高い断熱性能をもつサーマレストのマット。改良された「ネオエアー Xサーモマックス」を裏磐梯のテント泊でテスト
今月のPICK UP
サーマレスト/ネオエアーXサーモマックス
サイズ:R(レギュラー)51×183cm、L(ラージ)63×196cm
価格:R 30,000円(税別)、L 34,000円(税別)
重量:R 490g、L 640g
記録的に雪が少なかった昨冬に比べ、今冬は積雪量が非常に多い。そんななか、このところのキャンプブームもあって、初めての雪上テント泊に挑戦しようという方も増えているようだ。
だが、新型コロナウィルスの問題はいまだ続いており、今季はハードな雪山登山はできるだけ避けようという動きも見られる。僕もあまり無理はせず、今回はクルマでも行けるキャンプ場でテント泊を楽しみ、その前後で雪中トレッキングを楽しむ計画を考えた。
場所は裏磐梯。図らずも強烈な寒波に見舞われたタイミングで福島県に入り、桧原湖へ向かった。ときに猛烈な吹雪、ときに青空という、じつに不安定な天気だった。
テントを張るのは桧原西湖畔オートキャンプ場の予定だが、到着が早くてチェックインできず、間が空いてしまった。そこで僕は時間つぶしにスノーシューを履き、とあるスキー場の裏山を散策した。
連日の積雪で、かなり大型のスノーシューの浮力でも膝まで沈む。吹き溜まりでは太ももまで埋まってしまって、なかなかしんどい。翌日は周囲の山を歩こうと思っていたが、少し楽なコースにしようと思ってしまった。
その後、改めてキャンプ場へ。
青空が広がるわずかな時間には磐梯山が眺められた。
しかし、ほとんどの時間帯は大雪。僕が張った1ポールテントは、あっという間に真っ白になっていく。
最終的には、ほぼ1日で30cmほどの降雪だっただろうか。それでも予報よりは“控え目”で済んだのだった……。
テントに入り、マットを設置。付属の“ポンプサック”で、手早く快適に膨らむ!
さて、この雪中テント泊で僕が使用したマットが、サーマレストの「ネオエアーXサーモマックス」(以下、Xサーモマックス)だ。
同社のマットのなかでは、断熱性(熱抵抗値)を表す「R値(=R-Value)」が6.9と山岳向けマットではもっとも高く、いわば“これで冷たく感じれば、あとは我慢するしかない”というほどの機能性を持つモデルなのである。
サイズは写真の「レギュラー」が183×51cmで、厚み6.4cm、重量490g。サイズを196×64cmにした「ロング」(重量640g)もラインナップされている。3月には、「レギュラー」の幅を64cmに広げた「レギュラーワイド」(重量610g)も登場予定だという。
レギュラーの収納サイズは、23×10cm。ちょうど1Lのボトルくらいのサイズ感だ。
ネイビーのシンプルなスタッフバッグが付属しており、同社最高のR値を誇るマットにしては非常にコンパクトである。
じつはこのスタッフバッグのなかに入っているのは、マット本体だけではない。広げるとスタッフバッグになる、グレーの袋もいっしょに収められているのである。
正しくは、スタッフバッグではなく、“ポンプサック”。マットに空気を入れるための“ポンプ”になる袋だ。
サイズは実測67×37cm。かなり大きな袋で、行動中はバックパックのなかで簡易的な防水袋としても利用できる。
袋の表面に使い方が書かれているのが親切である。
イラストがあって、とてもわかりやすい。まあ、図解されなくてもわかるくらい簡単な仕組みでもあるのだが。
その方法は……。
これはポンプサックの底にあるバルブ。口径はマット本体のほうのバルブに合わせられている。
そして、マットのバルブを緩めて、ポンプサックのバルブに差し込む。
あとはポンプサックをフワっと膨らませ、口から空気が逃げないようにして、空気に圧をかけて押し入れていくのみ。バルブの口径は2cm程度と大きく、すばやく簡単に入っていくので非常に便利だ。僕が試したところでは、慣れれば6~7回で充分に空気が入れられ、所要時間は約1分30秒。このバルブは逆止弁になっているので、一度空気を入れれば、もう吹き出してこないのもいい。
