「歩いている感覚」を実感!通気性がよく軽快な一足 アルトラ/ローンピークハイカー2|高橋庄太郎の山MONO語りVol.104
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回のアイテムは、アルトラの「ローンピークハイカー2」です。
文・写真=高橋庄太郎
毎年発売されるアウトドア用具のなかでも、特に“シューズ”は種類が多い。わかりやすい特徴だけを見ても、ハイカット/ミッドカット/ローカットに加えてサンダルなどがあり、ゴアテックスなどを使った防水タイプなのか、通気性を重視した非防水タイプなのかの違いもある。さらに、一般的な登山からトレイルランニング、沢登り、アルパインクライミングなどと、用途によっても多様な方向に進化を遂げている。それらに合わせ、シーズンごとに新製品が続々と登場してくるのだから、種類が多いのは当然だ。
しかし“ありそうで、ない”タイプのシューズもある。たとえば、通気性を重視した非防水性で、なおかつミッドカットやハイカットというタイプだ。活動量が多く、発汗も増えるトレイルランニングを中心に使われている非防水タイプのシューズは、ミッドカットやハイカットでは足首周りの柔軟性に欠けるからと、どうしてもローカットが中心になる。だが、一方ではくるぶしを保護して捻挫を防止しながらも、高い通気性で涼しく歩きたいという人は意外と多い。
いつも大汗をかきながら歩いている僕自身がまさにそれで、ローカットでは不安がある難路、かつ好天で高温が見込まれる日帰り登山のような場合、安全性を高めながらも体感温度を少しでも下げようと、ミッドカットやハイカットで非防水のシューズがほしくなる。今年は秋以降も気温が高そうなこともあり、通気性が高いシューズはまだまだ出番が多いと思われる。しかし、そんなシューズはなかなか見つからないのであった。
そんななか、ハイカットとミッドカットの中間的なアッパーの丈をもちながら、非防水性だというシューズが、アメリカのシューズメーカー、アルトラの「ローンピークハイカー2」だ。「ハイカー」という言葉が製品名に入っているように、トレイルランニングではなく、ハイキング向け。英語の「HIKING」は、日本人がイメージする軽い山歩きとは異なり、一般的な登山に近いため、ローンピークハイカー2もメーカーの位置づけとしては登山向けと考えてよい。ただし、全体的に柔軟にできていることもあり、岩場が多い高山よりも、低山の森を連ねるロングトレイル的な登山道に向いているタイプだ。重量はUS10.5/28.5㎝で365gと軽量で、長時間歩くのにも適している。
まずは特徴を確認
では、このシューズの特徴をチェックしていこう。
ローンピークハイカー2は、アルトラというメーカーの特徴そのままに、いわゆる“ゼロドロップ”タイプのシューズである。ゼロドロップとは“つま先付近とかかとの高低差がない”こと、言い換えれば“つま先とかかとの高さが同じ”ことを指している。
一般的なシューズは1:2程度の比率でかかとのほうが高く、シューズを履いて立つと姿勢が少し前傾する。しかし、ゼロドロップのシューズならば前傾せず、裸足で立ったときと同じ状態になり、素足で歩く感覚を取り入れられる。そんな感じだから、アウトソールとミッドソールを横から見ると、シューズ底面がフラットに作られていることわかる。
つま先の先端も一般的なシューズほど湾曲せず、反り上がってはいない。
かかとも同様、外側に向かってあまりそり上がらず、ほとんど湾曲していない。
足を入れていない状態でもこのような見た目だが、実際に足を入れるとシューズに体重がかかり、つま先からかかとまで、よりフラットに地面に接していくのである。
ローンピークハイカー2は、細かなディテールも一般的な登山靴とはかなり異なる。
シューズの後部には丸紐のコード。脱ぎ履きするときに指をかける場所だが、このようなルックスのアウトドア系シューズはあまり見たことがない。
アウトソールのかかとの部分は、1㎝ほど外側に張り出している。
かかと部分の底面積を広げ、着地したときの安定性を増したり、かかとから着地したときに衝撃を効果的に吸収したりするためだろう。
アッパーのくるぶし周りは前方が高く、後方が低い。ミッドカットとハイカットの中間的な丈である。
柔らかで足へのなじみも良好。くるぶしを覆うアッパーの左右には、薄手のパッドが内蔵されている。
