先人たちが味わった山の生活 『キャンプ日和』

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評者=小林千穂(山岳ライター)

キャンプ日和

著:小島烏水、田部重治ほか
発行:河出書房新社
価格:1892円(税込)

 

 数年前からキャンプが熱い。長年、登山の「テント泊」しかやらなかった私もハマっている。グランピング、デイキャンプ、ロースタイルなど、おしゃれキャンパーによって生み出された今どきのキャンプスタイルを連想しながら、この本を手にとった。

 しかし、目次を開いて驚いた。そこに並んでいたのは、小島烏水、木暮理太郎、田部重治、冠松次郎……。登山史に名を連ねる黎明期の登山家であり、山岳紀行の名文を残した先人たち。タイトルや装丁のイメージと、編まれた作品のギャップが大きい。少し背筋を伸ばしてページをめくった。

 作品のほとんどが、山登りでのテント生活(露営と言ったほうが近いかもしれない)に関するもので、特に前半は、テント以前の岩小屋での寝泊まりや、露をしのぐ程度だった油紙の天幕も登場する。山に人の少なかった時代、ハイマツを切って焚き火をしたり、高山植物の上に寝転がったりしていたのが、ちょっぴりうらやましい。

 作品は著者の生年順に並べられていて、それこそ油紙を使っていたころからドーム型テントまで、山中泊の変遷がおおまかに追えるのも楽しかった。

 雨に体を濡らす夜、激流に砕かれる明月、登攀中のビバーク、雪で焚いたまずいご飯、獣の気配、山の水のしみるような冷たさ。自然に親しみ、満ち足りた時間がつづられている。そして文中に散見されるのが、山との調和だ。

 今どきスタイルも魅力的だが、シンプルであればあるほど、自然との距離を縮められるのかもしれない。

 

山と溪谷2021年9月号より転載)

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