南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑬結願のその先へ
弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。
写真・文=岸田 明 トップ写真=夜の高野山・根本大塔
高野山へのお参り
満願後、霊山寺発で高野山にお参りする場合の交通手段やルートは数多く存在する。歩き遍路を継続する場合は、徳島港まで歩きフェリーに乗って和歌山へ、上陸後歩いて紀の川(きのかわ)から三谷坂(みたにざか)・町石道(ちょういしみち)を登り、高野山・奥の院にお参りするのが伝統といわれている。ただしこのルートだと、日数を要してしまうのも事実だ。忙しい現代人として公共交通手段の最大限利用を考えると、主な選択肢は、
1.板東駅~(JR高徳線)~徳島駅~(市営バス)~徳島港フェリーターミナル~和歌山港駅~(南海線)~極楽橋駅~(高野山ケーブルカー)~高野山駅(南海りんかんバス)~奥の院口
2.鳴門西PA~(高速バス)~なんば~(南海高野線)~極楽橋駅~高野山駅~奥の院口
となるだろう。なお大窪寺結願後、霊山寺にお参りせずその足で高野山に直行する場合は、高松駅/高速志度方面に向かう必要がある。
ただし上記2案は公共交通手段利用なので、いくらなんでも歩き遍路の名がすたると考える場合、高野山だけは歩いて登る、という考え方もある。高野山には高野七口(こうやななくち)といわれるように数本の登拝道が存在するが、弘法大師も歩いた町石道がメインルートだ。ここでは町石道を紹介するが、町石道は非常に長く、歩くのに一日要するので、麓の九度山(くどやま)駅を早朝に出発する必要がある。また町石道は2025年現在、遍路道崩壊により一部が迂回路になっている点、注意してほしい。
九度山駅の先、慈尊院(じそんいん)から雰囲気のよい遍路道が始まるが、すぐに柿畑のコンクリートの急坂になる。小さな展望台からは、紀の川がよく見える。以降古道になり一町(丁)ごとに町石がある。町石はとても立派で、元来木製であったのが御影石に置き換えられて1285年完成し、石には当時の鎌倉幕府要人を始め有力者の名前が刻まれているとのことだ。ガイドマップには、九度山駅から壇上伽藍(だんじょうがらん)まで約23.5km、所要時間7時間10分とある。
大門までは、榧蒔石(かやまきいし)、二ツ鳥居、袈裟掛石(けさかけいし)など数々の弘法大師の旧跡がある。なにしろ長い道なので、随所にある町石を拝んだり展望を楽しみながら、休憩をとりつつ気長に歩くのがよいだろう。なお長距離の歩行が厳しい場合は、上古沢(かみこさわ)駅から二ツ鳥居近くの古峠(ことうげ)、紀伊細川駅から袈裟掛石の近く矢立で町石道に合流するショートカットもある。実際、歩き遍路以外は矢立(やたて)から入ってきている。
根本大塔のある壇上伽藍、金剛峯寺(こんごうぶじ)を抜け、多くの宿坊を見つつ、奥之院に入る。奥之院への参道両脇には無数の供養塔が林立していて、ほかでは見られない雰囲気だ。御廟(ごびょう)にお参りし、弘法大師に感謝と結願の報告をする。
なお高野山には数多くの宿坊があるが、インバウンドの波が押し寄せており、宿坊の予約が難しい可能性もある。相当早い時期に予約する必要があるだろう。その意味では結願後その足で報告にお参りしたい気持ちを我慢して、時期をずらすか、高野山での宿泊を諦めなければならないだろう。
次回はコラム最終回として、遍路に関連するほかの情報と筆者の雑感を述べたい。
プロフィール
岸田 明(きしだ・あきら)
東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。
四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/歩き遍路旅の魅力と計画アドバイス
登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスと、その記録
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