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水晶岳・鷲羽岳(裏銀座縦走/高瀬ダム~新穂高温泉)

野口五郎岳2924m・水晶岳2986m・鷲羽岳2924m( 北アルプス・御嶽山)

パーティ: 5人 (イガドン さん 、ほか4名)

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行程・コース

天候

利用した登山口

高瀬ダム   新穂高温泉  

登山口へのアクセス

この登山記録の行程

【1日目】
高瀬ダム(06:00)・・・ブナ立尾根登山口(06:40)・・・三角点(10:40)・・・烏帽子小屋[休憩 120分](12:00)・・・山頂分岐(14:30)・・・烏帽子岳[休憩 60分](14:50)・・・山頂分岐(16:10)・・・烏帽子小屋(16:40)

【2日目】
烏帽子小屋(06:10)・・・三ッ岳北峰(07:25)・・・野口五郎小屋[休憩 20分](09:25)・・・竹村新道分岐(10:45)・・・東沢乗越[休憩 60分](12:00)・・・水晶小屋[休憩 60分](13:40)・・・水晶岳(黒岳)[休憩 60分](15:05)・・・水晶小屋(16:30)

【3日目】
水晶小屋(05:45)・・・ワリモ北分岐(06:20)・・・鷲羽岳[休憩 30分](07:25)・・・三俣山荘[休憩 20分](08:40)・・・三俣蓮華岳[休憩 30分](10:20)・・・双六岳[休憩 120分](12:10)・・・双六小屋(14:20)・・・弓折乗越(15:30)・・・鏡平山荘(16:20)

【4日目】
鏡平山荘(05:00)・・・シシウドが原・・・秩父沢出合・・・小池新道登山口・・・わさび平小屋(07:50)・・・笠新道登山口・・・新穂高温泉(09:00)

