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オープン目前の「みちのく潮風トレイル」を歩く。連載第2回「トレイルに携わる人たちの思いを聞く」

みちのく潮風トレイルを歩く LONGTRAIL HIKER 齋藤正史
ガイド・記録 2019年06月13日

東日本大震災で被災した沿岸部をつなぐ「みちのく潮風トレイル」がオープンした。国内でのロングトレイルの提唱者として活躍された、作家の故・加藤則芳さんが、密かに夢見ていたトレイルが被災によって動き出した。 生前の加藤さんと親交があり、自らも世界各地のロングトレイルを歩き、普及に努める齋藤正史さんが、オープン前のみちのく潮風トレイルで関係者を訪ねて回った。レポート第2弾は、各地のトレイル関係者から聞いたみちのく潮風トレイルの魅力について紹介する。

ヤムナスカマウンテンツアーズの石塚体一さんと合流する前日、僕は一人、福島県相馬市にある松川浦環境公園を訪れた。みちのく潮風トレイルの南の起点がある場所だ。

唐桑半島の名所「八艘曳(はっそうびき)」

この場所を訪れたのは今回で2度目。1度目は、当時早稲田の大学生だった後藤駿介さんが「東北沿岸トレイル(当時のみちのく潮風トレイルの仮称)」の学生モニターとして歩いていた2013年だった。 後藤さんとは、釜石から南三陸町辺りまで一緒に歩き、その後、僕はいったん山形に戻り、また再度、塩釜辺りから合流して歩く予定だったが、2013年でも、宮城県閖上地区から南のエリアは、壊滅的な状況だったため、後藤さんは内陸部を歩き、僕は沿岸部を歩いた。

僕の目の前には、津波で流された家の基礎や、献花、漂う線香の匂い、そして工事車両が爆音をあげて震災の瓦礫を処分している姿しかなかった。被災前に使っていただろう生活用品が、工事車両で踏み固められている姿を見て僕は耐えられなかった。

沿岸部を一気に歩き、後藤さんより1日早く松川浦に着き、後藤さんの踏破式にも加わらず、そのまますぐに山形に帰った。しかし、どうやって帰ったか覚えていない。 こんな場所にトレイルを作るべきではないと強く感じたことだけは覚えている。あれから6年経ったが、このエリアのルートは、沿岸部ではなく内陸部の山域に作られている。

唐桑半島ビジターセンターの熊谷さん

トレイルの南の起点、松川浦環境公園を管理している事務局長の佐藤さんにお話を聞いた。「いまでは、どこが被災したかわからないほど相馬の町自体は復興しているよ」とおっしゃっていた。もちろん、トレイルの管理する方々は被災された地元の方が多い。「時々、外国の方がここに来るよ、ヨーロッパの人かな?」とおっしゃるので少し話し込んだ。

碁石海岸インフォメーションセンターの皆さん

僕がこれから八戸を目指して旅することを話すと、車でもいいから、スタッフを連れて八戸まで行き、各所のスタッフと話し、景色が見たいとおっしゃっていた。

今回の僕らの旅では、各地のトレイルの拠点を訪れることにしていた。みちのく潮風トレイルは、名取トレイルセンターがトレイルの本拠地になり、各地域に「サテライト」と呼ばれるビジターセンターがあり、ここで各地のトレイルを管理することになっている。

そこで、今回お会いできた、唐桑半島ビジターセンター、碁石海岸インフォメーションセンター、浄土ヶ浜ビジターセンター、種差海岸ビジターセンター、八戸市観光課、名取トレイルセンター、八戸、宮古の自然保護官事務所のレンジャー・アクティブレンジャーの方に、アンケート形式で同じ質問をぶつけてみた。

まず、環境省のレンジャー以外は、アクティブレンジャーも含めて概ね地元の方であった。震災の時も地元にいた方が多かった。中には、家族の助けとなるため、県外からUターンされた方もいた。みちのく潮風トレイルと同様、震災がきっかけになったのだろう。

浄土ヶ浜ビジターセンター佐々木さん(左)

次に、この「みちのく潮風トレイル」の業務に携わる前、トレイルの存在を知っていたかの問いに対しても、レンジャー以外の方のトレイル認知度は低く、いずれも業務を始めてから知るといった状況だった。業務に関わるか、アウトドアに興味がある以外の一般の方では、みちのく潮風トレイルがある三陸においても認知度が高いとは言えないのかもしれない。

