五感を働かせて山の神に出会う『天岩戸神話を歩く 高千穂から戸隠へ』

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評者=太田昭彦

天岩戸神話を歩く 高千穂から戸隠へ

著:みやのゆきこ
発行:新評論
価格:2200円+税

 

「ゆっくりだからこそ見えるものがある」。本書の帯に書かれていた言葉には大いに共感する。私のガイド登山で実践しているのも「ゆっくり歩きで自然を楽しむ」というものだからだ。ゆっくり歩くからこそ、花や樹々や景色が目に入り。小川のせせらぎや、小鳥の囀が耳に心地よいと感じる。そう、山は五感で味わうものなのだ。第4章の五感で味わうウォーキングのなかで著者は、「あまりの気持ちの良さに目を閉じてしまうと、天界に繋がっているような錯覚に陥った」とか「悪いことをしているわけではないのに、その横(仁王像)を通るときには審判が下されているように感じてしまう…胸のざわつきを抑えながら急ぎ神社を後にした」と語っている。五感を研ぎ澄ませて山を歩けば、あなたも神さまが感じられる不思議でステキな体験ができるかもしれない。

それにしても疑問だったのは、スキーを中心に生活を送るみやのさんが、どのようにして高千穂の神と出会うことになったのか?ということ。本書を読み進めていくうちに、それは子どものころお母さまに聞いた神話から始まり、紆余曲折を経て、九州の五ヶ瀬ハイランドスキー場へとつながり、現地ガイドや山の会の人々とのご縁により、高千穂の神との出会いが実現したということがわかった。神さまとの出会いもさることながら、それらの人々との出会いも、みやのさんにとって一生の宝物になったに違いない。本書を読み終えて、私も久々に第5章に登場する祖母山に登りたくなってきた。もちろん、夜神楽の観賞と共に。

 

 

山と溪谷2020年11月号より転載)

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