広い前室で快適。悪天候にも強いテント ニーモ/ダガー オズモ 2P|高橋庄太郎の山MONO語りVol.94

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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回のアイテムは、ニーモの「ダガー オズモ 2P」です。

文・写真=高橋庄太郎

初夏を迎えて高山でも雪解けが進み、そろそろ本格的なテント泊登山のシーズンがやってきた。今年も機能性が高いテントが各社から登場しているが、今回ピックアップするのは、ニーモ「ダガー オズモ 2P」である。

 

まずは収納サイズをチェック

収納サイズは、50×直径17㎝。これは大きめのスタッフバッグの中に、フライシート、インナーテント、ポールなどすべてを入れた状態である。

だが、このサイズではパッキングしにくいと思われる方も多いだろう。

そこでポールとペグを外に出し、改めて収納し直すと以下のような状態になる。

フライシートとインナーテントを入れたスタッフバッグは30×15×9㎝ほどの大きさになり、ポールはスタッフバッグの中に入れても49㎝の長さ。ペグの袋は18㎝程度である。このように分離させたほうがバックパック内にパッキングしやすく、現実的だ。なお、テントのスタッフバックは防水性で、雨や結露で濡れたまま入れても外部に水は漏れない。このポールのスタッフバッグは100%リサイクル素材。汚れが気になるカラーだが、エコのためには仕方ないのかもしれない。

 

設営して構造を確認

テントを自立させるメインのポール(黒)はハブによって一体化され、2つのY字をひっくり返して連結したような形状だ。

それとは別に、天井部に渡すポール(イエロー)が1本あり、これは内部空間を広げる役割を果たしている。

そんなポールにインナーテントをフックでかけていくと、きれいに立体化する。

インナーテントは下部が防水性の生地で、上部は通気性が高いメッシュ素材だ。

その上にフライシートをかけると、以下のようになる。

出入り口になる部分のファスナーはグレーのフラップで覆われ、サイドの生地が三角形状にカットされているのが特徴だ。

この連載は撮影までひとりで行ない、宿泊も同様にひとりなのだが、ここでは「2P(2人用)」をテストしている。それはたんに、現在のダガー オズモには2Pモデルしかないからだ。

だが、2人用でもフライシート、インナーテント、ポールの合計で重量1.53㎏。後述するように広い前室を前後に2つ持ち、フライシートの面積が非常に広い2人用としてはかなり軽量だ。

ダガー オズモ 2Pは出入り口前方に延びるフライシートをペグで左右2か所固定し、前室を作る。出入り口の前のフライシートが、中央とその左右のパネル3枚によって構成されているという言い方もできそうだ。そのために、ペグで一か所留めるタイプよりも、出入り口のフライシートの開け方にいくつものパターンが生まれる。ここからはそのバリエーションを簡単に見ていただきたい。

はじめは、フライシートを完全にまくり上げた状態だ。

インナーテントのメッシュパネルへ全面的に風が当たり、もっとも通気性が高い。反対側の出入り口もこれと同じ状態にできるわけだから、暑い時期には涼しく過ごせてありがたい。

次に写真の正面から見て、“左側”を開けた状態。インナーテントのファスナーがついている位置に合い、出入りがしやすい開き方だ。

なお、上の写真はインナーテントの出入り口も開けてある。

こちらは写真の正面から見て、“右側”を開けた状態だ。

インナーテントのファスナーの位置からすると少々使いにくくなるが、風向きによってはこの開き方にすると無用な風雨をテント内に呼び込まずに済む。

最後に、フライシートの左右のパネルは固定し、中央のパネルだけ開いた状態だ。左右が覆われて風雨を防ぎ、悪天候時の出入りにはもっとも適している。

だが開口部が狭いので、どうしても体が引っかかりやすい。当初、僕はそれが少々ストレスに感じた。

じつはこのとき、もういつ雨が降り始めてもおかしくはない空模様。写真が薄暗いのはそのためだが、実際に雨が降り始めると、先ほどのような出入り口の面積を少なくした状態はやはり悪天候に強いことがよくわかる。出入り口を開いていても、小雨程度であればほとんど内部が濡れないのだ。

体へ引っかかるのはいかんともしがたいが、晴れているときは中央のパネルとともに左右のパネルもいっしょに開けばいいだけのことである。

フライシートを締め切った状態での前室の様子が、こちら。奥行きは66㎝もあり、大量の荷物を置くことができる。

また、この前室部分にはダガー オズモ 2Pが持つ“ある工夫”を加えることが可能だ。これについても改めて後述する。

雨天への対応という意味では、フライシートとインナーテントの工夫にも触れなければならない。

ダガー オズモ 2Pのフライシートは二等辺三角形のように生地が切れ上がり、その部分はインナーテントの生地が露出している。この部分のインナーテントの生地は防水性であり、これだけの面積が露出していてもテント内に浸水が起きるわけではない。

