初冬の山梨県・乾徳山で、冬向けのソフトシェルパンツを試す

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今月のPICK UP マムート/ヤドキンSOパンツ

価格:17,000円(税別)
サイズ:S、M、L

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※女性用はヤドキンSOパンツ ウィメン >>

 

冬のパンツはどんなものを選ぶ? 素材感・立体裁断など、仕様のチェックから

寒い時期の山ではくパンツには、どんなものを選ぶか? 気温を考えれば、防寒性、保温性、防風性などが重要だが、他の季節と同様に伸縮性や撥水性も忘れたくはない。それらの性能を大きく左右するのは、何といっても生地の素材である。

今回テストをしたのは、マムートの「ヤドキンSOパンツ」だ。細身のシルエットで無用な生地のたるみもなく、ポケットなどのディテールも最低限と、いかにもクライミングなどに適した雰囲気を持つ製品である。だが、シンプルゆえに一般登山にも向くという、汎用性が高いデザインになっている。

問題の素材は、いわゆる「ソフトシェル」。防水透湿性のメンブレンに強靭な生地を張り合わせた「ハードシェル」素材に対し、その名称通りに柔らかな生地を指している。

一般的にソフトシェル素材の特徴といえば、伸縮性、通気性、保温性、速乾性といったところで、裏地の処理によっては吸汗性にも優れているものもある。反対に言えば、持っていない機能はズバリ防水性だが、その代わりに生地の表面には高い撥水性があり、小雨程度であれば水分を生地内に浸透させない。なお、大半のソフトシェルはウェア内部の汗が発散しやすいように通気性を重視しているために防風性は持たせていないが、一部にはウインドストッパー素材を組み合わせたものもあり、ソフトシェルが風に強いかどうかは一概には言えない。

天然のウールやコットン素材とは異なり、ソフトシェルといわれるウェアの素材にはさまざまな種類の化学繊維が使われていて、完成した生地の厚みや張り、柔らかさは千差万別だ。ヤドキンSOパンツの場合はナイロン50%、ポリエステル49%、ポリウレタン1%という割合の2重織りミックス素材で、縦にも横にも伸びる4ウェイストレッチである。また、滑らかな質感の表面の素材に限って言えば、ポリアミド50%、ポリエステル43%、スパンデックス7%となっている。

 

ソフトシェルのなかでは比較的厚みがあり、かなり硬めで張りがある生地といえるだろう。そのために、広げて地面に置いてみてもあまり平面的にはならない。

ポリウレタンはブーツのミッドソールに代表されるフォーム材に使われる材料ということもあり、全体量のわずか1%のみでこのパンツの生地にフカフカした弾力感をもたらしているようだ。実際に履いてみるとわかるが、このために行動中に汗をかいても裏地が肌に張り付くことがなく、なかなかの快適さ。僕は発汗量が多い体質で、こういう素材感は非常に好ましく感じられる。ただし、ポリウレタンは加水分解しやすい素材でもあり、このパンツの商品タグにも「素材の特性上、徐々に劣化する」という注意書きが加えられている。

また、地面に置いたときに平面的にならないもうひとつの理由は、このパンツが立体裁断で作られているからだ。とくに膝の部分は体の自然なラインに沿うような形状である。

立体裁断という技術自体は、山岳用ウェアではもはや当たり前ともいえる。だが、ソフトシェルはもともと伸縮性が高い素材とはいえ、その特性をさらに生かすには、やはり重要な部分であろう。

パンツの腰元を両面から見たのが下の写真だ。腰を一周するように取り付けられているのは付属のバックル付きベルト。これは正面左の部分で縫い付けられているためにベルトを引き抜いて外すことはできないが、バックルの位置がずれることはなくなり、扱いやすい。

 

もともと伸縮性が高い素材ということもあり、ウエストにゴムなどは併用されていない。だが、お尻の部分のサイズ感が合えば、ベルトをあまり締めないでもフィットする。

フロント部分の特徴は、ファスナーを覆うフラップが斜めにとられていることだ。足を大きく動かしてもファスナーは常に隠れており、体温を逃がさない効果も期待できる。

 

ただし、ファスナー自体は短めだ。ファスナーを長くとると、パンツのしなやかさが失われるからだろう。小用を済ませるときのことを考えると、もう少し長いほうが都合がよいと思う人も多いかもしれない。