コース

総距離
約38.9km
累積標高差
上り約3,879m
下り約4,064m
コースタイム
標準25時間50
自己25時間55
倍率1.00

高低図

標準タイム比較グラフ

GPX ダウンロード KML ダウンロード

登山記録

行動記録・感想・メモ

【回想/1日目】目覚めた時は塩尻を過ぎて、まもなく松本に到着という頃だった。コンタクトをしたまま眠ると寝起きはなかなか目を開けられない。車窓に目をやると一面の曇り空。1年前に歩いた燕から常念の稜線は全く見えない。わずかに有明山のシルエットが拝める程度だ。早朝の信濃大町駅ではタクシーの運ちゃんたちが我々登山者を待ち構えていた。2組に分乗しまず七倉まで。ここで入山届を出して再びタクシーで高瀬ダムへ向かう。七倉から先の道は一般車通行止のためマイカー利用者はここ七倉でタクシーに乗り換えなければならない。門番がゲートを上げるとすぐに長いトンネルに入る。驚いたのはこの長く暗いトンネルを歩いている登山者がいたことだ。徒歩だと高瀬ダムまで約2時間半、気の遠くなるような道のりだ。タクシーは高瀬ダムの堤防の中ほどまで行ったところで停車した。車を降りると風が強く肌寒かった。今日の登りはかなりきついので歩くには薄曇りくらいがちょうどよさそうだが雨だけは勘弁してほしい。入山前の記念撮影をし隊長を先頭にいよいよ入山。今朝は歩き始めから妙に体が重かった。テントを持っていないのに荷物も重く感じた。新品の靴は調子良かったが、本格的な登りにさしかかると重さに加え、今までになく腰に違和感をおぼえた。息が切れるわけではないがどこか体調がおかしい。パワーが湧いてこない。途中10分ほど仮眠を取ったが一向に回復の兆しがない。一方、福井さん、クロヨンの20代コンビは元気いっぱいでどんどん差を付けられてしまった。隊長も軽快なフットワークで隊を引っ張った。やはり飲み過ぎが祟ったのか。一方、天候も日が射したかと思うと、いきなり雨が降ってきたりと極めて不安定な状態。合羽新調の福井さんは早速活躍の場を与えていた。樹相がブナからダケカンバに変わったころ烏帽子岳の天辺が頭を覗かせた。稜線はすぐそこのように見えるが実際はまだ遠い。この見晴らしの良い場所で取締役持参のリンゴをかじって少し元気が出てきた。振り返ると高瀬ダムの湖面が小さく光っている。このブナ立尾根からは左手に唐沢岳の迫力がすさまじい。その奥の餓鬼岳から燕岳までのギザギザの稜線はまさに餓鬼道へ通ずる道のようにも見える。長い急な登り、時折強い雨に打たれながらもようやく裏銀座の主稜線に出た。ブナ立尾根は、北アルプス三大急登だけあって想像どおりきつかった。指導標に従い左手に少し下ると烏帽子小屋が見えてきた。高瀬ダムを出発して6時間、静かな山小屋で受付を済ませた。烏帽子小屋は素泊り客でも小屋内で炊事が出来る有難い山小屋だ。我々の寝床は梯子を上った上段の部屋のため、荷物を全て上げて少し休んでから烏帽子岳へ向かった。樹林帯を抜けるとニセ烏帽子までの広く緩やかな尾根歩きになる。ニセ烏帽子からは天を突く烏帽子岳のオベリスクが姿をあらわす。頂上の右手の岩頭には人らしき姿が見える。「いったいどうやって登るのだろうか?」と疑問を持ちながら烏帽子岳へ近づく。天候もこの時間になると曇ってはいるが雨の心配はなくなり穏やかになってきた。烏帽子岳への登りは一旦北側に回りこみ鎖場を登りつめる。鎖場の手前で躊躇している中年女性を横目に我々は岩場を一気に登り、今山行最初の登頂を果たした。烏帽子岳(2628m)最高点は、大きな岩の間に標識が挟まっている足場の悪い場所だ。記念撮影は山頂では極めて珍しい縦一列の配列になった。赤牛岳や薬師岳の稜線の雲はなかなか取れないが、明朝越える三ツ岳がどっしりした山容を見せている。ニセ烏帽子の左奥には燕岳のシルエットも見えてきた。穏やかな空の下、下界と隔絶された世界に幸福を感じつつ一同しばし黄昏の時を過ごした。烏帽子岳をあとにしてニセ烏帽子へ戻る途中、雷鳥の親子に出会った。