宮古自然保護官事務所の福地さん

実際に、トレイル業務に携わってどう感じるかの問いに対しては、「地元の魅力を再発見することができた」「車の移動では気づけなかった地元の良さ、歩く度に色々な発見があり楽しい」という回答が、地元の方で構成されるインフォメーションセンターのスタッフに多かった。 今回の旅で多くの方に接する中で、自然の景色をおすすめされることが多かったことも、業務として携わり、歩く中でその魅力を感じたことの答えなのかもしれない。

八戸自然保護官事務所 友野さん

また、「トレイルの開通にあたりどのような期待がありますか?」という質問に対しては、業務でトレイルに関わられていることもあって、「多くの方に東北へ、三陸へお越しいただきたい」という意見が大部分を占めた。 きっと他の地域で聞いたなら、ピンポイントでその土地の地名が挙がると思うのだが、今回の皆さんは、「東北」「三陸」という大きなくくりで捉え、多くの方に来てほしいと感じている。自分の地元エリアだけでなく、被災地を一つのエリアとして捉えているところは、被災地でありトレイルで結ばれた地域特有なのかもしれない。

岩手県宮古市浄土ヶ浜

そして、アンケートの最後に、お住まいの地域のオススメを聞いてみた。そこには、観光雑誌やパンフレットに載りにくい情報を書かれた方が多く、驚いた。八戸エリアのアンケートを例にとると、八戸周辺では、とにかく芝生が気持ちいい。点在する漁港が魅力だ。蕪島から種差河岸までの風景展開など、固有名ではない、歩くからこそ感じられる「面」としての魅力が綴られていた。

種差海岸インフォメーションセンターの丹波さん

それは、地元に暮らす方々がトレイルに関わり歩くことで、象徴的な観光拠点ではない、「地域の文化や自然を含めたストーリー」が地域の魅力になっていることを実感しているのだろう。 各所のスタッフの方は、トレイルのマーカー設置やトレイルのメンテナンス作業などで、数多く歩かれ、地域の方々ともお話をしている。その中で、歩く文化について、トレイルについて、自然な形で体験しているのだ。

トレイルのマーカーとテープマーカー。地元の方によるメンテナンスが不可欠だ

僕自身も幾度となく訪れた三陸の地で色々な発見があった。

まず一番驚いたのは、出羽三山の信仰がこの地まで響いていたということである。月山神社、湯殿山神社などの名前をよく目にした。その昔、大漁祈願で、出羽三山から山伏が訪れることがあったそうだ。

青森県八戸市蕪島。トレイルの北の起点

もし、出羽三山の信仰が、この三陸の沿岸部に広く広まっていたとすれば、昔の人々は、南北に延びるこの「みちのく潮風トレイル」のルートのような道を歩き、出羽三山または、江戸、京を目指したのかもしれない。それが、現在は道路になり、一部が峠道として残っているのだろう。時には神社で野宿をして、お供え物を分けてもらい、宿場町で湯につかり、目的地を目指す。そんなトレイルに似た旅が昔の日本にもあったはずだ。

大船渡湾の日の出

ざっと訪ねて歩いた今回の旅で私が感じたこと、それは、まずは、観光地を巡る気持ちで、みちのく潮風トレイルの名取トレイルセンターやサテライト施設を訪れて欲しい、ということ。 初めての方でも、短時間で歩けるトレイルを歩いて、景色を見て、スタッフとお話していただけたら、「みちのく潮風トレイル」の魅力に触れることができるのではないかと思う。

全線オープンを目前のお忙しい中、アンケートにお答え頂いた関係者のみなさまに感謝したい。

***

次回は、石塚さんと実際に歩いた青森県の種差海岸から八戸・蕪島のトレイルのルポを掲載したい。

教えてくれた人

齋藤正史(さいとうまさふみ)

1973年、山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。
2005年に、アパラチアン・トレイル(AT)を踏破。2012年にパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破。2013年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成た。日本国内でロングトレイル文化の普及に務め、地元山形県にロングトレイルを整備するための活動も行っている。

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