燕山荘と帝国ホテルとの意外な関係とは? 創立100周年を迎えた北アルプスの山小屋・燕山荘
2021年に創立100周年を迎えた大人気の山小屋、燕山荘。オーナーの赤沼健至さんにその歴史についてお話を伺いました。山と溪谷ch.では動画によるインタビューを公開中です。
動画【山小屋インタビュー】北アルプス・燕山荘 赤沼健至さん
―――燕山荘創立100周年、おめでとうございます!
100周年ってのは日本でもそんなにたくさんないんですね。世界的にも100年企業ってのはね。その中にやっと入れたのかなっていう気はしてます。本当に ありがたいことで、お客様のおかげで100年も続けさせていただきました。

燕山荘グループ代表
赤沼健至さん
燕山荘グループ三代目オーナー。社長就任から今年で30年。国内・海外の山に精力的に登って得た知見を、安曇野の山々の魅力発信と保全に役立てようと奮闘中。
燕山荘の歴史について
祖父が山が好きでね。燕岳に登ったのが14歳のころで、こんな綺麗なとこはろはない、いつか小屋を作りたいと思って、それで26歳ぐらいの時にこの小屋をつくるんですね。

赤沼千尋
燕山荘創設者。1923年1月~3月にかけて「雪の立山、針ノ木越え」を踏破した著名な登山家。
当時としてはハイカラな小屋だったみたいです。祖父が自分で設計して作った小屋だったんですけれど、窓ガラスがある山小屋ってあまりなかったんですね。窓ガラスだけじゃなくて、カレーライスとか二段ベッドとか、ちょっと斬新な考え方で山小屋を作ったんです。


(祖父の)赤沼千尋はかなり有名なクライマーでした。その(記録的な登山の)話を囲炉裏を囲んでお客様といろんな話をして、お酒のついでに「俺はもっとでかい小屋を作りたい」って言ったら、その目の前にいた人が、「それは面白い。じゃあお金は俺が出してあげるよ」って人が出てきて・・・。その人が大倉喜七郎さん(帝国ホテルの社長)だったんだね。それで、この燕山荘の本館ができるわけです。
大倉喜七郎
明治・大正期の実業家・大倉喜八郎の御曹司。帝国ホテル社長。ホテルオークラ創業者。※公開時に「オーナー」とありましたが、正しくは「社長」です。訂正してお詫び申し上げます。(2021.9.9)
当時、燕山荘の事務所が帝国ホテルのアーケードの中にあったんです。あそこ(現在の燕山荘の廊下にある展示)にあるのが帝国ホテルに置かれていた燕山荘のパンフレットなんですけど、英文と日本文で書かれているんですよ。最近のインバウンド用のパンフレットと同じようなものが、その当時の小屋のパンフレットとしてあったんですね。
戦後に財閥が解体されて、現在は赤沼家個人のオーナー企業になっています。
燕山荘の美しいデザインについて
私の祖父は建築が好きで、好きだとやっぱりいろんな人たちが集まってくるんですね。その中に今井兼次先生っていう早稲田の建築科の先生とすごく仲良くなりまして、それでその今井先生を通していろんな建築家がの方々と知り合って。

たとえば堀口捨己先生は、明治大学の建築家の大御所ですが、実は燕山荘の燕のマークは堀口先生がデザインしたものなんです。その芸術的なセンスっていうのは(祖父)赤沼千尋、(父)赤沼淳夫とつながっているんですね。僕はあんまりない方なんですよ。

赤沼淳夫
燕山荘グループ二代目オーナー。山岳写真家としても活躍。写真集に『安曇野光彩』などがある。
アルペンホルンを吹くきっかけ
1977年、私が燕山荘グループに入社した年、登山者数がどんどんどんどん減ってしまったんですね。もう本当に減っちゃったんです。これでは夢がない。これではやっててもつまらない。これはなんとしてでも盛り返さないといけないということで、山の良さというものを語り始めたのがその頃からです。

山で仕事をするものは、山が好きにならなければいけないということで、日本の山ばかりではなく、スイスの山だとかフランスの山だとかイタリアの山だとかに登りに行く。それで向こうに行った時に谷底からホルンの音がワーンと聞こえてきて、これだ!と。これを買ってきてここ(燕山荘)でホルンを吹けば、一生涯の思い出になるようなお客様がいっぱい増えるのではないかと。
ところが、ホルンは難しいんですよ。めちゃくちゃ難しくて、僕はジャズのトロンボーン吹いてたんですけども、それでトロンボーンが吹けたので、ホルンも音は出るんですよ。でも曲にならないんです。(現在はすばらしい曲を聴くことができます!動画でぜひ)
燕岳に登る際の注意点
ここは国立公園の中でも一番厳しい特別保護地区っていう森林限界を超えた世界です。ここには貴重な動物、植物、昆虫のいる世界です。たとえば昆虫の中でもタカネヒカゲって高山蝶。これは幼虫のまま2回も冬を越えて3年目に飛び立つというような世界でも珍しい高山蝶がいるんですね。これを守るということは人間の方が守るのが一番正しい。人間がみんな壊してるんですけれどもね。

柵がしてあってもいっぱいの足跡がある。足跡があるとドーンとコマクサが流れていってしまって来年は咲かないです。雨でえぐられてしまうんですね。
まとめますと、山の中に入った時には、森林限界を超える世界には、ルールとマナーがあります。世界中に共通しているルールとマナーの3項目を選ぶと、①自然のものは自然のままに②持ち込んだものは持ち帰る③野生動物にエサを与えない(ゴミを捨てることは餌付けと同じ)になります。
山で守る3つのルールとマナー
- 自然の者は自然のままに
- 持ち込んだものは持ち帰る
- 野生動物にエサを与えない(ゴミを捨てることは餌付けと同じ)
この3つほどのルールを守っていただくことによって、彼らが彼らの世界ですごく安心して暮らせる世界になります。また、私たちも安心してられますよね。クマさんも出てこないですから。私が長いことここで仕事をしてきて、学習したことです。
燕山荘
例年4月下旬〜11月下旬・12月下旬〜1月初旬の営業
現地最新情報 燕山荘HP
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山と溪谷ch.
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