北アルプスではしばしば雷鳥と出会うのだが、いざ写真におさめようとすると岩陰やハイマツの陰に隠れてしまったり、背を向けてしまったりと決定的なシャッターチャンスを逃してしまうことが多い。今回はかなり近距離で凛々しい横顔を撮ることができてとても満足だ。小屋の前では福井さんの1ヶ月遅れの誕生日祝いの乾杯をした。福井さんがこの日、道行くオバチャンに「高校生」と間違えられたのは一番のトピックだ。缶ビールを飲みながら西の空に浮かぶ積乱雲を眺めていると雨がパラついてきた。小屋へ入ると本格的な宴会の開始。皆背負ってきた重い酒を少しでも減らそうと「自分の酒を飲んでくれ!」といわんばかりにザックから次々と出し始め、初日から勢いよく呑み続けた。まず最初に福井さんがダウン、次に隊長、取締役と続き、結局夕食を摂らないまま深夜まで爆睡してしまった。夜中、布団を掛けていないため寒くて目が覚めたのは1人だけではなかったようだ。
【回想/2日目】夕食も摂らずに19時過ぎに寝てしまったせいか今朝は早く目が覚めた。布団をたたみ梯子を下りて早速朝食の準備にかかった。朝食は毎度お馴染みのうどんである。下界じゃとても美味いとは言えない代物だが、山の上では何故か美味く感じる。だしと醤油の素うどんに「わけぎ」と「揚げ玉」を入れて一気にすすった。小屋の前からは、昨日ずっと雲がかかっていた赤牛岳と薬師岳が姿をあらわしている。小屋前で記念撮影をし2日目の出発となった。薄曇りではあるが見通しは良く稜線を流れる風も肌寒いが心地よい。早速三ツ岳の登りにさしかかる。ぐんぐん高度を上げていくうちに背後には次々と名山が頭を覗かせはじめた。まず、烏帽子岳のオベリスクの上には立山と剱が。その右側には針ノ木、蓮華が並び、その奥には鹿島槍の双耳峰が見えてきた。一方、左前方には燕から大天井の表銀座の稜線が確認できる。そして更に進み、稜線が大きく右に折れたところで、天を突かんばかりの槍ヶ岳がその全貌をあらわした。槍のその神々しい姿に一同しばし見惚れていた。この尾根道には至る所で水晶が散りばめられていた。細かいものだけ少し拾い集めた。三ツ岳山頂に出ると越中側からの強い風にあおられた。山頂から少し南に進むと今度は眼前に野口五郎岳の重厚な山容がとびこんできた。時折晴れ間は見えるものの越中側からのガスでしょっちゅう視界が遮られる。途中足場の悪い雪渓を越え、距離はあるものの緩やかな尾根道を進み、野口五郎小屋を通過し最後の急坂をつめ、野口五郎岳に到着した。ここは海抜2924m。とうとう2900mを超えたのである。水晶小屋まではまだかなりの距離を残しており、行く手を目で追うと気が遠くなる。山頂を出ようとしたその瞬間、雨がぱらついてきた。水晶・鷲羽も天辺はガスに覆われている。ザレ場の急坂を一気に下り、湯俣温泉からの道との合流点を過ぎた頃、いきなり辺りのガスが切れ始めた。すると上空から陽射しが、そして夏の空を見事に交叉する飛行機雲があらわれた。それはまさに梅雨明けを宣言するような青空。我々の気分もグッと盛り上がる。東沢乗越まで下った頃にはガスは完全に消え、一気に空が高くなった。東沢乗越からは秀麗な鷲羽岳が印象的だ。カールにはまだかなりの残雪が溶けずに残っている。槍の方に目を転ずると、峻険な北鎌尾根とその前衛の硫黄岳が不気味なコントラストを演出している。ここから水晶小屋まではきつく険しい登りの連続だ。空には再び飛行機雲とその影があらわれた。空に影が出来るなんて初めて見る光景だ。その影が風に流されて次第に位置を変えていく。実に不思議な現象に遭遇した。岩場をひと登りすると水晶小屋と水晶岳が見えてきた。鷲羽岳側の稜線が大きく崩壊しており、その上に水晶小屋が小さく乗っかっている感じだ。よくあんな場所に建っているなあと思う。水晶岳はまさに岩塊の山である。小屋まではかなりの距離があると思われたが、左側の崩壊地を眺めながらの歩きは案外あっさりと高度を上げることができた。小屋まであと少しのところで来し方を振り返れば、野口五郎岳のおおらかな山容が、その左奥の烏帽子岳は本当に小さくなった。水晶小屋からの眺めは実に素晴らしい。