ミツマタの花越しの富士山を眺めに丹沢・ミツバ岳へ――。黄色の絨毯の先に見えたものは?

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3月中旬から4月上旬に、斜面を独特の景色で染めるミツマタ。黄色の絨毯の先に雪景色の富士山を眺める――、そんな絵葉書のような風景を見るために、自然・植物写真家の髙橋修氏は丹沢・ミツバ岳に向かったのだが・・・。

文・写真=髙橋修


前回のコラムではミツマタについて書いたが、書いているとミツマタの花を見たくなって、西丹沢のミツバ岳に登った。この山は月刊誌『山と溪谷』2025年3月号の表紙のような景色を楽しめる。富士山を背景に咲くミツマタ……。うん、これが見たい。

『山と溪谷』2025年3月号の表紙は、ミツマタ越しの富士山だった

登山口近くの丹沢湖畔の駐車場から出発する。登山口は滝壺橋。登り始めるとすぐにミミガタテンナンショウが迎えてくれる。

ミツバ岳登山口から登り始めると、ミミガタテンナンショウが迎えてくれた

スギの植林地から丹沢湖を望む

スギとヒノキの植樹帯を少し登ると、もうミツマタが出てきた。スギはもう花粉を出し切ってしまったようで、スギ花粉のアレルギー症状が出なかったのが花粉症の私には幸いであった。

急斜面ではあるが、歩きやすいように登山道がジグザグに付けられている。途中でミツマタの群生地に出ると、ミツマタの優しい花の香りに包まれた。

ミツバ岳の登山道にはミツマタがたくさん咲いていた

前回、「ミツマタは斜面の下から見ると花の正面で黄色に見え、見下ろすと白っぽく見える」と書いたが、ここミツバ岳でもその通りであった。

しかし、数本のミツマタの木は上から見下ろしても、黄色に見えるものもあった。よく見てみると、このようなミツマタは花付きがとてもいい木であった。花付きのよいミツマタは、花が多すぎ、下だけ向いている花だけでなく、仕方がなく上を向いている花も多いのだった。それで上から見ても黄色く見えたのだ。このようなミツマタは、たいてい日当たりがよい場所に生えていた。

ミツマタの花のアップ(写真左)、花裏から見ると白く見える(写真右)

山頂が近づいてくると、落葉樹のカエデ類やシデ類ばかり生えている、白い幹の林に出た。明るくてすばらしい。明るい太陽の光を受けて、フデリンドウとオニシバリの花が咲いていた。

日当たりの良い場所でフデリンドウ(写真左)とオニシバリ(写真右)が咲いていた

ミツバ岳山頂に到着すると、ここにも黄色いミツマタの花が咲いていた。残念ながら、この日は大量の黄砂が飛んでいてほとんど展望はなく、わずかに丹沢湖周辺の山が見えていただけ。富士山はまったく見えなかった。『山と溪谷』2025年3月号の表紙のような、富士山を背景に咲くミツマタ群落の景色は見られなかった。

ミツバ岳の山頂に到着。残念ながら富士山の展望はなかったが……

満開のミツマタの花が迎えてくれた

残念ではあるが、これも自然である。それでも、ミツマタはきれいだった。ちょうど花は満開で、わずかに蕾が残っていた。また行こう。山は逃げない。

ミツバ岳から下山したあとに編集部に確認したところ、なんと「山と溪谷3月号」の表紙の撮影地は別の場所だった。黄砂の影響がなくとも、あの景色は見られなかった、ということだ。思い込みと、調査不足。私自身の失敗であった。されども幸いだったのは、ミツバ岳がいい山だったことであった。

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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