可能性は無限大!? デクシェルの防水ソックス2種類を試す|高橋庄太郎の山MONO語りVol.87
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回のアイテムは、デクシェルの防水ソックス「ランニング」と「ウルトラシン クルー」です。
文・写真=高橋庄太郎
日本列島は梅雨入りし始め、ぐずついた天気が続いている。登山道はぬかるみ、防水性のシューズを履いていたはずなのに下山時にはソックスまで濡れていることも珍しくはない。
近年では通気性や湿気の排出を重視し、防水性を省いたトレイルランニングシューズを山歩きに使う人も増えている。だが、たとえ日帰りでも足を濡らしたままで行動し続けるのは苦痛なときもある。また、思いがけない降雨で足を濡らし、そのままでは冷えてしまうようなことも多い。そんなときにひとつ持っていると重宝するかもしれないのが“防水ソックス”だ。
今回取り上げるのは、デクシェルという会社の製品で、タイプが異なる2つのソックス。ひとつは丈が短い「ランニング」(写真右)で、もうひとつが足首の上まで覆う丈の「ウルトラシン クルー」(写真左)だ。
共通する特徴は、表地と裏地の間に「ポレール」という独自の透湿防水メンブレンを使っていること。それ以外の表地や裏地の素材は別のもので、保温力も異なっている。
「ランニング」×トレランシューズを沢水が流れる登山道で試す
では、はじめに「ランニング」から見てみよう。
下の写真は、片方を裏返した状態だ。
表地はツルっとした質感で、素材はナイロン80%、ポリエステル11%、綿6%、ポリウレタン3%の混紡素材。裏地はポリエステル67%、ナイロン24%、ウール9%をブレンドした「ドライリリース」という素材で、速乾性、保温性、防臭性に優れている。
足裏は中央部がとくに伸縮する。土踏まずから甲にかけてフィット感が高く、足なじみはよい。
つま先とかかとは補強されている。「ランニング」はその名の通りに走ることを想定していることもあり、他の部分も含めて、もともと擦れなどに対して丈夫にできているようだ。
裏地はパイル編みでクッション性を高めている。
これだけ細かな糸が肌に当たるのだから、吸汗性も高い。
張りのある透湿防水メンブレンを丈夫な表地と裏地で挟み込んでいるために、「ランニング」の形状はふっくらと立体的だ。
まるで繊維でできた筒のなかに足を入れるような感覚なのである。
今回は防水性を省いたトレイルランニング系シューズと「ランニング」を合わせて使用してみた。
このシューズは普段ならば蒸れをほとんど感じないほど通気性がよいが、ソックスを「ランニング」にすると空気の流れが遮断されるため、防水性があるシューズを履いているような感覚になる。その効果もあって、保温性の高さも充分に感じる。
この日は雨が降った直後で登山道自体が濡れていた。
だが、僕はより水分が多い場所を求め、沢水が流れる登山道も歩いてみた。すると次第にシューズ内部に水が浸透してくるのがわかる。
春先の沢水はまだまだ冷たい。長いこと歩いているうちに保温性が高いソックスでも、さすがにだんだんひんやりとしてきた。
シューズを脱いで表面を触ってみると、シューズ内で圧力を受けた沢水が表地に浸透し、外側は濡れてしまっている。
表地に防水透湿性があるわけではないのだから、当たり前ではある。ソックスの内側もいくぶん湿っていたが、それはおそらく沢水ではなく、汗が内部にとどまっているものではないかと思われた。
ついでに僕はシューズを脱いだ足を大胆にも沢水につけてみた。そしてそのまま数分……。
足先は完全に冷え、正直なところ、だんだんつらくなってくる。しかし、頃合いを見てソックスを脱いでみると、先ほどの湿り気以上の濡れはない。「ランニング」の防水性はたしかによさそうである。
「ウルトラシン クルー」×サンダルをテント場で試す
次は「ウルトラシン クルー」だ。
こちらは「ランニング」よりも薄手にできており、保温力も控えめ。夏向けの製品である。
足裏はシンプル。
それでも、つま先とかかとはしっかりと補強されている。
裏地も薄手で、表地の色が透けて見えるほどだ。それほど「ポレール」というメンブレンは極薄なのだろう。
この裏地には「バンブーレーヨン」も使われ、通気性、吸水性に加え、抗菌・防臭効果も持っているらしい。
しかし耐久性が高そうな「ランニング」に比べ、薄手の「ウルトラシン クルー」はそれほど丈夫ではないと思われる。
僕は「ウルトラシンクルー」は行動用よりも、キャンプ地での使用が適しているのではないかと考え、主にテント周りで使ってみることにした。森のなかのテント場は、周囲の草木が夜露でぐっしょりと水分を含んでいることが多く、サンダルを履いたソックスもたびたび濡れてしまう。そんなシチュエーションに備えるならば、サブのソックスとしてデクシェルのような防水ソックスが有用なのではないかと、じつは以前から考えていたのだ。
