ルポ・奥多摩前衛の里山で、知られざる巨木と廃線跡に出合う。南沢あじさい山から勝峰山へ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

梅雨入りの便りが迫る週末、アジサイの開花状況を見に、東京西部・あきる野市にある南沢あじさい山へ。さらに勝峰山(かつぼうやま)までつないで歩いたところ、予想外に数々の発見があった。

写真・文=中島タツヤ、トップ写真=巨樹が立ち並ぶ勝峰山山頂

目次

斜面に屹立する杉の巨木

深沢山からしばらくして、左側に分岐が現われた。立派な道標には、「千年の契り杉」(せんねんのちぎりすぎ)とある。いったいどんな杉なのか、少し寄り道をすることにした。分岐から、なかなかの急斜面をジグザグに下ること10分強。目の前に忽然と杉の巨木が姿を現わした。

〉あまり見たことのないほどの圧倒的存在感。樹齢300年以上だとか
あまり見たことのないほどの圧倒的存在感。樹齢300年以上だとか

周囲にはほかに巨木は見当たらず、孤高の存在である。山側の斜面から契り杉に向かってわずかに水が流れ出ており、そのおかげでここまで大きくなったのではないかと推測する。ぐるりと一周して、再び急斜面をがんばり尾根に戻った。

最後のピーク、勝峰山へ

やがて日の出山方面への分岐を過ぎて、勝峰山(かつぼうやま)に到着。広々とした頂上には多くの登山者が休憩中だった。山頂には「幸せの鐘」や平将門伝説についての案内板があり、立ち並ぶサクラの巨樹が印象的である。案内板によると、将門が追手から逃れる際、この勝峰山に一夜城を築いたそうだ。

〉勝峰山頂上
サクラの巨樹が立ち並ぶ勝峰山頂上。写真左にあるのが幸せの鐘

山頂からよく整備された道を下っていくと展望台が2つあり、横沢丘陵の山並みなどが見下ろせた。

〉日の出の町並みと横沢丘陵の眺め
展望台から、日の出の町並みと横沢丘陵の眺め

さらに下っていくと、石灰岩の露出したカルストの小径や、血の池と呼ばれる窪地、鈴石など、地質的に興味深い見所が点在している。ちなみに一連の解説板をはじめ登山道の整備などは、「勝峰山エリアプロジェクト」という地元ボランティア団体によって行なわれており、勝峰山が大切に守られていることがうかがえた。

〉血の池は、石灰岩地質で見られるドリーネと呼ばれる窪地らしい
血の池は、今では涸れているようだ。石灰岩地質で見られるドリーネと呼ばれる窪地らしい
〉血の池のそばにある鈴石
血の池のそばにある鈴石

山道が終われば、あとは長い林道歩きとなる。上部は結構急な道で、疲労がたまった足への負担が大きい。途中で山道に入り、やがて山麓の登山口に下り立った。ここからは広い平坦地を進んで車道へ飛び出し、武蔵五日市駅へと戻った。

セメント産業の名残り。石灰石輸送で使われた鉄道跡

後で知ったことだが、勝峰山から降り立った平坦地は、かつて五日市線の岩井支線が通っていた場所で、現在ではセメント会社の私有地となっている。登山者はそこを通らせていただく形だ。石灰石輸送のために大正時代に開通した岩井支線は、一時期旅客輸送も行なわれ、大久野(おおぐの)地区はセメント産業の発展とともに大変にぎわったそうである。その後トラックによる輸送が普及したことにより、1982年に支線は廃止された。

〉軌道跡の平坦地
軌道跡の平坦地

ちなみに勝峰山への登山口はまた別にもあり、つるつる温泉に向かう都道の途中にある岩井橋からアプローチできる。岩井橋付近の道路脇には大きな看板が立っているとのことで、むしろそちらが正規ルートかもしれない。

今回歩いた箇所は、狭い範囲にもかかわらず色々な発見があった。日の出町、あきる野市周辺には、まだまだ隠れた魅力がありそうなので、また時間を見つけて訪れてみたい。

〉下山後に立ち寄った幸神神社のシダレアカシデ(天然記念物)
下山後に立ち寄った幸神神社のシダレアカシデ(天然記念物)

記事協力:
・日の出町観光協会 https://www.hinodekanko.jp//
・日の出町役場
・勝峰山エリアプロジェクト

関連記事

MAP&DATA

あじさい山・勝峰山
ヤマタイムで付近の地図を見る
コースタイム: 約5時間20分
行程:武蔵五日市駅・・・金比羅山・・・南沢あじさい山・・・幸神尾根取付・・・地蔵山・・・深沢山・・・千年の契り杉・・・勝峰山・・・武蔵五日市駅
総歩行距離:約12,300m
1 2 3

目次

この記事に登場する山

東京都 /

金比羅山(あきる野) 標高 468m

武蔵五日市駅の北東側にそびえるのが金比羅山で、山頂付近にある金比羅公園展望台からは、五日市の街並みを見下ろすことができる。 古くは山岳信仰の対象とされていて、山頂の南側、約300mの場所には琴平神社が立ち、奥には「金比羅山の天狗岩」と呼ばれる大岩が鎮座している。

東京都 /

勝峰山 標高 454m

奥多摩前衛、日の出町にある低山。石灰岩が隆起した山で、山麓にはセメント工場がある。地元のボランティア団体によって整備されている。血の池、鈴石、カルストの小径などの見所もあり、平将門伝説が残る。巨樹が立ち並ぶ山頂や展望台からは周囲の眺めがよい。

都市近郊の自然探索ハイキング

都市近郊の里山を歩いていると、道や分岐が結構多く、また小さな尾根を隔てて風景がガラッと変わることもあっておもしろい。この道はどこにつながっているのだろう?また、どんな景色が広がっているのだろう?まだ見ぬトレイルや風景を求めて、都市近郊の自然探索へ

編集部おすすめ記事