古地図の上で富士山を散策 『古地図で楽しむ 富士山』
評者=田代 博(日本地図センター相談役)
タイトルどおりの内容で4つのパートから成っている。パート1「富士山の信仰世界」。絵画資料を用い、中世・近世における富士山信仰の世界が述べられている。パート2「富士山の登山道と信仰の道」。登山道と登山口の集落周辺の信仰の道を古地図を用いて説明。パート3「富士山の登山口集落」。2と関連するが、登山口の集落の歴史的変遷をやはり古地図を用いて紹介。パート4「富士山周辺の開発・活用」。富士山周辺の開発や活用が古地図や鳥瞰図を用いて述べられている。
十数人の著者は、静岡県・山梨県各市町村の文化財行政や自治体史編纂の第一線で日々調査研究を行なっている人たちで、伝えたいという思いがほとばしっているかのようだ。新たな知見を幾つも得ることができた。
本書は「古地図で楽しむ」シリーズの一冊で、町歩き本的な要素があるが、この巻についてはそれができない項があることを編著者は断っている。自衛隊の演習場の存在がその一例である。また、今年はコロナのため、五合目から頂上までの登山道が閉鎖されている。古地図を読みながら、バーチャルで登山道を確認するという新たな読書の試みが求められていると言えようか。
パート4は鳥瞰図絵師の吉田初三郎らによる富士山の鳥瞰図についての詳しい説明がある。編著者は静岡県富士山世界遺産センターの教授である。同センターの企画として、吉田初三郎やその後継者による富士山の鳥瞰図をテーマにした企画展を是非実施してほしいと思う。地図(絵図)は実物を見て、より認識が深まるからである。
(山と溪谷2020年9月号より転載)
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