クマは歯磨き粉さえも嗅ぎつける。目を合わせないためにサングラスは有効。米国のロングトレイルに学ぶクマ対策
クマを引き寄せないための準備
どのクマにも共通していえるのですが、食欲が非常に旺盛で、食物に執着します。人間が自然のなかに捨てた食料を野生動物が食べると、人間と食べ物を関連付けてしまいます。ハイカーがクマに遭遇しないようにするには、人間の食べ物を野生動物に与えないだけでなく、食べる機会を与えないことが大切です。これがトレイルを歩くときも普段の生活でも重要な行動となります。
①におわない食料を選ぶ
みなさんは、山に食料を持っていくとき、どんなものを選んでいますか? においがぷんぷんする食べ物を持っていったりしていませんか? ハイカーは、米、トルティーヤ、ジャーキー、パスタ、ナッツ、ドライフルーツ、ピーナッツバター、プロテインバーなど、コンパクトで高カロリー、かつにおいの強くない食品を中心にチョイスしています。
②食料の運び方を工夫する
みなさんは食料を持っていくとき、どうパッキングしていますか? パッケージのまま持っていっていく人も多いと思いますが、私はゴミにならないように食品の外箱などは事前に処分し、密閉袋に入れます。そうすると、バックパックにパンくずが落ちたり、食品の油などによって、においがバックパックに付くことがありません。食料を密閉袋に入れる場合は、しっかり空気を抜きます。
③においのする「食品以外のもの」にも注意
日焼け止めや化粧品・虫よけなどはどう携行していますか? これもそのまま持っていく人が多いと思いますが、ハイカーはにおいのする食品以外のものも密閉袋に入れます。化粧品や日焼け止め、歯磨き粉などだけでなく、クマはにおいのあるものはすべて食べ物として認識するので、密閉するのがベターです。
クマは旺盛な食欲と優れた嗅覚をもち、においのするものすべてを「食べ物」とみなします。私たちが自然に入る入口の準備段階で、運ぶ食料のにおいを抑えることで、野生動物やクマと遭遇する確率を事前に大きく減らすことができるのです。
トレイル沿線の町でもクマ対策
トレイル沿線のクマの多いエリアのホステルに泊まったとき、10名くらいのハイカーと外のピクニックテーブルで食事をしていたのですが、終わったらすぐに食料をホステルの中にしまうように指示されました。クマの多い地域に住む人たちは、普段からクマに人間の食べ物の味を覚えさせないよう注意して生活しています。クマによる被害をなくすためにも、「人間=食料」と関連付けされないようにしなくてはなりません。
ベアボックスにフードハンガー、ベアキャニスター……。キャンプの食料保管
アパラチアントレイルでは、クロクマの生息地を通ることから、キャンプの際は食料の保管に注意します。クマの多い地域では、食料は絶対にテントの中で保管しません。ベアボックス(鉄製の食料保管箱)が常設されていて、食事を済ませたら匂いのする物も一緒に鉄製の箱に入れて保管します。保管箱がなくても、フードハンガー(食料を吊るす鉄製の柱)があったり、クマの手が届かない木の枝に食料を吊るすため、必ずロープを持参しています。
また、同じクロクマでも、ヨセミテ国立公園エリアに生息するクマは、木に吊るされた食料はロープを切れば落ちてくると学習しています。エリアによっては、木に吊るしてもクマに食料を奪われるので、スチール製もしくは強化プラスチック製でロック機構の付いた食料保管箱(ベアキャニスター)に食料を入れて持ち運ぶことを義務付けています。
また、食料保管箱はテントを張った場所から約30m以上離した平らな場所に保管します。このとき、食料保管箱を置く場所はクマが転がして川に食料が落ちないようにするため、水辺以外の場所を選びます。クマの多いエリアでは、テントを張った風下に食料保管箱を置き、安全を確保することもありますし、基本的にクマの多いエリアでは、テントから離れたところで夕食をとることで、より危険を遠ざけることもできます。
また、山で余った食べ物、特に果物の皮などは土に還るからと捨てる方もいると思いますが、絶対に捨てないでください。余ったものやごみは密閉袋に入れて家まで持ち帰って捨ててください。キャンプ場でごみを燃やす方もいますが、有機物を完全に燃やすには、通常の焚火の火力より高温の炎が必要です。部分的に燃えた物でも、野生動物がにおいに引き寄せられることがあります。絶対に燃やさないでください。
テントを張るのは開けた場所
日本の山にはテント指定地があり、自由にテントを張れませんが、アメリカではトレイル周辺で自由にテントが張ることができるルートが多くあります。この場合、できれば森の中ではなく、森を過ぎた見晴らしのいい場所にテントを張ります。野生動物は、身を隠せない場所に現われることが少ないので、森の中よりは開けた場所の方が安全です。また、湖のそばは野生動物が水を飲みに来るので、遭遇しないよう少し離れた場所にテントを張ります。
できれば、キャンプで使用するのはタープではなく、身を隠せるものがベターです。動物も姿が見えないと不安なものです。わずか生地1枚ですが、安全を担保できます。
テントを張る際、寝る際、嫌な予感がする場合は、普段から必ず定期的にホイッスルを大きく吹いて、人間がいることを動物に示します。
プロフィール
斉藤正史(さいとうまさふみ)
1973年、山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。
2005年に、アパラチアン・トレイル(AT)を踏破。2012年にパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破。2013年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成した。日本国内でロングトレイル文化の普及に努め、地元山形県にロングトレイルを整備するための活動も行なっている。
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