テストのために合わせたのは、リザードというブランドのストラップ使いのサンダルである。
ソックスがほぼそのまま露出しており、防水性を確認するには都合がいい。
夜露以前に雨で濡れた草地を「ウルトラシン クルー」で歩いてみると、表面素材の撥水性によって、なかなか水が浸透してこないことがわかる。テント近くの水場やトイレに往復するくらいなら水分は表面に付着したままで、テント内に入るときにほとんど振り落とせるだろう。
ただし長時間歩いていると、ソックスの表地が水分を吸収し始める。そのままテントに入ると内部のものを濡らしてしまうので、結局は脱がねばならなくはなる。しかし、足自体は乾燥しているのだから、足の冷えはかなり抑えられる。もちろん、過度に水が浸透しないように使用すれば、テント内でも履いたままでよい。どの程度まで濡れた場所で使うのかにもよるが、サンダルに合わせるソックスとして防水性を選ぶというのは、理にかなっているのではないだろうか。
ただ、「ウルトラシン クルー」を履いていて気になったのは、つま先とかかとの耐久性を高めるために使われているイエローの部分の繊維だ。この素材はサンダルのストラップに使われている面ファスナーにやたらとくっつきやすく、貼りつき過ぎてストラップの調整を妨げることすらある。デクシェルは他にもさまざまなソックスを作っているが、面ファスナーとの相性という面では、別の製品のほうがよいのかもしれない。
雨の下山。まるで水没のような濡れ方だが…
テストを行なった場所からの下山は、雨天時だった。
僕は再び「ランニング」を履き、その上をレインパンツで覆った。
このようにして着用すると、レインパンツから流れる雨水がどんどんシューズの上にかかり、沢のなかを歩いている以上の濡れになる。もはや“水没”に近い。
この状態で歩くこと2時間。さて、どうなったか?
「ランニング」を脱いでみると、足の裏はあきらかに濡れていた。足の裏は歩行中にもっとも圧力がかかる場所であり、メンブレンの耐水圧を越えて、雨水が少しずつ浸透してきたのかもしれない。もしくは、足裏の発汗量がメンブレンの透湿性を越え、発散しきれなかった汗によって濡れてきた可能性もある。残念ながら、そのどちらが問題なのかは、このときは判断しかねたのが正直なところである。
だが、あれだけシューズが雨水を受けた状態で歩いていたことを考えれば、「ランニング」をはいた足の濡れは相当に少なかったともいえる。“完璧ではないが、想像以上の実力がある”というのが、今回のテストの実感なのであった。
オマケの実験。水を入れて防水性をチェック
さて、ここからはオマケのようなテストだ。
後日、僕はデクシェルのソックスの防水性を確認するために、ソックス内部に水をたっぷりと入れてみた。2つのソックスは丸く膨らみ、まるで水風船のようである。
そして、このまま吊るして2時間ほど放置した。
しかし、内部の水が表面へ浸透してくることはなかった。つまり、シューズ内部のように過度の圧力がかかればいくらか水が浸透する可能性はあるものの、「ポレール」というメンブレンは充分な防水性を持っている。ポレールの耐久性がどれほどのものなのかはわからないが、少なくても初期性能としての防水性は問題ないようなのであった。
まとめ:ニッチな存在ながら、使い方次第では大活躍!
防水ソックスとは、じつにニッチな存在だ。だが、アイデア次第で活躍の場は多い気がする。今回のように防水性を持たないトレイルランニングシューズと合わせたり、テント周りでサンダルと合わせたりするのはひとつの例だ。ほかにも、沢登りのときは水辺から離れたらすぐに防水ソックスに履き替えれば、それ以降は濡れた沢靴を履き続けていても冷たい思いをしなくて済む。また、どんなに気を付けていても、登山靴を豪雨や沢沿いで水没させてしまうことはありえるが、そんな時に備え、着替え用のソックスを防水タイプにしておくと便利そうだ。
アウトドアウェアのなかでは、防水ソックスはメジャーな存在ではない。だが、使い方次第では大きなポテンシャルが秘められている。使う人の用途に合えば、予想以上に活躍してくれるに違いない。
今回のPICK UP
デクシェル/ランニング
価格:3,630円(税込)
サイズ:S、M、L
重量:84g(Mサイズ)
デクシェル/ウルトラシン クルー
価格:3,630円(税込)
サイズ:S、M、L
重量:63g(Mサイズ)
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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