えてしまう儚い景色だからこそ、目にしっかりと焼き付け、写真に収めたくなってしまうのだろう。
降りたての雪をスノーシューで踏みしめる感触を楽しみながら、ダケカンバの森をゆく。まばゆい景色を堪能しながら歩いていると、あっという間に森を抜け、視界が開けた。広々とした沢地形が現われ、その先にめざす山がのぞいた。斜面に立つ木々は小振りながらも樹氷のように見える。この沢筋を抜けたら一体どんな景色が現われるのだろう。私の期待値は一気に上昇し、心が躍り出す。
早く出合いたいがために少々足早になりながらも沢地形を登りきると、強い風に煽られた。冷たい風によって一気に体が冷やされる。急いでハードシェルとグローブをはめて辺りを見回すと、そこはシュカブラが波打つ真っ白な砂漠のような大地。絶え間なく吹く風により雪の表面は氷のように硬くなり、風のかたちを印すように紋様が描かれている。気候と地形によってつくり出されたその景色は美しかった。しかし硬く段々になったシュカブラの雪面をスノーシューで登るのは少し厄介だ。斜面に対して垂直にスノーシューを置くと滑ることがあるので、所々でシュカブラに対して足を並行にしながら着実に登ってゆく。
シュカブラの強風地帯を抜けると、ついに現われた。だだっ広い雪の大地にモコモコとした雪のオブジェが無数に生えているではないか。至るところににょきにょきと生えた樹氷群は、なんだか生きもののようにも見えてくる。異世界に来てしまったような不思議な感覚を覚えながら、どこまでも広がっているように思える大地をひたすら歩いていた。
雪原散策を充分に味わったところで八甲田山の主峰である大岳(おおだけ)に挑む。序盤の雪質は程よく締まり、傾斜もなだらかで登りやすいが、標高が上がるにつれて雪は硬くなる。傾斜も急になってきたのでスノーシューのかかとについたヒールリフターを立ち上げて登りやすくする。
山頂直下まで登ると雪面がガリガリになった氷の世界。たくさんの登山者が先行していたためトレースはしっかりとあり登りやすいが、もはやスノーシューではなくアイゼンのほうが適しているように思う。途中までは所々に点在する樹氷を縫うように登ったが、山頂に近づくと木々はなくなり、またしてもシュカブラの砂漠的風景と、一方向に雪が積み重なった、いわゆるエビノシッポを織り交ぜたような景色が広がっていた。この日は風がなく穏やかだったが、この状景が強風の日々を物語っていた。
大岳山頂からの景色はすばらしかった。南側には台形の硫黄岳(いおうだけ)が目の前に堂々とそびえ、その奥には南八甲田の山々が見下ろせる。北側にはなんと陸奥(むつ)湾が見えた。そして東側にはびっしりと樹氷群に覆われた小岳(こだけ)が見えるではないか。これはもしかしたら、大岳よりも小岳のほうが見ごたえがあるのかもしれない。それに気付き、すぐさま小岳へと向かった。
大岳を下り小岳へとまわると、私の予想は的中した。そこには自分の身長をはるかに超えた巨大な樹氷群が立ち並んでいる。土台となっている木はアオモリトドマツだ。この木自体が最大40mにもなる非常に背の高い木であるが、その原形が想像できないほど異様な形に変化している。日本海から上がってきた湿った空気により、冬は絶え間なく雪が降り続けるのだろう。そこへ北西側から吹く強烈な季節風も加わって幾重にも雪が積み重なり、削られ、融解と氷結を繰り返し、複雑な形を織り成してゆく。こうして厳しい冬を越えて立派に成長した姿は、まさしくスノーモンスターだ。八甲田に棲む雪の怪物に、ついに出逢ってしまったのだ。
(山行日程=2025年3月10日)
スノーシューのレンタルをするなら
スノーシューハイクを体験するならレンタルを活用しよう。モンベル弘前店ではレンタルを行なっているので八甲田山への道で立ち寄って借りるのがおすすめ。+500円で他店舗での返却も可能。数に限りがあるため予約してから向かおう。レンタル後、スノーシュー購入時にモンベルポイントがつくクーポンをもらえる。

モンベル弘前店
| 所在地 | 青森県弘前市高崎2-15-1 さくら野弘前別館ラフォルテ1階 |
|---|---|
| 問合せ | 0172-29-1820 (営業時間:10~20時 年中無休) |
| 料金 | スノーシューレンタル1日4,200円~ |
MAP&DATA
アドバイス:年によって積雪状況が異なるため樹氷のベストシーズンは一概には言えないが、例年1月~3月上旬に見ることができる。日によっては強風のため、特に厳冬期、大岳山頂へ登る際は注意が必要。また降雪があるとトレースは消えてしまうため、道迷いに気をつけたい。
(『山と溪谷』2025年12月号より転載)
この記事に登場する山
プロフィール
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。
雑誌『山と溪谷』特集より
1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。
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