ユニークなのは、シューレースを通す部分。レザーを丸く切り込んであるだけで、穴が覆われていてほとんど見えない。機能的な面でどういう効果があるのか、まったくわからなかったが、デザイン的にはなかなか優れている気がする。
シューレースは薄くて細い平紐タイプだ。締めたときに滑りにくく、しっかりとフィットさせやすい。ほどけにくいのも長所である。
アッパーは強度が高いスウェードと化学繊維のコンビネーション。ブランドロゴが入ったかかとの左右のみ、より傷みにくいシンセティック(合成皮革)が使われている。このアッパーはかなり柔らかく、後述するアルトラらしい足指が広がるような足型の設計もあって、とてもリラックスした履き心地を生み出している。
先に述べたように、ローンピークハイカー2は“非防水”タイプであり、アッパーの裏側にはゴアテックスなどの防水性メンブレンなどは使っていない。そのために、アッパーの通気性は抜群だ。口をつけて息を吹き込むと、アッパーの内側に空気が通っていくのがわかるほど。これならば、シューズ内部が過度に蒸し暑くはならないはずである。
裏側には柔らかな裏地が張られている。
吸汗性と速乾性が高く、通気性も申し分ない。アッパーも含め、涼しさを重視していることがよくわかる。
こちらはアウトソール。左がつま先方向、右がかかと方向だ。
前方への推進力を生み出すために、矢印が横方向に並んだラグパターンになっている。
このラグは比較的浅く、厚みは5㎜程度だ。ローンピークハイカー2は全体的に柔らかなシューズだが、アウトソールも同様。しなやかに曲がり、歩行中に無駄な力を必要としない。
ただ、少々摩耗しやすいようだ。撮影しながらのテスト以外にも、僕はこのシューズを履いて何度も山を歩いてみたが、つま先とかかと部分のアウトソールの摩耗ぶりがいくぶん気になった。これは柔軟性を重視したシューズの宿命かもしれない。
シューズ内に敷かれているフットベッド(インソール)もゼロドロップ的に平面だ。
そして、つま先方向が膨らみ、かかと方向がシェイプされたデザインになっている。フットベッドの形もまた裸足に近いのである。
さて、足を入れてみると、以下の写真のようになる。
フットベッドの形状から想像できるように、シューズ自体もつま先部分にボリュームがあるのが特徴だ。
一般的な形状のシューズであれば、狭いシューズ内で5本の足指はぴったりとくっついているのが普通である。
だが、アルトラのシューズは裸足で歩いているときと同じように、足指が開いた状態の足型で考えられている。もちろん、このローンピークハイカー2も同様だ。足の甲の部分は締まっているが、つま先部分は広い。そんなフィット感なのである。
山で着用してテスト
ここからは実際に歩いてみての感想に移ろう。
じつはローンピークハイカー2をテストする前、僕は少し不安だった。というのも、僕は以前からアルトラのシューズを履いているものの、このところの僕のお気に入りは、ミッドソールの弾力性が高く、最近増えている“厚底”タイプのシューズだったからだ。なかにはかなり前傾しているタイプもあり、ゼロドロップで弾力性も控えめのローンピークハイカー2とは対極にある存在を最近は多用していたのである。
聞くところによると、こういうシューズを愛用していた場合、いきなりゼロドロップのシューズを長時間使うとトラブルが起きる場合があり、少しずつ使う時間を長くして、慣らしていったほうがいいらしい。
だが、今回の僕は「それもまたテストの一種」と考え、一切履き慣らしの時間をとらず、いきなり丸一日の山行に使ってみたのだった。
しかし、はじめに結論を言えば、まったくは問題なし。ただ、これはあくまでも僕の場合である。アルトラ並びにローンピークハイカー2を購入された方は、慣らし履きをしていったほうがよいだろう。
ともあれ、ローンピークハイカー2を履いて最初に気付いたのは、いつも以上に“自分の足で歩いている”という感覚だ。
つま先方向が低く、かかと方向が高い一般的なシューズは体が前傾しやすいため、ゼロドロップのシューズに比べ、歩き始めると自然に足が前に出てくる。しかしゼロドロップのシューズはそのままだと体が直立しているため、自分の意志で一歩一歩、足を蹴り出して進んでいく感じになる。また、シューズ内部で足指を広げて歩けるのも、地面をつかんで自分の足で歩いている実感を高めている気がする。とはいえ、その感覚の差はそれほど大きいものではなく、すぐに意識からなくなってしまう程度のものではあった。
