これからの登山情報収集術  第4回 私たちが意識すべきポイントと情報との付き合い方

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文=吉澤英晃

登山を安全に楽しむためには情報収集が欠かせません。書籍や雑誌も存在しますが、今では本を読まない、インターネットだけで充分、という方もいるでしょう。しかし一方で、インターネットの情報をうのみにするな、という声もよく耳にします。

連載の最後になる第4回は、今までの内容をまとめながら、さらに情報を集める上で考えたいポイント、情報との付き合い方についてお届けします。

⇒第1回 ITジャーナリストに教わる信頼性の高い情報を集めるコツ【高橋暁子さん】

⇒第2回 花谷泰広さん直伝、インターネットを賢く活用する方法【花谷泰広さん】

⇒第3回 ガイド著者・星野秀樹さんに聞く、頼れるガイド本作りの背景【星野秀樹さん】

情報を収集するときのポイントまとめ

「登山を始めたいけど、どんな道具を揃えればいいの?」「もうちょっと軽い登山靴が欲しいけど、オススメはなんだろう?」「日本アルプスに挑戦したいけど、人気のコースはどれ?」。普段私達が求めている情報は枚挙にいとまがありません。

この連載では専門家の方々に意見を聞きながら、それらの様々な情報をどうのように収集して、そのときに何に注意すればいいのか具体的に考えてきました。改めてポイントを振り返ってみましょう。

インターネットではまず、省庁関連や企業など信頼性の高い情報源にアプローチして情報を集めましょう。地元の自治体や観光協会、山小屋、登山の専門メディア、道具メーカーなどがそれにあたります。

もちろんSNSや個人が運営するブログなども参考になります。このとき情報発信者がガイドやショップスタッフなどのある種の専門家なら業界での実績を、一般の方なら登山歴や口コミなどから総合的に判断して、発信していることが信頼できる情報か見極めましょう。

計画を立てるときは、ひとつの情報に固執しないように注意します。最近の記録や一年前の同時期の情報など、多くの記録を見比べて危険箇所や登山道の様子などを把握しましょう。コースタイムについては個人の記録よりも、例えば『山と高原地図』など企業が発信している情報を参考にした方が平均的なものがわかります。

書物も便利な情報媒体です。ガイド本は筆者が実際にコースを歩き、読者目線で集めた情報を掲載している点が個人記録との大きな違いです。危険箇所については何が危険なのか具体的に書かれており、一読するだけで季節による登山道の変化も把握できます。最新の情報は入手できませんが、初心者が概況を知る上ではとても役立つツールといえるでしょう。

分かっていても難しい、情報に流されないということ

これからの時代、情報を集める上では「ひとつの情報に固執せず」「多くの情報から総合的に判断する」ことがひとつのポイントになります。しかしそれらを意識しても、気づけば情報をうのみにして流されていることがあるかもしれません。

登山とは関係ない事例ですが、2019年にある場所がインスタ映えのスポットとして話題になりました。そこは瀬戸内海に接する船舶の修理場。ここが某長編アニメ映画のワンシーンのモデルになったという情報が拡散し、連日多くの観光客が殺到したのです。当時、企業が運営するメディアもこの場所をオススメスポットとして紹介しました。しかし実はこの場所が映画のモデルになったという情報は事実無根のガセネタ。多くの個人や企業までもがデマに踊らされたのです。

ここで考えたいのは情報の信憑性についてではなく、人気があるものや大勢の人が「いいね」と言っていることに関しては、私達は容易に受け入れてしまいがちだとうことです。ブームという言葉があるように、身に覚えがある人は多いでしょう。

今回の取材では、剱岳にある早月尾根で日帰り山行が増えていることが話題になりました。ヤマケイオンラインの「みんなの登山記録」を見ると、7〜9月に早月尾根を往復した記録は36本で、そのうち日帰りは22本。8月にいたっては13本中10本が日帰りという状況でした。これだけを見ると早月尾根を日帰りで計画することは当たり前のように感じます。

しかし、別の情報に目を向けてみると、スタート地点となる馬場島から剱岳までの標高差は2,237m。ヤマケイオンラインの「ヤマタイム」のコースタイムでは14時間とされています。休憩を挟めばさらに時間がかかるでしょう。

所要時間14時間とされている標高差2,237mの行程を1日で歩き通す自信はありますか? 中腹には山小屋がありテントを設営することも可能です。

どんな計画を立てるかは登山者の自由です。いずれにせよ、周りの声に惑わされずに物事を考えて判断できるようになることが、登山を安全に楽しむひとつのポイントになるのではないでしょうか。

早月尾根~剱岳・登山情報

経験に応じてバランスよく情報と付き合おう

安全登山に情報は欠かせません。しかしそれは一方で、山登りの楽しみを奪ってしまう側面もあるようです。

今の時代、自宅にいながら山に登った感覚になれるほど写真や動画を見ることができます。情報を集めすぎると「これがインターネットで見た写真の景色か」とか、「ああ、ここが本で読んだ場所か」とか、楽しみにしていた登山が結果的に答え合わせになってしまうかもしれません。

もちろん初心者なら不安が無くなるまで情報を集めるべきでしょう。しかし、ある程度経験を積んだら徐々に集める情報を減らしてみるのもひとつの方法です。登山者としてステップアップできると共に、未知の大自然にアイデアと経験で立ち向かう新たな登山の楽しさがその先にあります。

上手に情報を集めて、バランスよく付き合い、安全に楽しい登山を続けましょう。

 

吉澤英晃

大学の探検サークルで登山を始め、社会人になってからは山岳会に所属。無積雪期は沢登り、積雪期はアイスクライミング、雪山登山をメインに四季を問わず毎週のように山で遊んでいる。山道具を扱う会社で約7年の営業職を経て、現在は登山・山岳ライターとして活動中。

安全登山について考える。これからの登山情報収集術

登山を安全に楽しむためには情報収集が欠かせません。今や情報はインターネットから入手するのが当たり前の時代。書籍や雑誌という紙媒体も存在しますが、本を読まない、インターネットだけで充分、という方もいるでしょう。しかし、インターネットの情報だけを鵜呑みにするな、という意見もよく耳にします。なぜインターネットの情報を信じてはダメなのか? 書籍や雑誌はもう役に立たない? 全4回に渡るこの連載では、ITジャーナリスト、山岳ガイド、書籍の著者の方々に話を聞きながら、安全に山を登るための情報収集の方法について、改めて考えていきたいと思います。

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