山頂で初日の出を見よう!天気の注目ポイントは?

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太陽は毎日欠かすことなく昇りますが、やはり1年の最初の日の出は特別な意味を持つものです。大きなイベントが目白押しの2020年は、山頂からの特別な元旦を迎えてみては?

とはいえ、夜間の登山には不安が付いて回ります。関東の人気のご来光スポット・筑波山に登ってきました。ぜひ、ご来光登山の参考にしてみてください。

 

出発は暗闇の中 吐く息が白く

筑波山のコースタイムは、登山口から女体山の山頂までおよそ100分。この日の日の出の時刻は6時40分ごろなので、4時50分ごろに出発すればご来光に間に合う計算になります。

ただ、コースタイムはあくまで目安です。個人のペースや道の状態によってかかる時間は大きく変わりますので、自分のペースを把握した上で時間に余裕をもって出発しましょう。私たちは、登山口で最新の天気予報を確認した後、途中で休憩する時間を考えて4時過ぎに出発しました。


歩き始めるとすぐ、吐く息が白くなっていることに気が付きました。息が白くなるのは、呼気に含まれている水蒸気が急に冷やされて非常に細かい水滴になるためです。

気温がおよそ10度以下の環境で口からの息が白くなり始めるとされていますが、鼻からの息が白くなるのはおよそ4度以下だといわれています。鼻からも白い息がもれるので、かなり冷え込んでいることがわかります。

それでも、登りの傾斜がきつくなると汗をかくようになります。登山中は、なるべく汗をかかないように行動するのが鉄則です。汗で衣服が濡れてしまうと、どんどん体温が奪われていくからです。

歩くペースを調節して汗をかきすぎないように心がけることと、吸湿性の悪い衣服を着用しないことが重要です。

 

日の出を待つ時間がとにかく寒い

山頂に到着すると、急に風が冷たく感じられます。周囲を遮るものが少なく、風が吹き抜けるためです。一般的に、風速が1メートル大きくなれば、体感気温は1度も下がるといわれています。それほど強い風ではなくても、風が通りやすい場所ではことさら寒く感じてしまうのです。

山頂でご来光を待つこの時間に、準備してきた防寒具が役立ちます。ダウンジャケットやネックウォーマー、手袋で体を保温しましょう。

風が強いときはウィンドブレーカーも役立ちます。お湯を沸かして飲んだり、湯たんぽで体を温めたりすることも体を温める効果がありますが、筑波山のように炊事は禁止の場所も多いので注意が必要です。


肝心のご来光ですが、今回は残念ながら上空の低い層に雲が広がったため、わずかな光芒が見えたのみでした。なぜ雲が広がってしまったのかは、後の段落で詳しく考えることにします。

 

下山中にも様々な現象との出会いが

山は自然現象の宝庫です。明るくなって周囲の様子が分かるようになると、様々な気象現象に出会うことができました。まず、下山を始めてすぐに、登山道の脇にたくさんの霜柱ができていることに気がつきました。


霜柱ができるには、風が弱く、気温がおよそ4度以下、地表は氷点下まで下がる必要があります。この日は夜から朝にかけて風が比較的穏やかで、夜間は雲が少なかったため放射冷却が強まって冷えて立派な霜柱が育ったと考えられます。

さらに下ると、登山道に巨大な木が倒れかかっていました。後日、筑波山観光案内所に確認したところ、台風15号による倒木だと教えてもらいました。


今年9月9日に強い勢力で関東に上陸し、強風による大きな被害を出したこの台風は、筑波山の森林にも影響を与えていたのです。あたりを見回してみると、登山道に倒れ掛かっている巨木のほかにも、幹が途中で折れて、倒れてしまっている木がいくつか見られます。慎重に倒木をくぐって通過し、午前9時ごろにもとの登山道まで下りてくることができました。

このように、山林は様々な気象現象の影響を受けています。注意深く観察しながら山に登ると、もっと多くのことに気が付くことができます。

 

曇った要因 晴れマークの「行間」を読んでみよう

なぜ、この日は雲が広がって期待していたご来光を見ることができなかったのでしょうか。実況天気図を見ると、本州付近は高気圧に覆われる状況ですから、天気が良くなることを期待してしまいます。


実際には、寒気の影響を受けている北日本や北陸だけでなく、関東や東海も雲に覆われました。実は、登山前日の資料には、雲が広がることを予感させるような不安材料があったのです。


上の天気図は、登山前日の12日の朝にtenki.jp登山天気のアプリを使って確認した予想天気図です。本州付近は高気圧に覆われますが、楕円形にはならず、関東の南の海上には等圧線のへこみが見られます。ここには気圧の谷が隠れています。別の資料でも確認しましょう。


上の図は、上空1500m付近の相当温位という指標と風の流れを示したものです。この資料も12日の朝の時点で、tenki.jp登山天気のアプリから閲覧しました。相当温位は数字が大きいほど空気が温かく、湿り気を帯びていることを意味します。

そこで、300K以上の部分を色分けしてみると、予想天気図で気圧の谷があった場所が周囲よりも相当温位が高いことがわかります。風の流れまで詳細に確認すると、この場所に風向きのずれ(気象予報士はこれをシアラインと呼んでいます)がありました。

つまり、関東の南の海は風が集まって雲が広がりやすい状態になることが事前に予測されていたのです。この雲が、上空の気圧の谷と対応するなどして陸地のほうにどこまで広がってくるかが関東地方の天気を大きく左右します。

今回、筑波山は晴れの予報でしたが、資料を見ると微妙な判断のもとでの晴れマークだった可能性があります。マークだけを追いかけるのではなく天気図を見て天気マークの「行間」を探ってみると、面白い発見をすることがあります。

年末年始に山に入る方も多いと思います。この原稿を書いている時点で懸念しているのは、26日ごろに中部山岳の標高1500mから2000m付近でも雨や湿った雪となった後、元日ごろに強い寒気に伴う降雪が予想されていることです。

性質の異なる雪が降り積もることで雪崩が発生しやすくなるかもしれません。とくに雪山に向かう方は、資料を使って天気を予想してみるとともに、雪崩の不安定性に関する情報を確認するようにしましょう。

 

プロフィール

宮田雄一朗

日本気象協会所属の気象予報士。山梨県で気象キャスターをしています。天気予報をきちんと伝えられるように奮闘中。日々の天気の話題の中で、登山にちょっと役立つ知識もお届けします。

日本気象協会

日本の気象コンサルティングサービスのパイオニアとして1950年に創立。以来、気象・環境・防災などに関わる調査解析や情報提供を行っている。
近年ではAIやIoT、気象ビッグデータの活用を通じ気象の調査解析、情報提供の精度を向上させ、気候変動への適応など持続可能な世界を実現する活動を支援している。
 ⇒tenki.jp

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