その反面、フライシートの下部が大きく開いていれば通気性は高くなる。つまり、防水性と通気性を同時に実現させようという構造なのだ。これは既存のニーモの他モデルにも採用されているシステムで、テント内にいると内部に程よく風が通るのがわかり、たしかに効果は高いようである。

内部からその部分を見ると、フライシートとインナーテントの防水生地が、どのように重なり合っているのかがよくわかる。

上のオレンジ色の部分は、ヘッドランプなどを入れて光を乱反射させ、テント内部を明るくするための“ナイトライトポケット”。またその左右の少し下の部分はメッシュポケットとなっている。

次の写真は、天気のよいときに撮影した別のキャンプ地でのカットだ。雨が降り始めてからは当初のキャンプ地では撮影が難しくなり、これ以降はときどき好天時に撮影したカットが混じるが、製品の説明の本筋にはあまり関係ないので、お許しいただきたい。

ともあれ、テント内部が頭上まで広いのは、天井部のポールのおかげだということがよくわかる。サイドから見ると、天井部の横幅はフロアの横幅とさほど変わらないのだ。

天井部の横幅の広さは、前室部分の広さにも大きく関係する。

ダガー オズモ 2Pのフロアの大きさは、229×127㎝。それに対し、前室の奥行き(サイドから見た場合は“幅”)はそれぞれ66㎝。つまり、2つの前室の奥行き(幅)を合わせると、インなーテントの横幅とほぼ同様のサイズ感だ。これだけの広さがあれば、居住性が高くなるのは言うまでもない。

 

内部の機能をチェック

内部に荷物を置いても余裕がある。

とはいえ、このような角度から見ると、荷物でいっぱいにも見えなくもないが……。

実際は以下の写真のように、十分に2人が眠れるサイズである。

だが、マットを2枚敷くと荷物の置き場がなくなると思われるかもしれない。ここでもう一回、先ほどのフロア面積の説明を見ていただきたい。注目すべきは横幅よりも縦の長さ。ダガー オズモ 2Pの縦幅はなんと229㎝。一般的な山岳テントはせいぜい200㎝くらいだから、30㎝近くも余裕があることになる。だから、2人で眠るときは、頭か足元に荷物を置けばいい。

正直なところ、ひとりで使うと持て余すくらいのスペースだ。

早くも1P(一人用)があればいいのに、と思ってしまった。

ところで、先ほどから言及している“広い前室”だが、この部分を有効活用するために、ダガー オズモ 2Pにはおもしろいパーツが付属している。それは“ランディングゾーン”という三角形の“荷物置き場”。その三辺は10㎝近く立ち上がり、そこに置いた道具を雨水や泥跳ねから汚さずに守ってキープしてくれるのだ。

水分が付着していてテント内には置きたくないが、一方で汚れからは守りたいというクッカーや水筒類などを保管するのに便利である。場合によっては、濡れたレインウエアやシューズ類を置いてもいいかもしれない。防水性はもちながらも極薄の生地なので重量はほとんどなく、僕は非常に気に入ってしまった。

このランディングゾーンは、こんなフックでテントへ引っ掛けるだけ。3か所のフック部分は色分けされていて、簡単につけられるのがいい。

ダガー オズモ 2Pはこんな小さなパーツにも工夫があるのだ。

これはインナーテント天井部の小さなテープ。大半のテントも天井部分にはLEDランタンなどを引っ掛けるループがついているものだが、それはただのループでしかなく、何かを引っ掛けるときには小型カラビナなどを使用しなければならないことが多い。

しかし、このテントのループにはスナップボタンが使われ、カラビナのようなものを使わなくても、モノを吊るしやすいのだ。非常に些細な点だが、細部まで気を利かせていて感心する。

フライシートやインナーテントを巻きとめるコードもユニークだ。

コードロッカーをそのままフックに引っ掛けるという、これまでにありそうでいてなかったパーツなのである。“ゲートキーパー”という名称らしい。

本格的に雨が降り始めるタイミングは予想よりも遅かったものの、ライトアップした写真を撮影したあとは大雨になった。

この日はそのまま朝までテントの中で雨をしのいだ。

テント内では先ほど説明した“ナイトライトポケット”を試してみる。温かみがある暖色系の明かりになるのは好ポイントだが、僕が持っていったヘッドランプの形状とは相性がイマイチなのか、さほどの効果は感じない。だからこの写真、じつは別のLEDランタンも使ってテント内部の明るさを少し高めたものなのである。