急な斜面を登り始めると、体自体が必然的に前傾していく。そのためにシューズの構造が前傾しているかどうかはあまり意味をなさなくなり、ローンピークハイカー2がゼロドロップのシューズであることをすっかり忘れてしまう。
ゼロドロップである意味は、起伏が緩やかな登山道のほうがわかりやすそうだ。しかし、そんなことを差し引いても、ローンピークハイカー2は“普通に”歩きやすい。
アウトソールのグリップ力も充分だ。しっかりと地面をとらえ、ぐいぐいと歩いて行ける。
つま先部分が広いアウトソールゆえにスムーズに蹴り出せるのも、このシューズの歩きやすさにつながっている。
くるぶしまでアッパーで包み込まれているため、シューズが体重を支える効果も高い。ローカットならば足首が曲がってしまいそうな木の根の上でも体が安定し、じつに快調だ。
通気性の高さは予想以上。ハイカットに近いシューズをしっかりフィットさせて履いているのに、ほとんど蒸れを感じない。さすがに非防水性のローカットには敵わないだろうが、少なくとも防水性のローカットよりも暑苦しくはない。
ローンピークハイカー2は登山向けのシューズとしては比較的華奢なタイプだ。
だが、今回はテストということで、積極的に岩場も歩いてみた。
それでわかったのは、岩場でも予想以上に使えることだ。急峻な岩場を登るようなシチュエーションには適さず、アウトソールが柔らかいために岩の突起をとらえきれないこともある。
しかし、ところどころに岩場がある程度の山ならば、まったく支障はないだろう。
ただし、濡れた岩の上は難しい。
はっきりいえば、けっこう滑るのだ。そもそも非防水タイプのローンピークハイカー2は、濡れた岩の上を歩くことはあまり想定していないはずだが、山中ではいつ雨が降ってもおかしくはない。そういう場合は、なおのこと注意しながら歩いたほうがよさそうである。
こんなローンピークハイカー2の非防水性ぶりは、ある意味、潔いと思えるほどだ。アッパーには撥水性すらなく、水分は濡れた瞬間からそのまま染み込んでいく。
その代わり、通気性は維持され、乾燥も速い。ローンピークハイカー2はそういう特性のシューズなのだと理解して履くことで、歩行中の快適性は向上する。なお、「ローンピーク」シリーズには防水性のシューズもある。濡れが気になる人はそちらを選ぶほうがいい。
軽量なローンピークハイカー2は長時間歩いていても足への負担が少なかった。ただ、弱点がないわけではない。
地面に石が多い場所では、石を踏みつけながら長い間歩いていると、次第に足の裏に違和感を覚え、ときには少し熱を帯びてくる。地面に木の根が網の目のようにはびこった場所も同様だ。
シューズの構造上、裸足感覚で歩けるローンピークハイカー2は、地面の凹凸を足裏で拾いやすい。そのために足裏が過度に刺激されてしまうようであった。
まとめ:自分の足で歩く感覚を実感。涼しくリラックスした履き心地
近ごろゼロドロップのシューズを履いていなかった僕だったが、ローンピークハイカー2はリラックスした履き心地を味わわせてくれた。しかし、今回のテストでは高低差がしっかりとある山を選んでしまったために、起伏が緩やかな場所のほうが真価を発揮してくれそうなゼロドロップシューズの本当の力をまだ実感できていない可能性もある。
ともあれ、非防水タイプなのにハイカットに近いアッパーを持つローンピークハイカー2は、足首を守りながら涼しく履くことができ、一足持っていると重宝しそうだ。ただ、ゼロドロップのシューズを一般的なシューズと併用して使っていると、ゼロドロップらしい裸足感覚を生かしながら履きこなせるまでには少し時間がかかるかもしれない。僕は今回トラブルなく快適に使うことができたが、さらに足へなじませていき、もっと気持ちよく履きこなしたいと思っている。
今回のPICK UP
アルトラ
ローンピークハイカー2
重量 | 362g(US10.5/28.5cm) |
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価格 | 23,100円(税込) |
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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