小屋は東側を向いており、眼前には左から水晶・赤牛の稜線、奥に立山、黒部ダム、針ノ木、蓮華、烏帽子、野口五郎、燕、大天井、常念、北鎌尾根から槍、鷲羽にワリモ。裏側に回るとはじめて黒部五郎が姿をあらわした。宿泊手続きをした後、空身で水晶の頂を目指した。水晶岳までの道ははじめ緩やかだが途中から岩場に変わりきつくなる。山頂直下には梯子も現れた。最後の岩場を乗り越え、今山行の最高点2986mの水晶岳山頂に到達した。私にとっては深田百名山59座目の登頂である。水晶岳は、別名黒岳とも言われ、その名のとおり近くで見ると実に黒い山肌で、岩のゴツゴツした山である。切り立った山頂には標識が1つ、そこで集合写真を撮り、あとは360度の大パノラマをしばし堪能した。とりわけ黒部五郎岳のどっしりした山容にはうっとりしてしまう。右に目を移すと薬師岳が両翼を広げたような姿を見せていた。しばらくガスに包まれていた槍も再び姿をあらわし感激の山頂を後にした。空身の水晶往復にもかかわらずきつかったのは「小屋で飲んだウーロン茶が原因だろう」と取締役からの指摘があった。確かにウーロン茶を飲んでから一気にパワーが落ちたようだ。水晶小屋は、荷物置場と寝るスペースしかない収容人数20数名の狭い小屋のため、炊事は小屋の前にあるテーブルでしなければならない。日が陰ると一気に風が冷たくなり、寒さに震えながらまずは缶ビールで乾杯。夕食はアルファ米と各自が持ち寄ったレトルト食、それにつまみ各種だ。寒さの中でも酒は進んだが、取締役が体調不良を訴え小屋へ戻られた。後で聞いたところ急に悪寒がしたとのこと。そして次々と寒さに耐えられず皆小屋へ引き揚げ、19時30分には全員床についた。寝床はサイドには寝返りを打つ余裕があったが、頭の上には人の足が、足の下には人の頭が、という縦に全くゆとりがないために足を曲げて寝るしかなかった。夜中トイレに起きた人に足を踏まれてしまったのも仕方ない狭さだった。
【回想/3日目】寝心地が悪かったため目が覚めるとすぐに外に出た。一歩外に出ると目の前には気持ちのよい青空が広がった。冷たい風の中、朝食の準備にかかる。今朝は恒例の「もちしゃぶぜんざい」である。炊事をしているとやがて野口五郎岳の上から朝日が昇った。モルゲンロートに染まる水晶岳。槍の奥には昨日までは雲の中だった穂高連峰をはっきりと望むことができる。また噴煙をあげた浅間山や八ヶ岳、一瞬ではあるが富士までも遠望できた。もちしゃぶを食べ終わったころ、北西の空から雲の一群があらわれ、あっという間に山々を包み込んだ。水晶小屋を出る頃にはガスは拡散しはじめ、ワリモ岳へ向けての下りで再び晴れ渡った。正面には屹立した槍の穂先が、行く手の鷲羽岳とワリモ岳。その右奥にはとうとう笠ヶ岳までも望めるようになった。祖父岳の奥には今朝もどっしりと黒部五郎が控えている。雲ノ平への分岐をやりすごし、ワリモ岳への登りにさしかかる。振り返ると水晶岳がどんどん高度を増していく。薬師は相変わらず雲に覆われているが、天候は確実に安定してきている。ここに来て天々教の福井さんの神通力がますます本領を発揮してきた。ワリモ岳山頂は標識のあるところから少し上がった岩場にあり360度の眺望だ。鷲羽岳の頂はもうすぐそこに見える。鷲羽岳の登りはそれほどきつくなかったが、ワリモ岳を振り返り見ると「すごいところを歩いてきたんだ」と一同驚嘆の声を上げた。今回のもう一つの目的地、鷲羽岳(2924m)に到達した。ここも言わずと知れた深田百名山の1つ。節目の60座踏破となった。大展望のもと記念撮影をしたが、そこで思わぬハプニングが発生。まさにシャッターが切れるその瞬間、我が三脚が根元部分で折れてしまったのだ。「わぁー!」という全員の悲鳴が山頂に響いた。幸いカメラが転落する際に肩掛けの紐が三脚に引っかかった後に落ちたため、フィルターの縁に傷が付いた程度で済んだ。予想外の衝撃映像が写っているかも知れない。鷲羽岳から槍方面を仰ぐと眼下に鷲羽池を見ることができる。これはかつての火口跡らしい。薄い雲が時折流れるものの青空のもとしばし展望を楽しんだ。鷲羽岳から三俣小屋まではひたすら下りの連続である。