小屋のご主人から教わる北アルプスの紅葉ガイド【山と溪谷10月号】

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発売中の『山と溪谷』10月号の特集は、「山小屋主人が案内する 北アルプス絶景紅葉スポット」。そのなかから、コースガイドを抜粋して紹介します。

写真=渡辺幸雄(焼岳)・星野秀樹(仙人池、大日岳)・新井航平(白岳~唐松岳)地図=千秋社

目次

焼岳(やけだけ)

焼岳 峠沢沿いの登山道
①峠沢沿いの登山道
焼岳小屋 青木進二さん
教えてくれた人
焼岳小屋 青木進二さん
山小屋主人歴20年。「登山者が無事に登り、無事に下山できるよう安全に配慮しつつ、自然の魅力も伝えていければと思います。好きな山の季節は、新緑のころです」

青木さんの
おすすめの紅葉スポット

①峠沢(とうげさわ)沿いの登山道
②下堀沢(しもほりさわ)出合

「北アルプスの香炉」とも呼ばれる活火山の焼岳。上高地から登り始めて、樹林帯を抜けた辺りでは、峠沢に沿ってササの緑、ダケカンバやカラマツの黄、広葉樹のオレンジが交ざり、秋ならではの美しいモザイク模様が広がります。

焼岳展望台は、穂高(ほたか)方面や霞沢岳(かすみざわだけ)、上高地の大パノラマの紅葉が見どころ。シラタマノキやオヤマリンドウも探してみてください。新中ノ湯(しんなかのゆ)ルートの、下堀沢出合から上高地方面を見下ろすと、ナナカマドやカラマツの紅葉・黄葉がみごとですよ。

例年だと9月下旬から色づきが始まり、10月上旬にかけて見頃を迎えています。

焼岳 下堀沢出合から上高地方面を見下ろす
②下堀沢出合から上高地方面を見下ろす

MAP&DATA

焼岳周辺の地図
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おすすめコース:上高地 ⇒ 焼岳登山口 ⇒ 焼岳小屋 ⇒ 焼岳 ⇒ 新中ノ湯ルート ⇒ 中の湯/日帰り
歩行時間: 6時間55分
山行アドバイス:必ず気象庁の火山情報を確認の上、お出かけください。10月初旬の土日は大混雑が予想されます。焼岳山頂は正午前後に登山者が集中しやすいので、ゆとりをもった行動をお願いします。山頂付近は9月下旬から5℃以下になることも。防寒着を忘れずにお持ちください。

仙人池(せんにんいけ)

剱岳の奥座敷・仙人池に山影を写す八ツ峰岩峰群
①剱岳の奥座敷・仙人池に山影を写す八ツ峰岩峰群。ここへ来た人だけが味わえる贅沢
仙人池ヒュッテ 志鷹正博さん
教えてくれた人
仙人池ヒュッテ 志鷹正博さん
主人歴14年目。登山者が山でのひと時を楽しめることを大切に、宿泊者を受け入れている。先代は気さくな人柄で親しまれた祖母の静代。2017年からは剣御前小舎も運営。

志鷹さんの
おすすめの紅葉スポット

①仙人池畔からの八ツ峰(やつみね)
②仙人峠周辺の灌木

剱岳(つるぎだけ)の険しさを象徴する針峰群・八ツ峰。その美しい姿が仙人池の水面に映り込む様子は、まさに絶景です。秋には、池の周囲を彩るダケカンバ、ナナカマド、ミネカエデの灌木や、イワイチョウの草もみじが景観に華を添えます。

仙人池ヒュッテは池畔に位置し、朝・夕焼けに染まる八ツ峰が居ながらに望めます。

また、池の近くにある仙人峠も後立山(うしろたてやま)連峰など三六〇度の展望が広がる紅葉の名所です。灌木の紅葉が終わるとチングルマが赤く色づき、長期間紅葉を楽しめます。

剱沢では源次郎尾根(げんじろうおね)や八ツ峰下部の紅葉も見られるなど、コース途中の見どころも多いですよ。

仙人峠付近から望む、紅葉の波間に浮かぶ仙人池ヒュッテと五竜岳(左)、鹿島槍ヶ岳
②仙人峠付近から望む、紅葉の波間に浮かぶ仙人池ヒュッテと五竜岳(左)、鹿島槍ヶ岳

ただし、仙人池までの道のりは行程が長いだけでなくアップダウンも大きく、健脚者向きです。無理のない計画を立て、安全に登山を楽しんでください。

MAP&DATA

仙人池周辺の地図
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おすすめコース:室堂 ⇒ 剱沢 ⇒ 真砂沢ロッジ(泊) ⇒ 二股 ⇒ 仙人池ヒュッテ(泊) ⇒ 二股 ⇒ 剱澤小屋(泊) ⇒ 室堂/3泊4日
歩行時間: 1日目:5時間45分、2日目:4時間15分、3日目:6時間20分、4日目:3時間40分
山行アドバイス:コース途中に山小屋が複数あるので、室堂の到着・出発時間などに合わせて、宿泊地を選びましょう。剱岳が違う表情で眺められる池の平方面へ散策に出かけるのもおすすめです。仙人池ヒュッテの営業は10月12日の宿泊まで。欅平への下山は不可なので注意。

