南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑭完結・まとめに代えて

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弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。

写真・文=岸田 明 トップ写真=別格第二番童学寺。山門がかわいらしい

目次

四国別格二十霊場

これまで八十八ヶ所霊場をめぐる四国遍路の巡礼の旅について触れてきたが、四国にはさらに別格二十霊場がある。八十八ヶ所霊場以外にも数多くある弘法大師の足跡のうち、二十霊場が集まり1968年に創設されたのが、この別格二十霊場だ。八十八の数字に別格の二十を合計すると百八になり、これは人間の煩悩の数となる。遍路にとってひとまずの目標である八十八ヶ所霊場の巡礼が終わった後、別格を巡る旅に出る遍路も多く、また両方を合わせて一度に百八ヶ所の霊場を回る遍路もいる。

〉別格霊場位置図
別格霊場位置図

八十八ヶ所の寺に比べると別格霊場を訪れる遍路は少ないが、それぞれ歴史とたたずまいがすばらしい霊場が多いので、結願(けちがん)を済ませた遍路には、ぜひ別格もめぐってほしいと思う。別格に関して筆者は、数回に分けてメインの遍路道から枝葉を延ばすようなルートで歩いたが、なかなか計画が難しかった。

結論から言うと、八十八ヶ所霊場の遍路道からあまり離れていない別格霊場は、八十八ヶ所霊場巡礼時にお参りし、残った霊場は別途訪れるのがよいだろう。以下、筆者が訪れた別格のうち、特に印象に残っている霊場をいくつか紹介したい。

別格第一番大山寺(たいさんじ)は、第五番地蔵寺 (じぞうじ)から山に入った標高約450mにあり、別格を含めて遍路道をすべて一度で歩くとすると焼山寺道 (しょうざんじみち)より前にある最初の遍路ころがしになる。下山路には観音様の石仏があることから、観音道(かんのんどう)と呼ばれている完全なハイキング道だ。大山寺に参拝して遍路道に戻るのに3時間半程の時間を要するが、健脚であれば前後の行程をうまく計画すれば、追加の一日は不要だろう。

〉観音様の石像
別格第一番大山寺からの下りの遍路道・観音道にある観音様の石像

山寺が多い別格霊場

八十八霊場の遍路道から離れた所にある別格霊場はほとんどが山寺で、徳島県にある別格第三番慈眼寺(じげんじ)は標高約670mの所にある。愛媛県にある別格第七番出石寺(しゅっせきじ)は標高約800m、同じく愛媛県の別格第十三番仙龍寺(せんりゅうじ)は標高約270mと低いものの標高約770mの峠越えの先にある。徳島県西部の別格第十五番箸蔵寺(はしくらじ)は標高約550m、そして香川・徳島県境にある別格結願(けちがん)の第二十番大瀧寺(おおたきじ)は標高約910mの高所にある。これらの別格へのお参りは時間を要し、どこも丸一日かかるので心構えが必要だ。

なかでも公共交通手段がなく、もっともお参りするのが大変なのは、出石寺と大瀧寺であろう。出石寺の場合は大洲(おおず)方面から3本の参道があり、登拝口が大洲に近い順に歩きやすい道になっている。大瀧寺は舗装道もあるが、どれも結願寺・大窪寺(おおくぼじ)からは遠回りで距離が長く、逆に最も距離の短い金比羅道(こんぴらみち)は、稜線部は阿讃(あさん)山脈縦走路になっていて、完全な中級のハイキングコースといえるだろう。

〉出石山と左に浄心山
第四十三番・明石寺から大洲への鳥坂峠の遍路道から見る、出石寺のあるゆるやかな稜線を持つ出石山(いずしやま)と左に浄心山

第六十番横峰寺(よこみねじ)への遍路道から少しそれた所にある別格第十番興隆寺(こうりゅうじ)は、石垣や境内の美しさがなんともいえない。紅葉がきれいで、モミジの西山興隆寺と呼ばれている。歴代の皇室、武将の崇敬を集めていて、源頼朝が本堂を再建したと伝えられている。横峰寺の登山に備えて山麓前泊で時間に余裕がある場合は、第十一番生木(いきき)地蔵と合わせて訪れるとよいだろう。

〉紅葉を求めて興隆寺にお参りしたが、残念ながら全山紅葉にはやや早かった
紅葉を求めて興隆寺にお参りしたが、残念ながら全山紅葉にはやや早かった

別格第十五番箸蔵寺は遍路道から離れるので往復一日を要する。こんぴらの奥の院で、金毘羅大権現を祭っている神仏習合の寺で本堂を本殿と呼び、規模も非常に大きい霊場だ。段数は金刀比羅宮(ことひらぐう)より少ないが、下から歩いて階段を登れば、金刀比羅宮を彷彿とさせる雰囲気を充分に味わうことができる。

巡礼の順序としては、第六十五番三角寺(さんかくじ)の後、徳島県との県境・境目(さかいめ)峠から下道で箸蔵寺にお参りし、来た道の途中にある吉野川の白地(はくち)から雲辺寺(うんぺんじ)に登り返すのがよいだろう。なおJR四国の箸蔵駅の一つ香川県寄りの坪尻(つぼじり)駅は、四国に2つしかないスイッチバックの駅だそうだ。

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プロフィール

岸田 明(きしだ・あきら)

東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。

四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/

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