富士山、南アルプス、大井川――。駅から歩いて、静岡県らしい雰囲気と展望と味わえる八高山。

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空気が澄んでいて、素晴らしい眺望を楽しめる時期。静岡県の八高山は、標高は低めながら、富士山や南アルプスの眺望、眼下に流れる大井川、遠く遠州灘を望める。お茶の木に囲まれた登山道を歩いて、静岡県ならではの展望を味わってみたい。

 

大井川の西岸、静岡県島田市と掛川市にまたがる、八高山(はっこうさん)。両市の最高峰を誇る山で、頂上からの眺めに恵まれ、修験僧たちの足跡を感じる、充実した山歩きを楽しむことができる山です。

冬でもほとんど積雪がなく、真冬の時期でも安心して登れます。もちろん、季節を通して楽しめる山です。山名も凛とした響きがあり、その山名にも惹かれて登ってみました。

登山道途中から望める八高山の端正な山容。周囲の最高峰でもある


八高山へのアクセスは、大井川鐵道福用駅からとなり、電車を利用して登ることができます。マイカー利用でも、駅前には車を停めるスペースが数台程度ですがあります。駅には登山口の大きな看板があり、電車から降りたらそのままそこが登山口、なんだか素敵です。なお、道中トイレはないので、ここで済ませておきましょう。

無人駅の大井川鐵道福用駅。レトロな駅舎がかわいらしい


八高山頂へのルートはいくつかありますが、今回は急斜面コースから登り、なだらかコースで下山する行程を取りました。

駅を出て数分程は、住宅街の中を歩きますが、道標がしっかり導いてくれるので、心配はないでしょう。やがて山の麓の白光神社へ到着。神社の脇から、いよいよ登山の始まりです。

モデルコース:大井川鐵道福用駅から八高山へ

行程:
福用駅・・・林道出合・・・五輪の段・・・馬王平・・・白光神社奥の院・・・八高山・・・馬王平・・・五輪の段・・・白光神社・・・福用駅

⇒モデルコースはこちら

 

富士山、大井川鐵道、山岳信仰――。様々な魅力が凝縮

登山は序盤から急斜面コースらしさ全開で、細く急な道を、息が切れないように、ゆっくり登っていきます。森の中を、落ち葉を踏みしめながら。時々、「元」お茶畑が広がっていて、なんだか不思議な光景です。収穫したお茶を運ぶモノラックレールの跡もしっかり残っていて、かつてはお茶農家さん達が作業に勤しんだであろう、在りし日の賑やかさを思いながら、今はひっそりとした山道を進みます。

登山道の入り口となる白光神社へ到着。神社の脇から、いよいよ登山開始
 

山の中に伸びる、茶畑のモノラックレール。乗り越えたりする箇所もある


五輪段で、なだらかコースと合流した後は、馬王平までしばらく水平移動です。途中では、八高山を見渡せるスポットで、本日の目的地を望めます。なお、作業用林道を歩く箇所もあるので、道標を見逃さないようにしましょう。

馬王平からの眺め。富士山の頭が見えてくる


馬王平では、本日初の富士山を堪能できます。馬王平という地名は――、うたた寝をしていた修験僧の夢枕に白馬に跨った王が立ち、「怠らず精進せよ」と告げたとか告げないとか。そこで聖なる山、八高山を仰ぎ見るこの地を馬王平と名付けた、という逸話が残っています。

馬王平を過ぎると、平坦な道とはここでお別れ。八高山の頂へ続く急登の始まりです。

今までよりもさらに深く、大きな木々がひしめく森の中が続きます。森の香りと、通り過ぎるひんやりとした風が気持ちいい! 途中、電波の中継基地として使われていた巨大な反射鏡が現れ、突然の人工物に驚かされますが、そこを過ぎると、白光神社奥の院はもう間もなく。

白光神社奥の院境内には、太い杉の木がいくつも並んでいる。標高800mの山奥にあるとは思えないほど、丁寧に整備・維持されている


白木の丸太造りの鳥居が、森の景色に馴染んでたたずんでいる様子は、神聖さそのもの。拝殿、本殿も丁寧に整備されていて、地元の人々に信仰が根付いていることがうかがえます。山頂までは、あと5分ほど。

山頂からは、遠く浜松の方向に遠州灘がきらきら光っている様子が見渡せ、眼下にはゆったり流れる大井川、そして南アルプスや富士山の素晴らしい眺めが広がります。急な登りで疲れた体に、最高のご褒美です。さらに、三角点コレクターの方々にはうれしい、一等三角点もお出迎えしてくれます。

山頂からの眺望。南アルプス・笊ヶ岳も見える。この日は雲が多めだったが、南アルプス南部方面もよく見えた


山頂はあまり広くないので、混みあっている場合は、白光神社まで下りて、境内のベンチで休憩するといいでしょう。

帰りは、五輪段までは来た道を。五輪段からは、なだらかコースを歩きます。木立のトンネルの中を、心地よく進んでいきます。この時期、ふかふかの落ち葉の道を歩くのは気持ち良いですが、石や段差までも見えなくなっているので、要注意。さらに、中盤ではガレた斜面の下りも待ち受けています。私はここで、「石車に乗る」という山のことわざを、身をもって取得しました。

こちらのコースでも、元お茶畑の気配をよく感じました。野生化したお茶の木の「茶の木トンネル」では、残っていたお茶の花を見ることができました。

野生化したお茶の木は、高さ10mを越えることもある。登山道をトンネルのように覆い茂っている
 

お茶畑に囲まれた静岡に暮らしていても、なかなか目にする機会の少ないお茶の花も見ることができた


下山後は、大井川鐵道の線路沿いを、福用駅目指して歩きます。大井川鐵道は、蒸気機関車が日常的に走る鉄道です。運が良ければ、登山の前後に蒸気機関車が走る姿を見ることができるかもしれません(※2021年1月現在、緊急事態宣言の発出を受けて運休となっている)。

この八高山の登山道では、小さな祠や、立木を鳥居に見立てた縄鳥居などにたくさん出会いました。古くから山岳信仰が根付き、そして現代においても、その信仰がたいせつに守られている様子を感じることができる山歩きでした。

山の中であっても、信仰は大切に守られていることに驚かされる。地元に親しまれ、敬われている山なのだと感じることができる


山歩きの後は、大井川鐵道の門出駅や合格駅などの、開運スポットに足を運んでみたり、門出駅併設のKADODE OOIGAWAで地元のファーマーズマーケットや緑茶体験を楽しんだりするのもいいでしょう。

プロフィール

藤巻なつ実

静岡県出身。山好きの父親と共に、幼少の頃から登山、アウトドアに親しむ。 長野県白馬村で登山ガイドとしてのキャリアを始め、グリーンシーズンの北アルプスを中心にガイドを行う。
その後、ニュージーランドの様々なトレイルで経験を積み、帰国後、Adore Outdoorを設立。現在は静岡県を拠点に活動中。日本の自然の魅力を、世界に発信しようと日々取り組んでいる。

⇒ Adore Outdoorホームページ

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