あまり明るくない理由は、ヘッドランプの光源とナイトライトポケットのオレンジ色の生地がぴったり接してしまい、光の拡散力がうまく発揮されないからだ。光源と生地の位置に隙間を作ると明るくなるが、ポケットにはテンションがかかっているので、少し工夫して隙間を作っていても、何かの拍子にすぐに外れて隙間がなくなってしまう。うまく使えば効果的なのだろうが、僕には少々面倒であまり利用する気にはならなかった。

夜には叩きつけるような雨になった。

テントのテストには好都合であり、ありがたいことに朝には雨は降りやんでいた。

 

雨天の一夜が明け、雨への強さを実感

さて、ここで「ダガー オズモ」というモデル名について説明しよう。

「オズモ」とはニーモが独自に開発した有害な化学物質を使わず、100%リサイクルの糸で織られている素材だ。機能的に特筆すべきは、同社の他のテントの生地に比べると「濡れた状態での伸縮性が1/3しかない」ということ。他社を含め、テントに使われている素材は水濡れすると緩んでしまうものが大半だ。そのために悪天候時は次第にテントがたるみ、風雨の影響が大きく出やすくなってしまう。そこでペグを打ち直したり、ガイラインの調整をし直したりしなければならなくなるのだが、「オズモ」ならば、その手間が少ないのだ。

昨晩のことを思い出すと、たしかに途中でテントの生地が緩むことがなく、朝まで設営時のテンションがほとんど保たれていた。高いテンションを維持できれば、強風の圧力も受け流しやすい。雨水を弾く撥水性もすばらしく、大雨とは思えないほど快適に一晩を過ごせたのは確かだ。

さすがに雨水による泥跳ねはフライシートに付着していた。だが、フライシートの内側に作られたランディングゾーンに保管した荷物には、ほとんど汚れがない。また、極度の悪天候のときほどさまざまな作業ができる広い前室が有用である。ダガー オズモ 2Pの「耐候性の高さ」は大したものだと感じた。

しかしこの優秀なオズモ素材には、ひとつ気になる点もないわけではない。

下の写真はテント内のフロア部分だ。四角形に水濡れしているのがわかるだろうか? この部分は、僕がスマートフォンを置いていた部分で、その形の通りに結露して濡れているのである。

スマートフォンが発する熱の影響でこうなったのかとも考えたが、ここ以外にも何かモノを置いた部分(マットを敷いた部分や食材を保管していた場所)は程度の差こそあれ、同じように濡れており、熱は関係ないようだった。結露ではなく、地面の水が浸透してきたのだろうか? いや、昨晩はテントの下にも水が流れたが、その際に水が染み出すことはなかった。また、晴れた日でも同じように水濡れは現れた。やはりこれは結露なのだろう。しかしフロアの生地を隔て、高い熱がある側に結露が起きることはありえるだろうか……。僕がこれまでに使ってきたテントには、ほとんどなかった症状である。

水分の量は少なく、すぐに蒸発し、乾燥してしまった。だが気になる点である。今回は雨天時と好天時に場所を変えてテストを2回のテストしただけであり、もう少し使い続ければ原因や対策をつかめるかもしれない。

 

まとめ:居住性が高く、雨天にも強い

そんなわけで、今回試したニーモの新作「ダガー オズモ 2P」。

フロアの結露という謎はあるものの、総じて高い機能を持つよいテントだと感じた。

とくに居住性の高さは間違いない。2人で使っても十分な広さがテント内にあり、それぞれが使える前室も2か所に設けられている。なにより“オズモ”を使ったテントはたるみがなく、はじめにしっかり設営さえすれば、悪天候になってから張り具合を調整する必要がない点は、じつに機能的なのである。“ランディングゾーン”も楽しい工夫だ。ただし、このランディングゾーンは一枚しか付属しない。「2P」なのだから、二枚つけておいてもよかったのではないだろうか。

あとはできればソロ向けに「1P」モデルがほしい。フロア面積を狭め、前室を一カ所のみにとどめれば、重量1㎏前後のテントが誕生するかもしれない。

 

今回のPICK UP

ニーモ/ダガーオズモ2P

価格:58,300円(税込)
重量:1.53kg

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プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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