テントの外から聞こえてくる靴音。夜の工事現場跡をさまようものの正体とは
夢うつつに聞こえてきた靴音
5月とはいえ、夜の高原は想像以上に冷えこむ。このときも防寒着代わりにレインウェアを着こみ、なおも芯から冷えるほどの寒さだった。さらに翌朝は5時起床予定だったため、あまり深酒はせずに就寝することにした。
「でも……なんだか全然、寝られなくてさぁ。久しぶりだから目が冴えちゃったのかな。変に寝たり起きたりを繰り返してたから、半分夢かもしれないんだけど」
夜中、じゃりじゃりという靴音がすることに気がついたのだという。
「奥のほうから近づいてきて……。最初、Mくんかと思ったんだけど、でも、なんだかおかしいの」
砂利を踏みしめる足音はテントに近づいてきたかと思うと、なんとO川さんが入っているテントの周囲を回りはじめたのだ。
「じゃり、じゃり、じゃりってずっと回ってるんだよ! パラグライダーの人たちかと思ったんだけど、夜中にいるわけないし。そもそも車の音もしなかった。これ、絶対おかしいって思った」
パラグライダーが飛ぶ姿が見られたので、この工事現場跡地よりさらに上の山頂付近は発着場なのでは、と我々部員は考えている。昼間、横の道路を山の上のほうへ上る車も頻繁に見られた。
しかし、夜中に彼らのうちのひとりが突然訪れ、テントの周りをぐるぐると無言で回る、などという不自然な仕草をすることは考えられないだろう。
「怖えぇ……って思ってたらさ、急にガッ! って足を」
――外からつかまれて引っ張られたのだという。
「テントの布ごと無理やりつかまれたかんじ。おれの両足もって、そのまますごい力でグググって引っ張られた。あ、ヤバい! って思ったけど、その瞬間にたぶん気絶してた」
極度の緊張状態に陥ると、人は失神することがある。このときのO川さんもまさにその状態だったのだろう。
この記事に登場する山
プロフィール
成瀬魚交(なるせ・うこう)
1990年生まれ。東海大学探検会OB。学生時代はスリランカ密林遺跡踏査、秋田県民間信仰調査などの活動を行なった。現在は編集者・ライターとして各地の渓谷や不思議スポットを訪れたり、聞き書きなどで実話怪談を手がける。
登山者たちの怪異体験
太古の時代から、山は人ならざるものが息づく異界だった。そうした空間へ踏み込んでいく登山では、ときとして不可思議な体験をすることがある。そんな怪異体験を紹介しよう。
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