冬枯れの雰囲気の山に、ピンク色の花を咲かせるツツジ「アカヤシオ」
冬枯れ色の山が新緑に染まり始める頃に、野山を彩る花の1つが「アカヤシオ」です。寒々とした世界に咲く、温かみがあるピンクの花が印象的な、このツツジ科の花について、自然・植物写真家の高橋 修氏が説明します。
山の早春にピンク色の花を咲かせるツツジがアカヤシオだ。冬枯れの雰囲気が残る、まだ木の芽が膨らんだ程度の頃に葉が展開する前の林に咲く。葉が出てくる前の落葉樹林は灰褐色だけで色がない。そんな寒々とした世界に咲くので、温かみがあるピンクの花がとても印象的だ。

4月の下旬から5月下旬にかけて、北関東の山々に多い。今なら日光の丸山あたり、これからの時期であれば赤城山の黒檜山あたりの山が満開になる。
別名のアカギツツジは赤城山に多いから。赤城山の麓から、ピンクの花が咲き始め、日々山頂に向かってアカヤシオの花前線が駆け上がる。数本が群生することが多く、まれに大群生となり、山をピンク色に染める。花をよく見るとあまりツツジっぽくはない。正面から見ると、サクラの花のようである。

実は日本にはアカヤシオの仲間は3種類ある。しかし一見するだけだとその3種類は花も雰囲気もみなそっくり。見分けるポイントは雄しべに毛があるかないかだけ。「えー、それだけー」と言われそうだが、植物にとってはけっこう毛が大事なのだ。
ツクシアケボノツツジは雄しべに毛がない。アケボノツツジはひとつの花で雄しべに毛があるものとないものがある。
アカヤシオには雄しべに毛が多い。福島県~紀伊半島の一部三重県の太平洋側に分布するのがアカヤシオ。紀伊半島~四国に分布するアケボノツツジ。九州に分布するのがツクシアケボノツツジ。
高知と愛媛の県境にある篠山はアケボノツツジで有名な山だが、昨年登って花を見てみると、すべて雄しべは無毛のツクシアケボノツツジタイプだった。
たぶんこの山のアケボノツツジはツクシアケボノツツジだと思われる。九州から四国に渡ったのだろう。ツツジの移動能力は強いようだ。
プロフィール
髙橋 修
自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。
髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」
山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。
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