行程・コース
天候
晴れ/晴後雨/曇り時々雨
登山口へのアクセス
マイカー
この登山記録の行程
田代登山口(8:00)尾根取付(10:15)転付峠(11:40)二軒小屋(12:30)蛇抜沢出合幕営(14:10/5:20)屈曲部(1,850m/)大滝30m
/上(2,520m/9:30)カール底(2,650m/10:00)稜線2,960m(11:05)西小石岳(11:40)デポ(12:35)悪沢岳幕営(13:20/5:20)丸山(5:40)千枚岳(6:10)二軒小屋(9:10~35)転付峠(11:05)川原(11:45)田代(13:25)
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
盆休み帰省の渋滞を際どい処で逃れて中央高速を抜け、田代登山口に車を停める。ここから転付峠への道も、何時の間にか9回も通う事になった。
4日分の食料と40mの補助ザイル・エイト環等を加えてザックの重さは18kgになったが、順調に転付峠を越えて所要4時間強で二軒小屋へ下りる。
東海フォレスト経営のロッジ前のテント場は広々としており、草を刈込んで如何にも快適そうだが、今日の目的地は西小石岳への登路とした蛇抜沢の出合であり、自動販売機で缶ビールを買って再び暑い陽射しの中へ歩き出す。
ゲートの所でクーラーやシュラフを満載したミニバイクに乗った釣人4人に出会う。転付峠では竿の入った長い筒を持った大学の釣同好会と思しき若者3人と出会い、「釣れました?」と聞くと「釣れました!」と意気揚揚とした答えが返って来たし、二軒小屋のテント場では8~9寸の岩魚2匹を給気ポンプ装着の携帯用水槽に入れて満足げなマニアと話をしたが、渓流釣りファンにとっては大井川上流部は非常に魅力的な所の様だ。シーズンイン直後の4月頃は、二軒小屋は釣人に占領されるらしい。
数年前の夏休み、高校生の息子二人を連れて転付峠を越え、1泊2日で遥々と大井川へ岩魚釣りに遣って来た時の事を思い出す。この時は、3人で都合3匹を釣って辛うじて数が合ったのだが。
荒れた道を予想して1日で出合まで行けるか危惧していたのに反して、西俣の林道は能く手入れされて使われており、足が捗る。林道を分断して流れているのが蛇抜沢の出合で、気持ち好さそうな砂地にツェルトを張り、ほっと落ち着いて寛ぐ。
出合の下流で帰り道の釣人を目撃し、一息入れてから竿を取り出して餌釣りを試みるが、全く当たりは無く魚影も見当たらない。根掛りしたので勢いを付けて竿を絞ると途中で折れてしまい、予想外の事態にがっかりするが、「3,980円の安物にも拘わらず、黒部川上ノ廊下遡行時に初めて岩魚を釣って以来、20年以上もの間、考えて見れば能く使ったし役に立ったものだ!」と感謝し、折り畳んだ竿を石の下に埋めて引導を渡す。
3時に起きて外を覗くと満天の星が飛び込む。張り切って朝飯の支度に掛かり、地下足袋の上に草鞋を履いて出発する。
水量が多く、大きな岩がゴロゴロと積み重なった蛇抜沢は大味で歩くのに苦労するが、傾斜がある分高さを稼ぎ易い。間も無く屈曲部に掛かり、滝が幾つも現われる。沢床の岩が硬いので水流が細く搾られて、小粒でも滔々と水を落下させて迫力がある。
F1:3連10m、F2:6m、F3:5mを右から越え、F4:3mは左を登る。ゴルジュ状になっているので高巻くのは困難で緊張する場面もあるが、流芯の横や側壁の弱点を拾って通過する。計画段階では沢全体の傾斜が緩いので大して心配もしていなかったのだが、記録も見当たらない始めての沢はやはりそれなりに緊張する。
上流を見上げると白い物が横たわっており、「すわ雪渓か!」と思って登ると白く磨かれた大きな流木が沢を塞いでいる。更に3m、3m、5mと滝を越えて行くと、左岸から崩壊地(西小石岳直下に在る)に続く荒れた沢が流入する。
悪沢岳から西小石岳に連なる尾根上の暫定目標地点の標高2,900mと出合との高度差は1,400mあり、1時間に200m登ると言う控え目な見積りだと約7時間を要する訳だが、「結構早いピッチだ」と思って歩いていたものの2,300m地点を8時過ぎに通過し、それ程のスピードではないと知る。
水流が細くなり、「そろそろ水を確保しなければ」と考えながら登ると、本流が涸れる地点の右岸に枝沢が申し訳程度に水を落としている。直ぐ上には30mの滝が屹立しており、岩肌が白く乾いているので上流に水は期待出来そうになく、水筒2本に水を詰める。重くなったザックを背負って傾斜の強い滝を登るのは緊張するが、ホールドが多いのに助けられてすんなりと上に抜ける。
滝上の日向の岩に腰を下ろして地下足袋を脱ぎ、山靴に履き替える。ワラジは岳樺に結び付けて遡行の証とする。岳樺の間の涸れ沢を登ると植生は這松となり、間も無く悪沢岳とP3,032m(丸山)の間から落ちているカールの底に出て、西小石岳の尾根を初めて目にして「やっと山頂が近くなった」と心が騒ぐ。這松の濃緑色ではなく高山植物の黄緑色の草地が尾根の上部まで途切れる事無くカールの側壁に続いており、這松漕ぎのアルバイトを強いられる事は無さそうである。丸山付近のたおやかな稜線には登山者の姿が黒く小さく見えている。