しだいに雲もなくなり盛夏の陽射しが我々の水分を徐々に奪っていく。すれ違う登りの人たちは本当に辛そうに見える。逆コースでなくて良かったとつくづく思った。下りはじめから三俣小屋は見えていたが、なかなか大きくならない。下り切ったところから雪渓脇をやや登り、小屋手前のハイマツ帯に出ると異様な光景が。なんと周囲のハイマツというハイマツの上に小屋の敷布団が一面に干されているのだ。三俣小屋は水の豊富な大きい小屋である。小屋の裏には沢があり、水をいくら補給しても無料なのだ。空は晴れ渡りますます陽射しは強くなる一方だが、思わぬ補給に潤いを取り戻した。小屋を出てすぐのところには雪解けの沢が流れており、顔を洗う者あり、頭を水につける者ありと一同ひとときの納涼を満喫した。三俣蓮華岳への登りは陽射しを遮る樹木もなく、照り返しの強いきつい登りとなった。この辺りにはまだかなり残雪があるが今日はとても暑い。山頂への最後のガレ場を登り切り、三俣蓮華岳(2841m)に到着した。南北に広い山頂だが展望は360度。鷲羽の下りはあらためて望むと本当に長かったことが手に取るようにわかる。雲ノ平の向こうには雲の取れた薬師岳がドンと構えている。野口五郎は鷲羽とワリモの間にわずかに頭をのぞかせているが遥か遠くになった。もちろん烏帽子はもう見えない。先ほどの三脚破損により、山頂での記念撮影は適当な石を積み重ねた上にカメラをセットするやり方に変更を余儀なくされた。三俣蓮華岳からの道は正面に笠ヶ岳を見ながらの歩きとなった。途中の雪渓では若い2人が季節外れの残雪の上に寝転んで一時の涼を楽しんだりした。緩やかな上下を繰り返し、双六岳(2860m)に到着した。双六岳に立つと槍が一層大きくなってきた。槍から右に目を移すと、大キレットから穂高連峰が手に取るようにわかる。双六小屋方面からきた単独行の登山者は、いかにも山慣れした雰囲気だったが、なんとこれから剱まで縦走するというのだ。すでに笠からここまで歩いてきており全行程は1週間の予定とのこと。「黒部五郎に惚れました。普段なかなか姿を見せてくれないんだけどね。あのカールの真ん中で昼寝すると本当に気持ちいいよ。」とおっしゃった。登山者を見送り食事を済ますと我らが隊長も、お疲れのせいか直射日光の岩上で突然熟睡しはじめた。天高く、澄み切った青空。水晶の奥に積乱雲が見えるものの、とにかく周囲の山々が見事なまでに一望できる頂。いつまでも眺めていたい心境だ。双六を発つと黒部五郎と薬師とはお別れになる。双六から一段下ったところからの風景は、福井さんのお気に入りビューポイントだ。槍へと一直線に続く道。今までの雰囲気とは一味違う別天地である。下るにつれて左手に鷲羽岳がどんどん大きくなる。槍の穂先もまさに天を突き上げんばかりに高くなっていく。途中雪渓を通過し双六小屋まで下ってきた。小屋の前では団体登山者が屈伸運動で体をほぐしていた。この小屋は規模が大きく収容人数もこれまで泊まった小屋とは比べものにならないが、明日の行程を考慮し当初の予定通り鏡平まで進むことにした。双六小屋から暫くは若干登り気味の道を進み見晴らしの良い崩壊地まで行く。西日に照らされた槍が不気味な光を放っていた。この先も暫くは大きく下ることなく笠ヶ岳方面へと進む。しだいに槍や穂高連峰に怪しい雲がかかってくる。昼頃の灼熱と打って変わって、吹く風も心なしか涼しくなってきた。前面が開けると眼下に鏡平小屋を俯瞰することができる。笠ヶ岳方面への尾根道に別れを告げ、すぐ下のベンチにさしかかったところで私のケータイが鳴った。武蔵野の現場従業員からの電話だった。北アルプスの山の上で話していることを伝えるとびっくりしていた。電話を切り再び歩き始めた瞬間、雨が落ちてきた。そしてみるみるうちに本降りとなった。すぐに登山道は水路と化し、あっという間にびしょぬれになり、慌てて合羽を着込むことになった。とにかくすごい土砂降りだ。辺りに雷鳴が轟く。あれだけ穏やかだった山が一瞬にして我々に牙を向き始めた。稲光と数秒後の落雷に緊張がはしる。ここから先はただ小屋に辿り着くことだけを考え下り続けた。