九つの輪にならないけども、大きな花が咲くクリンソウとシカの関係

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ちょうどこれからの季節に見頃を迎える「クリンソウ」。今日は、シカとの不思議な関係について、植物写真家の高橋修さんに教えていただきました。

クリンソウはサクラソウの一種。新緑の色が濃くなったころ、山の湿原や、流れの近くに咲く。ひとつの花冠の直径は2~2.5cmもあり、これが集まって咲く園芸品種のように派手で美しい野草だ。花の名前は漢字で書くとわかりやすい。「九輪草」・・・これだけでは何が九輪なのかがわからない。もう少し説明が必要だろう。

花茎がまっすぐ上に向かって80cm程度まで伸び、茎から花が輪状に付き、その花の輪が9段にもなるというのが花の名前の由来。実際は多くても5段程度で9段になることは、まずない。9という数字は何段にもなるという意味があるのだろうか。葉にはしわがあり大きく、長さは40cmになる。

近年日本の山では野生のニホンジカが増加し、植物を食べ尽くすという被害が起きている。山を歩いていて、下草がなくて遠くまで見渡せ、歩きやすい山がそうだ。そんな山にもクリンソウは咲いている。周りの植物がみな食べられていても。シカにとってクリンソウはどうやら有毒らしい。ほかの植物がシカに食べられるのに、クリンソウは食べられないため、近年日本各地でどんどん増えて続けているという現象がみられる。日本の山はクリンソウでいっぱいになるのだろうか。

実際はそうはなりそうにない。シカは増えすぎて、食べられる植物は食べつくしてしまい、ほかに食べるものがなくなり飢えてしまった。こうなるとシカもさるもの。クリンソウの花穂だけを、ほんのちょっぴり食べるシカが現れたのだ。自然の進化は今も続いている。

大きな花冠が特徴のクリンソウ

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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