サーマレストの製品を含むひと昔のマットはどれもバルブが小さく、ポンプサックのようなものもなかったので、同じくらいの厚みのマットを膨らませるのに5分以上かかるのが当たり前。しかも息を強く吹き込まねばならず、膨らまし終わる前に体力をうばわれ、酸欠状態にもなって、頭が痛くなることすら珍しくなかった。それに比べれば、このような進化は本当にありがたいのである。
このマットのバルブ、ほかにも便利な工夫が加えられているのだが、そのあたりは後述したい。
膨らませたマットをテントのなかに並べてみた。
降り続ける雪の重みでテントの壁はたわみ始めていたが、安眠できる一夜になりそうだ。
横たえたマットをサイドから見ると、内部のチューブの影響で斜めに線が入っているのがわかる。
これは、三角形のチューブを交互に重ねることで冷たく感じる部分をなくす“トライアンギュラーコアマトリックス”という内部構造の工夫によるものだ。表面からは見ることはできないが、切れ目なく並べた三角形のセルが上下に2段に重なっている構造を想像してほしい。Xサーモマックスの断熱性が高い理由のひとつである。
さらによくよく眺めると、“なにか”がうっすらと透けているのが確認できる。だが、これはトライアンギュラーコアマトリックスとはまた別のもの。”サーマキャプチャーテクノロジー”として、4枚の熱反射板を使った層の一部なのである。
つまり、Xサーモマックスは、断熱性向上のために“トライアンギュラーコアマトリックス”と“サーマキャプチャーテクノロジー”というふたつの工夫を取り入れているというわけ。どちらも極薄のフィルムのような素材を使った構造上のものであり、内部へ断熱効果がある中綿やスポンジのような重い素材を入れているわけではなく、重量が増える原因にはあまりなっていない。むしろ、温暖な時期に使う大半のマットよりも軽いくらいだ。
その軽量性を実現するために、表面、裏面の生地も非常に薄い。
リップストップ加工を施された表面は30デニールと、まさに極薄。それでいて滑りにくい高強度のナイロン素材だ。
表面よりも裏面は少し厚みがあり、床と擦れても傷みにくくしている。それでもたった70デニールだ。
質感としては、表面も裏面も同様に張りがあって、パリッとした感じ。また、主に内部の熱反射板のために、マットをつかむたびに“シャカシャカ”という音がする。この“シャカシャカ”は、これからの説明のひとつのキーワードだ。
雪の重みと風の影響で少し狭くなったテント内に座り込む。マットの上を移動するたびにシャカシャカという音がするが、動きを止めればすぐに静かになり、気になるほどではない。
雪の上に張ったテントなのに、Xサーモマックスのお陰で、お尻はまったく冷たくない。さすがR値6.9である。
次に寝転んで肘を立て、上体だけ起き上がらせた格好になってみた。要するに、テント内でゴロゴロと本を読んでいるようなスタイルだ。
肘には相当な体重がかかっているが、その圧力を受けた部分でもマットはつぶれず、テントの底の冷たさは伝わってこない。これまた、さすが厚み6.4cmである。だが、起き上がっていて体を小刻みに動かすだけで、つねにシャカシャカという音はしてしまうのだった。
「Xサーモ」は、マミータイプと長方形タイプの2タイプ。僕の好みは…
ここでいったん話を変えたい。今回、僕がテント内での就寝に使おうとしているのは「Xサーモマックス」。だが、同シリーズには少しだけ形状が違う「Xサーモ」という製品もあり、今回は比較のために両方を持参してきた。その違いは、Xサーモマックスがレクタンギュラー型(長方形)で、Xサーモは体のラインに合わせて面積を削ったマミー型ということ。ただそれだけの違いで、その他の断熱性などのスペックは共通だ。ちなみにマミー型はレギュラーで430gとなり、レクタンギュラー型よりも60g軽くなる。
荷物の軽量化のためには、この60gの差は大きい。しかし僕個人は、寒い冬の時期は体を乗せたときにズレ落ちにくいレクタンギュラー型のほうを使いたくなる。マミー型は頭と足元が狭く、体がマットから落ちやすいからだ。それで、テストには僕好みのレクタンギュラー型であるXサーモマックスを選んだのである。
