南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑭完結・まとめに代えて
弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。
写真・文=岸田 明 トップ写真=別格第二番童学寺。山門がかわいらしい
その他の八十八ヶ所巡礼とお砂踏み
①全国各地の八十八ヶ所霊場
その昔四国は各所から遠く、また歩くのは非常な苦労であった。通行手形の入手も困難な時代に身近に巡礼の道がほしいということもあって、全国各地に小型遍路が設けられた。すべてその起源は四国八十八ヶ所霊場に由来するが、もっとも有名なのは瀬戸内海の小豆島(しょうどしま)で、歩く遍路も多いと聞く。次は愛知県の知多(ちた)半島で、「知多四国」とも呼ばれている。どちらもネット上にはたくさんの情報がある。
自然のダイナミズムを体感する場が遍路であると考える関東在住の筆者としては、もっと近くに自然のエネルギーのあふれている遍路道がほしいと思うわけであるが、じつはそれは存在する。伊豆半島である。
伊豆半島の遍路は江戸時代から始まり、以降盛衰を重ねているが、現在再び脚光を浴びている。そしてこの伊豆八十八ヶ所霊場は、現在は宗派が違っていても、結願の寺が弘法大師開創といわれる修禅寺(しゅぜんじ)だということでも、その意味が大きい。ちなみに伊豆は鎌倉幕府のお膝元である土地柄から、真言密教ではなく禅宗の霊場が多い。なお、ご住職不在の霊場も多いので、ご朱印をいただく場合は注意が必要だ。
伊豆で、四国遍路の難所・遍路ころがしに例えるとすれば、それは第一に十国峠だろう。筆者は東京生まれ東京育ちということもあり十国峠は何度も行っているが、遍路としてあらためて峠に立つと、十の国が見えるといわれる大展望と自然の偉大さに圧倒されてしまう。なお伊豆の遍路道は、伊豆半島全体が山で海岸線といってもアップダウンが激しいので、1日に歩ける距離は四国より短くなる。また観光地で車が多いため、国道歩きの際は注意が必要だ。
ほかにも八十八ヶ所霊場は全国各地にあるので、いろいろと調べてみてほしい。
②手軽に巡礼できる八十八ヶ所霊場
小豆島にせよ、知多半島そして伊豆半島にせよ、かなりの日数を要する。さらに手軽に八十八ヶ所巡礼をしたいと思う場合、お砂踏み(四国八十八ヶ所霊場の砂と御影を石碑の下に埋めている)があり、首都圏在住者に身近な所として、ハイカーでにぎわう高尾山(たかおさん)がある。高尾山では、麓のケーブル清滝駅の右にある不動院で「八十八大師巡り」の地図を入手することができる(有料)。
ただ高尾山は手軽に一日で歩けるとはいっても、「八十八大師巡り」のすべてを歩く場合は距離も長く、高尾山薬王院の奥の院をお参りした後、一度戻って北の谷筋下にある蛇滝(じゃたき)橋まで下り、再び山上駅付近まで登り返すので、決してあなどってはいけない。筆者の実測では、距離約10.6km、累積標高+-約910mもある。
京都の世界遺産・仁和寺(にんなじ)にも裏山・成就山(じょうじゅさん、じょうじゅやま)をめぐる御室(おむろ)八十八ヶ所霊場がある。約200年の歴史をもち、約3kmをほぼ2時間で歩ける。余談であるが、筆者はここを逆打ちでめぐったが、たった3kmではあっても逆打ちの難しさを知らされた。
③毎日お参りしたい八十八ヶ所霊場
さらに日常的に八十八ヶ所霊場をお参りをしたいと思うのであれば、自宅近くの真言宗のお寺を訪れてほしい。もし境内に大師堂があれば、その周りを八十八ヶ所の寺名を刻んだ、お砂踏みの石柱があるだろう。首都圏で知られている所として川崎大師にも境内にお砂踏みがあり、「四国八十八ヶ所霊場会主催・一日で巡る四国八十八ヶ所」が時々開催されている。
④短い日数ではあっても、やはり四国で霊場にお参りしたい
今回のコラムでは歩き遍路を前提として説明してきたが、実際の遍路の人数からすれば、マイカー遍路、あるいはバス遍路が圧倒的に多い。しかし歩きたいものの長い距離は歩けない、あるいは山寺や峠越えは厳しいと思う遍路もいるだろう。実はそんな方々に対しても、きちんと回答が用意されている。弘法大師生誕の地・第七十五番善通寺(ぜんつうじ)付近の霊場をお参りする「七ヶ所まいり」だ。
長い歴史があり、香川県の第七十一番弥谷寺(いやだにじ)から第七十七番道隆寺(どうりゅうじ)まで、弥谷寺を除いて平地にある霊場を一日で歩いてお参りする。なお、この七ヶ所の寺には七福神も祭られていて、二重のご利益がある。霊場間距離で約16km、参拝時間を除き歩行時間に限れば約5時間弱だ。
また徳島市には、市内の平地にある第十三番大日寺(だいにちじ)から第十七番井戸寺(いどじ)までをお参りする「五ヶ所まいり」もある。霊場間距離で約8km、歩行時間約2時間少々だ。
このような部分遍路もあるが、筆者の個人的なおすすめは次の通りだ。やはり第一番霊山寺は遍路をスタートするお寺として重要であり独特の雰囲気もあるため外さず、そこから近距離の第三番金泉寺(こんせんじ)、あるいはその日歩ける霊場までお参りして、翌日徳島の五ヶ所まいりをするのがよいのではないかと思う。
過去のコラムでも述べたが、八十八ヶ所霊場巡礼はどのような順序でお参りしてもよいので、最初から全霊場お参りすると考えるとハードルが高く、まずはこのように手軽な遍路を歩いてみてそのすばらしさを体験し、それから残りの霊場をお参りする計画を立てるのがよいだろう。
プロフィール
岸田 明(きしだ・あきら)
東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。
四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/歩き遍路旅の魅力と計画アドバイス
登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスと、その記録
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