「上空の寒気による不安定な天気」を高画像度ナウキャストを活用して確認。上空寒気の解説/第1回

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

今回のテーマは「上空の寒気による不安定な天気」。天気予報を見ていると、よく耳にするこの言葉、実際にはどんな様子を指しているのか? 気象庁の「高解像度ナウキャスト」を用いて解説する。

 

ヤマケイオンライン読者の皆様、山岳防災気象予報士の大矢です。 新型コロナウイルスのため、不要不急の外出を自粛するように要請が出ている中で、山に行けずに悶々とされている方が多いと思いますが、こんな時こそ登山に欠かせない気象の知識を蓄えておく絶好のチャンスです。私も微力ながら皆様の安全登山のためのお力になれるように努めてまいりたいと思います。

今回から数回にわたって、「上空寒気」による不安定な天気について解説していきたいと思います。上空寒気は冬なら豪雪、春から秋にかけては落雷、突風、急な強い雨、そして山では春秋に予期せぬ吹雪などをもたらす厄介者です。その怖さを知らないために起きた遭難事故は過去に何度も繰り返されています。

まずは、不安定な天気になった時に対処するための非常に有効なツールとして気象庁の「高解像度ナウキャスト」について、今年(2020年)の4月18日の事例でご紹介していきます。

 

4月18日の気象状況はどうだったのか(地上天気図と高層天気図)

4月18日(日)は、西日本から東北で雷を伴った激しい雨が降り、東日本から東北南部の太平洋側に中心に大雨になりました。地上天気図をみますと、南岸と日本海を低気圧が東に進んでいます。一見すると、前回までの連載で取り上げました「二つ玉低気圧」のようですが、気象状況としてはかなり違っています。

2020年4月18日の3時間降水量の日最大値 (出典:気象庁)

 

2020年4月18日の気象庁の地上天気図 (左図:9時、右図:15時)


天気図を確認すると、南岸の低気圧が紀伊半島から関東北部に進んでいるのに対して、日本海の低気圧はほとんど進んでいないように見えることと、日本海の低気圧は前線を伴っていないことにご注目ください。

前線を伴わない低気圧の上には上空寒気が存在し、その場合には地上の低気圧の動きが遅いということを覚えておかれると良いと思います。実際にWindyによる500hPa天気図では、日本海に寒冷渦(寒気を伴う上空の低気圧)が解析されています。

Windyによる2020年4月18日15時の500hPa天気図

 

上空寒気による不安定な天気に遭遇したら「高解像度ナウキャスト」を活用しよう

春になって地上が暖かくなってくる時期に、このような上空寒気が存在すると、地上の暖かく湿った空気は相対的に軽いため、かなり上空まで上昇して積乱雲にまで発達します。その結果、局地的に雷を伴った激しい雨が降ったり、春の時期の山では季節外れの吹雪になったりします。

もちろん救助がすぐに来ない山では、あらかじめ予想して対処するに越したことはありません。その対処法については次回以降に解説しますが、今回は不安定な天気に遭遇してしまった時の強力なツールである、気象庁の「高解像度ナウキャスト」の使い方についてご紹介いたします。

高解像度ナウキャストを開くと、現在の降水の実況が出ます。ここでは3時間まで遡って確認することができて、1時間先の降水の予想を知ることができます。下の図1は4月18日の11時10分の降水の実況で、30分遡って見ています。局地的に強い雨が降っている様子がわかると思います。

図1:4月18日の11時10分の降水の実況(気象庁の高解像度ナウキャストより)


続いて下の方にある「雷」のボタンを押すと、雷の実況が出ます。■は落雷、×は雲放電(地上に落ちない雷)を表しています(図2)。

図2:4月18日の11時10分の落雷の様子(気象庁の高解像度ナウキャストより)


すると槍ヶ岳や乗鞍・御嶽付近、中央アルプス南部付近で落雷があったことが分かりますが、注目は兵庫県の山地での落雷です。弱い雨なのに落雷が発生しています。これまでの遭難事故でも、雨が降っていなくても落雷事故が発生しています。こうした場合は、どう対処したらよいのでしょうか。

そこで威力を発揮するのが、「雷」の左にある「竜巻1・竜巻2(ナウキャスト)」のボタンです。難しいことは抜きにして押してみましょう(図3)。

図3:4月18日の11時10分の、「竜巻1・竜巻2(ナウキャスト)」を押した様子


雨が降っていなくても、大気の状態が不安定なために竜巻が発生する可能性があるエリアは、落雷の危険性が高いエリアでもあります。兵庫県の山地も、竜巻と同時に落雷の危険もあることが一目瞭然です。気象庁の高解像度ナウキャストは、夏の落雷の危険予測にも使えますので、是非ともご活用いただけますと幸いです。

 

プロフィール

大矢康裕

気象予報士No.6329、株式会社デンソーで山岳部、日本気象予報士会東海支部に所属し、山岳防災活動を実施している。
日本気象予報士会CPD認定第1号。1988年と2008年の二度にわたりキリマンジャロに登頂。キリマンジャロ頂上付近の氷河縮小を目の当たりにして、長期予報や気候変動にも関心を持つに至る。
2021年9月までの2年間、岐阜大学大学院工学研究科の研究生。その後も岐阜大学の吉野純教授と共同で、台風や山岳気象の研究も行っている。
2017年には日本気象予報士会の石井賞、2021年には木村賞を受賞。2022年6月と2023年7月にNHKラジオ第一の「石丸謙二郎の山カフェ」にゲスト出演。
著書に『山岳気象遭難の真実 過去と未来を繋いで遭難事故をなくす』(山と溪谷社)

 ⇒Twitter 大矢康裕@山岳防災気象予報士
 ⇒ペンギンおやじのお天気ブログ
 ⇒岐阜大学工学部自然エネルギー研究室

山岳気象遭難の真実~過去と未来を繋いで遭難事故をなくす~

登山と天気は切っても切れない関係だ。気象遭難を避けるためには、天気についてある程度の知識と理解は持ちたいもの。 ふだんから気象情報と山の天気について情報発信し続けている“山岳防災気象予報士”の大矢康裕氏が、山の天気のイロハをさまざまな角度から説明。 過去の遭難事故の貴重な教訓を掘り起こし、将来の気候変動によるリスクも踏まえて遭難事故を解説。

編集部おすすめ記事