両者を上下に並べると、長方形のXサーモマックスのほうが頭部にも足元にも余裕があるのがわかる。
就寝中に寝返りを打っていると、とくに足先はマットから外れやすく、わずかな面積の違いは意外と大きい。もちろん寝相がよい方は、ほとんど気にならないだろうが……。
寝袋を上に乗せたときも、やはりXサーモマックスは収まりがいい。マットから寝袋がかなりはみ出しているように見えるのは、内部に人が入っていない寝袋は平面的につぶれてしまうっているからである。
このように頭部にも足元にも余裕があり、なんとなく落ち着く。
こんなXサーモマックスとXサーモは、形状や重量に違いがあれど、同価格。そこがちょっと興味深い。
ここまで準備ができれば、あとは寝るだけだ。夜中に寝ているときには写真が撮れないので、以下のようなイメージカットを明るいうちに撮影しておいた。
実際に就寝するときはテントの入り口を閉めたが、だいたいこのような感じだ。マットの上に横たわると、Xサーモマックスはやはりシャカシャカと音を立てたが、マットの上で体が安定してしまえば、それほど音は鳴らなくなる。
さて、ここでひとつ告白しておこう。サーマレストの「Xサーモ」シリーズを使うのは、僕はこれが初めてではなく、じつは以前から所有していた。それならば、いまさらわざわざテストする意味はないと思うかもしれない。だが、僕の私物はXサーモといえども、10年近く前に発売された初代のモデル。今回持ってきたXサーモ(Xサーモマックス)は、初代が持っていたいくつかの欠点を補い、長所を伸ばしてリニューアルされた“最新”モデルなのである。
初期モデルの欠点のひとつが、バルブの形状。バルブの径が1cmほどしかなく、息を吹き込むのにはかなり難儀したが、先ほど説明したように最新型Xサーモのバルブは径2cmほどもあり、楽に空気を入れられる。この点だけでもすばらしい進化っぷりだ。
長所を伸ばしたという意味では、断熱性もアップしている。以前はR値が5.7だったが、現在は6.9。それでいて、重量は変わっていないのがスゴい。
個人的にいちばん問題だと思っていたのが、先ほどから述べている「音」であった。体を少し動かすだけでシャカシャカした音が鳴り、底部が少し湿っていたりすると、今度は「ギュッギュッ」という音に変わる。シャカシャカくらいなら我慢できるが、ギュッギュッという音になると、正直なところ、あまりに不快でうるさすぎたのだ。同じテントで眠る人がいれば迷惑をかけないかとストレスがたまり、静かな避難小屋に誰かと同宿することにでもなれば、いっそマットを使わずに眠ろうかと思うほどで……。
夜を迎え、本格的に眠りに入る。さて、新しいXサーモマックスでは、静かに眠れるだろうか?
夜半の気温は-10℃程度まで下がっていたようだ。だが、Xサーモマックスの断熱性はまったく問題なし。レクタンギュラー型だけあって、僕の寝相でも足がほとんどズレ落ちず、寝袋の保温性も相まって、朝まで快適に眠ることができた。
Xサーモマックスの断熱性は本当にすばらしい。海外の超高山はともかく、少なくても日本であれば、厳冬期の高山ですら寒さを感じずに眠れるはずである。
気になる「シャカシャカ」「ギュッギュッ」という異音だが、寝返りを打つと「シャカシャカ」という音はやはりするものの、初代のような「ギュッギュッ」という音にはならないようである。これには安心した。新旧モデルを比較すると、初期のXサーモの裏面は少しベタつくような素材感で、それが不快なギュッギュッという音の原因になっていたと思われる。しかし現在のXサーモの裏面はさらっと乾燥したような質感で、テントの底や床へ無駄に貼りつくような摩擦感は減っているからかもしれない。もっとも一晩寝ただけの感想なので、気温や湿度が異なるシチュエーションで眠れば不快な音が出る可能性は残されている。しかし、初期モデルよりは「音」の面でも進化しているようであった。
空気抜けの良いバルブは撤収も早い。よく眠れた翌日は、スノートレッキングも快適!