レーザーカッティングされたポケットは圧着されていて、ポケットには極小の引き手が使われている。閉めたままにしていると、そこにポケットがあることすら忘れるほどだ。

 

その圧着の様子は、裏面を見るとよくわかる。裏地とポケットが一体化しているので、一般的なパンツのようにポケット裏側の生地がゴロ付くことはなく、ステッチが太ももに擦れるような感覚も味合わないですむ。

強い張りを感じる表地に比べ、裏地はいくぶん柔らかだ。起毛はしていないが肌触りはよく、手を当てるだけで温かさを感じる。

水をかけるといったんは撥水するが、指で水分を擦っているとドンドン水分を吸収する。吸汗性はよさそうだ。

ところで、僕が今回選んだサイズは、ヨーロッパやアメリカではM、アジアではLという扱いのもの。僕の身長は177㎝で足腰はガッチリしており、特にふくらはぎは太いが、そのアジアLサイズでちょうどよかった。だが、人によっては裾が余ってしまうかもしれない。

最近の多くのパンツは裾にファスナーやドローコードのようなものがついており、丈詰めができないのが難点だ。だがヤドキンSOパンツはじつにシンプルなデザインなので、膝の立体裁断部分がずれない程度であれば、裾を裁断・縫製して長さの調整ができる。こういう点は意外と重要だ。

 

フィールドテストの舞台は乾徳山。岩場での摩擦やストレッチ性もチェック!

ひととおりパンツをチェックすると、僕は大平高原の登山口から歩き始めた。今回のテストの場は、奥秩父の外れにある乾徳山。標高2031mとそれほど高くはないが、山頂付近は険しい岩場になっていてアルパイン気分が味わえると、非常に人気が高い日本200名山である。

 

少し登ると南側に富士山が見えてきた。そちらの方向は薄曇りだが、山頂付近から積もり始めた雪がよくわかる。ここは富士山の好展望地なのである。

先ほど説明した、生地を溶着して作ったポケットは腰の左右ひとつずつと、右足の太ももにひとつという計3つ。ポケットはヒップにもひとつあるが、そちらは溶着されておらず、一般的な袋状のものだ。

 

溶着されたポケットは体にぴったりと沿った形状になっており、あまり大きなものは入れられない。しかし、冷えた手を入れて温めるには充分だ。また、太もものポケットもあまり深くはないが、小さめのスマートフォンは収納できる。

林道と交差する道満尾根をさらに登っていく。天気予報によると、この日の山頂の気温は日中でも-5℃程度。まだ山頂よりも数百m低い場所だが、このあたりもおそらく氷点下になっているはずだ。

経由地の月見岩では昼食がてら20分ほどの休憩をとった。だが、これくらいの気温と時間であれば下半身が冷える感じはあまりしない。裏地に保温材などを配していないスッキリとしたシルエットのパンツだが、見た目以上の防寒性はあるようだ。

少し気になったのは、ウエストのバックルである。シンプルな形状で引っかけやすく、薄くて邪魔にならないのはいい。だが、歩行中にバックパックのウエストハーネスに押されていると、ときどき外れてしまうのだ。僕が今回使ったバックパックとは相性が悪かったのかもしれない。

この日、下山までにバックルが外れたのは3回。僕の体型にパンツが合っていたので、バックルが外れてもすぐにパンツが下がるわけではないが、腰回りに余裕がありすぎる状態で履いていると、下がってくる可能性はないわけではない。

さすがソフトシェル素材だけはあり、伸縮性は充分だった。乾徳山には足を大きく上げて乗り越えなければならない険しい岩場が連続しているが、そんな場所でもまったく支障はなく、足がすみやかに前へ出る。

 

とはいえ、現在のアウトドア界から見れば、ヤドキンSOパンツのストレッチ性は特筆すべきものではない。いまや驚異的な伸縮性を見せるソフトシェル素材は珍しくなく、このパンツの伸縮性は「ほどほど」といってよいだろう。

これは別に貶しているわけではない。そもそもストレッチ性が高ければ高いほど高機能というわけではなく、重要なのは用途に応じた機能性であり、ヤドキンSOパンツに関しては、その「ほどほど」がむしろちょうどいいのである。それは以下のような場所では顕著だ。

