【書評】 日本唯一の北極冒険家デビュー作『北極男 増補版 冒険家はじめました』
評者=花岡 凌
人生を変えた一冊は何かと聞かれたら、私はこの本だと断言できる。北極男こと、著者の荻田氏は北極冒険家である。アルバイトで資金を貯めては北極へ冒険に向かう。そんな北極男の半生を、青春をつづった一冊である。
荻田青年は、日常のなかに生きているという実感がもてず、21歳で大学を中退する。そしてある日、テレビで見た冒険家に惹かれて連絡をとり、物語が始まっていく。
冒険の舞台である北極海には、割れた海氷が数メートルにも積み重なったエリア「乱氷帯」が形成されることがあり、荻田氏はそういった場所を旅するのである。
本書の表紙を捲るとその写真が載っている。この写真を初めて見た時、こんな場所を一人で何カ月も旅をするのか、と考えただけでうんざりしたが、本を読み進めると北極ってそんな場所なのか、シロクマはそうやって追い払うのか。この写真、自撮りなのか……。
気がつくと私は荻田氏に連絡し、仕事を辞めて北極遠征隊に参加していた。この遠征を機に、カメラマンとなった。まさに人生を変えた一冊となった。
本書は増補版であり、出版から10年の時を経た荻田氏のコラムも追加されている。北極男の苦悩や困難を乗り越える姿は、人の心に響くものがあるはずだ。
北極男 増補版 冒険家はじめました
著 | 荻田泰永 |
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発行 | 山と溪谷社 |
価格 | 1,210円(税込) |
評者
花岡 凌
ネイチャーフォトグラファー。2019年、荻田氏と写真家・柏倉陽介氏らとの北極遠征に参加。
(山と溪谷2024年3月号より転載)
プロフィール
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。
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