いつもより下りが長く感じる。一瞬小止みになったがまたすぐに土砂降りに戻った。先ほどよりも更に雨足は強くなった。鏡池の一角に出たが、雨に濡れた木道は大変滑りやすい。池に落ちないよう慎重な足取りで通過する。合羽のフードを上げると目の前が鏡平山荘だった。一同飛び込むように小屋へ入り早速宿泊手続きに入った。今日は比較的空いているとのことで、2階に上がった広いスペースを独占することができた。それにしてもさっきの土砂降りも天々教の影響らしい。「ちょっと雨でも降らないかなあ」と思ったそうだ。福井天々教恐るべしである。乾燥室(物置)に合羽などを干し、食堂にて最後の夜の宴会となった。今夜の話題の中心は隊長だった。隊長曰く「自分で言うのも何だけど長野にいた頃はすごくモテてたんだよ!」の一言には一同大爆笑。奥様との馴れ初めなど、隊長の若き日のエピソードで大いに盛り上がる中、鏡平の夜は更けていった。
【回想/4日目】昨夜の豪雨が嘘のように、最終日の朝は槍を見上げるところから始まった。小屋を出発し少し進んだところに鏡池がある。その名のとおり水は透き通っており、穏やかな水面に槍の穂先が反映する実に美しい池である。これより先はただひたすら下ることだけを考える。暫くは樹林帯のジグザグ道。樹林帯を抜けると、槍沢にも似た幅の広い沢筋に出る。途中足元の滑りそうな雪渓を2つやり過ごし、流れの急な枝沢に出ると靴を脱いで疲れた四肢をクールダウンしたりした。淡々と続く下山路も曇りのせいか今日は幾分楽に感じる。左岸に林道が見えてくると何やら先の方に人工物らしき物が確認できた。なかなか距離が縮まらなかったが、やがて目の前に大きな橋があらわれる。橋を渡り切ると山道は終わり、砂利道に変わった。いつものことだがホッとする瞬間だ。砂利道の林道も最初は足場が悪かったが、下界に近づくにつれ良くなってきた。わさび平小屋の手前あたりからまた雨が降り出してきた。もう合羽ではなく折り畳み傘だけで十分だ。今山行は最初と最後が雨に見舞われた。でももう天々教の神通力はなくてもいい。目の前に新穂高の温泉郷が広がってきたからだ。舗装路に変わり温泉街を抜け、橋を渡るとバスターミナルに出た。長い行程であったが、怪我もなく一同無事に下山したことを喜び合う。更に嬉しいことにバス停脇の公衆浴場(温泉)に無料で入れることがわかった。おばちゃんの清掃が終わり、早速一番風呂に入った。石鹸もシャンプーも無かったのでクロヨンに借りて4日間の疲れと汚れを洗い落とした。源泉に近いためここの湯はとても熱い。特に日灼けした首回りと両腕は悲鳴を上げたくなるほど痛かった。また鏡に映る耳の上は日灼けと虻に刺されたせいでブヨブヨに腫れ上がっていた。それでも下りてすぐに入浴できた幸福を感じながらの一時だった。次は雲ノ平か薬師岳か、それとも立山方面へ進出か。

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装備・携行品

シャツ アンダーウェア ダウン・化繊綿ウェア ロングパンツ 靴下 レインウェア
登山靴 バックパック スタッフバック スパッツ・ゲイター 水筒・テルモス ヘッドランプ
タオル 帽子 グローブ サングラス 着替え
地図 コンパス ノート・筆記用具 腕時計 カメラ 登山計画書(控え)
ナイフ 修理用具 ツエルト 健康保険証 ホイッスル 医療品
虫除け ロールペーパー 非常食 行動食 テーピングテープ

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登った山

烏帽子岳

烏帽子岳

2,628m

三ツ岳

三ツ岳

2,845m

野口五郎岳

野口五郎岳

2,924m

水晶岳

水晶岳

2,986m

鷲羽岳

鷲羽岳

2,924m

三俣蓮華岳

三俣蓮華岳

2,841m

双六岳

双六岳

2,860m

弓折岳

弓折岳

2,592m

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