緩やかなカールの底をゆっくりと歩いて行くと、それ程古くない赤ペンキが石の上に残っているのを見付けて吃驚する。「西小石岳に通じている古い道が、右手の岳樺の中に在ったのかも知れない」と想像する。しかし、敢えて岳樺と這松の中へ踏み込む気もせず、草付の斜面を忠実に登る。
傾斜はどんどん増し、獣道(カモシカの通り道?)を拾いながら高度を上げる。トリカブトやシオガマ、タカネヤハズハハコ、ウサギギク等の高山植物を愛でながら1時間程で稜線直下に達し、「上の様子を偵察しよう」と空身になって這松帯を横断して登ると、呆気なく尾根の上に出る。高度計は2,915mを示しており、尾根の先を見下ろすと西小石岳と思しき小岩のピークが認められる。改めてザックを担ぎ上げ、尾根の背に腰を下ろして大休止とする。
食料と水を摂り、カメラだけを持って「待望の山頂へ!」と北へ向かって下降する。尾根の西側は概して這松が生えておらず、這松と草地とのコンタクトラインを足取りも軽く歩いて、あまりお目に掛からない高山植物を写真に収めながら楽しく下る。かつての登山道の名残のケルンや赤ペンキが這松の間にポツンポツンと残っている。
尾根の段を2つ下り、地形と標高から「西小石岳の山頂だ」と判断して(幾つかの高点を歩き回って)三角点を探すが見付からず、さらに一段下ったピークを探しても発見出来ない。標高は2,820mでぴったりなのに、不思議な事だ。かつて地図に記載されている三角点が存在しなかった事は無いのに。
尾根の先の数十m低い所に小岩の高まりが見えているが、高度計が50m以上もずれた事は無いし、両側へ尾根が派生している地形から言っても山頂に居る事は間違い無いと思うのだが。
一段登り返して這松の上に体を伸ばして横になり、暫くの間休息を楽しむ。5~6mの風があって空気は以外と冷いのだが、這松の枝に埋もれて日向ぼっこをしていると世は正に天国である。
昨夜の天気予報が気になり、「八丈島付近の弱い熱帯性低気圧は如何なっただろうか」とスイッチを入れると、「関東南部は今日の午後から雷を伴った雨となり、北部も夜半から同様の天気になる」との事で、明日の行動に迷う処だ。確かに、上空には絹層雲が広がって悪化を予想させる雲行きだ。
40分でデポに引き返し、標高差230mを50分で登って悪沢岳に出る。「以外と元気で歩けたな」と思いつつアジャストしようと思って高度計を見ると3,070mとなっており、実際の標高より70mも低い値を示している。「すると、目指す西小石岳の山頂はもう一段低い所だったのだろうか?」と確信が揺らぐが、今更如何しようも無い。
悪沢岳は流石に人気があり、大きな山名柱の周りでは10人程が登頂の喜びに浸っている。なかなか悪化しそうにない空を眺めながら、「明日の天気が好ければ高山に登り、4日目の天気次第で小日影山と除山へ登るかどうか判断しよう。悪ければ二軒小屋に下って帰ろう」と決め、3時頃、這松の枯枝を支柱にして頂上の岩の間にツェルトを張る。
17時を過ぎても荒川(前岳)小屋へ登って来る。尾根の雲が取れた時には笊ヶ岳・布引山や稲又山・青薙山が姿を現わす瞬間もあり、懐かしく眺めてつれずれに時間を潰す。ガスも出て薄暗くなった頃、マウンテンバイクを押し上げて本日最後の登頂者が椹島から遣って来る。テントの外で炊事をして食事を済ませ、16時の天気図を書く。のんびりと夕刻の時間を過ごして1日の疲れを癒し、前夜の睡眠不足を解消しようと寝袋に潜り込む。
北風が間断無くツェルトをはためかせて、結露した水滴が引っ切り無しに落ちて来る。顔に掛かるとヒヤッと冷いし、ゴアテックスのシュラフカバーがどれほど有効かも気になる。その内に雨も降り出して、眠れない長い夜を過ごす。
「何時までも寝ている訳には行かない」と諦めて起床し、カッパに身を固めてラーメンを作り、5時過ぎに二軒小屋へ向かって下山を開始する。
視界は10m程だが、雨は降ったり止んだりで苦痛になる程ではない。千枚小屋から悪沢岳登頂を目指す人が多数登って来るが、雨を嫌って千枚岳で引き返す人も居る。千枚小屋への道を分け、マンノー沢ノ頭から二軒小屋への道に入ると、草や小枝が覆い被さって雨露で靴の中が濡れる。中間点付近まで下ると雨は止み、カッパを脱いで歩く。
「前田君と2人で荒川小屋から下って以来33年振り2度目の道なのだ」と思うと、やはり懐かしい。「椹島から登る人が殆どで、ここを登路に採る人は居ないのだろう」と道の具合から想像するが、二軒小屋までの間に都合15人程と擦れ違う。半数は単独行者だ。途中でヤマイグチの大茸を採ったりしながら転付峠への登り返しの事を考えて無理しないで下るが、思ったより早く川原に下る。
二軒小屋で一本立て、しんねりと転付峠へ登る頃には大粒の雨となり、再びズボンが濡れる。峠でカッパを着けて淡々と川原へ下り(まだ元気だ)、保利沢小屋で一息吐いて一気に田代登山口を目指す。ここで、本日初めて3人の下山者を追い越す。
『美里の湯』でゆっくりと汗を流して、早川沿いに車を走らせる。もう1日分の食料が余っているので、「仙丈ヶ岳と馬ノ背・三ツ石山に登ろう」と考えるが、長野県南部地方の天気予報は今一なので、「雨に降られて悪沢岳の二の舞になるよりは、家に帰って雑用を片付けた方が確実だ」と、山へ登るのを諦めて甲府南ICへと車を走らせる。