大日岳(だいにちだけ)

大日岳山頂付近から望む剱岳
①大日岳山頂付近から望む剱岳。長大な早月尾根が左から延びる
大日小屋 杉田健司さん
教えてくれた人
大日小屋 杉田健司さん
山小屋の経営を祖母から継いで約30年。オフシーズンは、日本を代表するギター製作家として活動。小屋ではアコースティックライブが行なわれ、宿泊者には音楽好きも多い。

杉田さんの
おすすめの紅葉スポット

①大日岳稜線からの剱岳
②雷鳥沢キャンプ場周辺

剱岳から立山(たてやま)へ延びる稜線の西側に位置する大日岳は、中大日岳、奥大日岳をともなう連山で、大日小屋はその稜線に立っています。すぐ近くの大日岳山頂からは剱・立山連峰はもとより、遠くは白山(はくさん)や穂高連峰まで望めます。周辺はチングルマの草もみじやナナカマドの紅葉が美しく、剱岳の山麓から中腹にかけて山肌が紅葉の色に移り変わる様を眺めるのもよいものです。山頂とは反対方向に20分ほど行ったところにある七福園(しちふくえん)も灌木の紅葉がみごとですよ。

また、下山路途中の雷鳥沢キャンプ場周辺は映画『劔岳 点の記』でも印象深く描かれた紅葉の名所です。

チングルマの紅葉が美しい雷鳥沢と真砂岳
②チングルマの紅葉が美しい雷鳥沢と真砂岳

MAP&DATA

大日岳周辺の地図
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おすすめコース:称名滝 ⇒ 大日岳 ⇒ 大日小屋(泊) ⇒ 奥大日岳 ⇒ 雷鳥沢キャンプ場 ⇒ 室堂/1泊2日
歩行時間: 1日目:6時間35分、2日目:5時間40分
山行アドバイス:称名坂は急登が続きます。特に牛ノ首前後は岩場やヤセ尾根の通過があるので、滑落に注意しましょう。大日小屋の営業は9月28日の宿泊までなので注意。

白岳(しらたけ)~唐松岳(からまつだけ)

紅葉する白岳山頂から、積雪の五竜岳を見る
①紅葉する白岳山頂から、積雪の五竜岳を見る
五竜山荘 新井航平さん
教えてくれた人
五竜山荘 新井航平さん
夏は五竜山荘支配人、冬はスキーパトロールとして活躍。『山の仕事ガイドブック』(学芸出版社)に山小屋支配人として執筆協力。「笑顔の絶えない山小屋でみなさまをお迎えします」

新井さんの
おすすめの紅葉スポット

①白岳山頂から見る五竜岳
②五竜岳山荘前のテラスからの眺望

このコースの紅葉は、9月末ごろに五竜山荘周辺から色づき始め、10月上旬には五竜岳〜唐松岳の縦走路、10月中旬には遠見尾根(とおみおね)が最盛期を迎えます。期間を通して長く紅葉が楽しめるのが魅力です。運がよければ、白岳の紅葉・五竜岳の積雪・青空の「三段紅葉」に出会えることも。

山荘前のテラスからは、左に白岳カールと色づく遠見尾根、右に餓鬼山(がきやま)の紅葉と富山湾を望む大パノラマが広がります。さらに、遠見尾根は雲海が出やすく、紅葉が雲海に浮かぶ幻想的な瞬間は息をのむ美しさ。色づきなどの最新情報は、五竜山荘公式インスタグラムで発信しています。

遠見尾根の雲海と紅葉
②遠見尾根の雲海と紅葉

MAP&DATA

白岳~唐松岳周辺の地図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
おすすめコース:アルプス平 ⇒ 西遠見山 ⇒ 白岳 ⇒ 五竜山荘(泊) ⇒ 大黒岳 ⇒ 牛首 ⇒ 唐松岳 ⇒ 八方池山荘駅/1泊2日
歩行時間: 1日目:5時間15分、2日目:6時間5分
山行アドバイス:紅葉時期は、天候が崩れると雪が降ることもあります。また、晴れても朝晩は気温が氷点下まで下がり、凍った地面が滑りやすくなるため、チェーンスパイクなどの携行がおすすめです。

『山と溪谷』2025年10月号より転載)

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プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。

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雑誌『山と溪谷』特集より

1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。

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