テントを撤収する前には、マットの空気を抜かねばならない。このときに便利なのが、新しいバルブに加えられている工夫だ。
空気を入れるときはネイビーの部分を緩めるだけだったが、空気を抜くときにはネイビーの部分を緩めつつ、赤い部分も90度くらいひねっていく。
すると、バルブが一気に解放し、空気が勢いよく抜けていく。以前のバルブは空気の抜けも悪かったが、これならばあっという間。よく考えられたバルブなのである。
ついでにマットの表面のパターンについても少し触れておきたい。現代のマットには、格子状にチューブが並んでいたり、大小の凹凸がつけられていたりと、さまざまなバリエーションがあるが、サーマレストのマットの大半は横にチューブが並んでいるだけのシンプルさである。だが、とくに雪の時期は、その平面的なシンプルさがいい。テントの出入りの際に雪が乗ってしまったときでも、少し持ち上げるだけで簡単に振り払えるからだ。
これが表面に凹凸が多いマットだと雪を振り払いきれず、どうしても雪がくぼみに残ってしまう。すると、就寝時に体温で雪が溶けて寝袋が湿り、保温性が奪われていく。地味な点だと思うかもしれないが、僕はこのシンプルな表面こそが雪山で使うマットには大事なことだと考えている。
撤収したテント泊装備をクルマに乗せ、僕は五色沼付近の登山道を歩きに出かけた。
ここは裏磐梯を代表する観光地でもあるが、さすがに積雪期は人が少ないようである。
東から歩き始め、まずは毘沙門沼。
福島県の隣にある宮城県出身の僕にとって、五色沼といえば小学生のときの修学旅行の思い出。大人になってから、スノーシューを履いてやってくることになるとは思いもしなかった。
その後、弁天沼、青沼などを通り、西へ向かっていく。
昨日よりは天気もよく、のんびりしたスノートレッキングになった。
最後に柳沼まで達すると、あとは車道。クルマを置いてきた場所まで歩いて戻るのが少々面倒だ。
スタッドレスタイヤをはいたクルマが走る車道を歩いていくのは怖い。登山道よりも車道歩きのほうが面倒だと思うほどだが、延々と歩いても疲れをあまり感じなかったのは、昨晩のあの寒さのなかでもXサーモマックスのおかげでよく眠れたからではないかと、けっこう本気で考えてしまった。
まとめ:「Xサーモマックス」は、断熱性の優秀さだけでなく、細部がよく改良されたテントマットだ!
今回のXサーモマックスは、「断熱性」の面の優秀さでは疑いようもない。地面からの冷えを感じ、不満を述べる人はまずいないはずだ。
一方、「音」は初期モデルほど問題ではないが、それでもシャカシャカという異音が気になる人は出てきそうである。しかしどれほど気になるかは人それぞれともいえ、あとは実際に店頭で直接触って確かめてもらうしかない。
「バルブ」の使い勝手にも文句ない。空気がすばやく入り、すばやく抜ける。ポンプサックも便利だった。
だが、僕はあることに気づいてしまった! バルブがあまりに使いやすく進化しているため、バルブに口をつけて直接息を吹き込んでも時間はあまりかからず、ほとんど息苦しくもならないのである。つまり、わざわざポンプサックを使わなくても、楽にスムーズに膨らませられるというわけで……。手間をかけないで使えるようにと進化した結果、せっかく加えた“工夫”が重要ではなくなってしまっているとは! ちょっとした矛盾めいたことだが、ひとつの製品として完成度が高まっていることは間違いない。
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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