こちらはルートの途中の「髭剃岩」。奥に行くほど岩の割れ目は狭まり、体を反転するのもままならないほどである。必然的にパンツは左右の岩で擦れてしまうが、伸縮性が極度に高い柔らかい生地であれば小さな岩の角などに引っ掛かりやすく、体の動きを妨げられてストレスを感じてしまうだろう。だが伸縮性がほどほどで、表面に張りがあるヤドキンSOパンツのような素材ならば、ほとんど引っかからず、スムーズに行動可能だ。

 

乾徳山の髭剃岩はわざわざ通らなくても先に行ける場所であり、遊び感覚で入るポイントだ。実際はパンツの素材がどんなものであれ、ここでは安全性が左右されるものではない。だが、日本アルプスのような険しい山域での岩場の通過や、本格的なクライミングのようなハードなシチュエーションも考えれば、このようにほどほどの伸縮性で引っかかりにくい素材は現実的な選択肢のひとつなのである。

髭剃岩の奥から再び外に出て、パンツをチェックしてみる。

 

岩で強く擦れたパンツの表面には、白い筋がついていた。だが、手で叩けば細かな岩屑はとれ、ほとんど痕跡は残らない。ポケットのファスナーもかなり岩で擦れていたはずだが、ごく一部のペイントが剥げただけである。たかが一回くらい岩場で擦れた程度では生地やパーツの耐久性を見定めることは不可能とはいえ、十分に強靭なことはわかり、少々のことでは生地が傷むことはないと思われた。

この日の天気は下り坂で、夕方以降は雪の予想。だが、僕が入山している間は降雨も降雪もなさそうだった。しかしそれでは、生地の耐水性がよくわからない。そこで、思い切って飲み水の余りをパンツにかけてみた。

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冷水を足にかけると、さすがに冷たさを感じる。だが、水の浸透は一切なし。まるで防水性のレインウェアやハードシェルのように撥水するのだ。あまりによく水を弾くので写真に撮るのが大変なほど。指に水をつけて無理やり生地に擦りつけていると、さすがに少しは水分が浸透していくが、これならば少々の雨ならばレインウェアがいらないだろう。

山頂直下では標高差20mの鳳岩を登った。鎖はついているが、かなりの高度感である。もっとも、東側には巻道もあり、このルートを通らなくてもいいのだが……。

この岩場は、乾徳山の名所のひとつ。せっかく乾徳山に行くのなら、高所恐怖症の方以外はぜひ挑戦してもらいたい。登ってみれば、さほど難しくもないのがわかるだろう。

首都圏に近い乾徳山は休日ともなると大勢の人でにぎわう。だが平日の山頂は人が少なく、のんびりとしたものだ。しかし風は吹いていて、体感温度は思ったよりも低い。南側の空は重苦しさを増し、先ほどまではよく見えていた富士山も次第に雲に飲まれつつある。

 

結局、このときは温かなコーヒーを飲みながら1時間ほど滞在。その後、体が冷え切る前に僕は下山し始めた……。

 

まとめ:ヤドキンSOパンツは、タフに使いたおせるソフトシェルパンツだ

ヤドキンSOパンツはタフな使用にも耐えうるソフトシェルパンツだった。「ソフト」シェルとはいいながらも、そのなかでは硬めで丈夫な素材が使われており、岩場でも破れを気にしないでガンガン使える。生地には厚みがあり、適度な保温力を持っているので、気温があまり低くなければ、冬の雪山でも活躍しそうだ。むしろ蒸し暑い夏は使いにくく、秋~春が向いている。

問題があるとすれば、先に書いたようにベルトのバックルが少々外れやすいことだろう。このベルトは取り外しができないタイプだけに、別のタイプに変更してもらえると安心して使える。また、素材にポリウレタンが使われているため、加水分解による経年劣化が早そうなのも気がかりだ。だが、それ以外には弱点はあまり見当たらず、気温が低い時期には大いに活躍しそうである。もしも手に入れたら、生地が劣化する前にドンドン使って、履きつぶしてしまおう。

 

今回登った山
乾徳山
山梨県
標高2,031m

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プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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