百花繚乱の天空路と涼やかな針ノ木大雪渓を満喫!北アルプス・鳴沢岳~赤沢岳〜針ノ木岳周回

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北アルプスの後立山連峰南部にある針ノ木岳。高山植物咲く稜線と大雪渓を降りる周回コースを紹介します。

 

針ノ木岳へ続く稜線と大雪渓

 

針ノ木岳は、北アルプスの後立山連峰の南に位置する山です。眼下には黒部ダムがあり、ダムと渓谷を挟んだ西側に剱岳や立山の展望が望めます。

また、針ノ木雪渓は、白馬大雪渓、劒沢雪渓と並ぶ日本三大雪渓です。時期によって雪渓の状況は変わるので、事前の情報収集が必須です。

ここでは、扇沢を起点に、鳴沢岳、赤沢岳、針ノ木岳を周回する健脚向きのコースを紹介します。

 

モデルコース:扇沢~柏原新道~新越山荘(泊)~針ノ木岳~針ノ木雪渓~扇沢

谷川岳地図

コースタイム:

1日目5時間50分 2日目8時間20分

※ルポでは1泊2日コースを紹介しますが、日程に余裕があれば、2日目に針ノ木小屋泊の2泊3日がおすすめです。

⇒針ノ木岳周辺の地図

 

前日まで、飯豊山と針ノ木岳、どちらに向かうか、天気予報を見ながら思案。晴れ間がある可能性が高い、針ノ木岳に決定しました。ソロなので臨機応変の利点を最大に生かします。

前夜、雨の中を扇沢へ。車中泊して、翌朝、柏原新道登山口から雨上がりの登山道を登り始めます。樹林帯の急登を過ぎると、やや平坦な石畳のよく整備された道が続きます。晴れていれば稜線の針ノ木岳や蓮華岳が見通せるはずですが、今日は深いガスに包まれたままでした。

しかし、登山道の斜面には次から次へと花が咲き乱れ、登り一辺倒のうんざりした気分を癒してくれます。コバイケイソウ、サンカヨウ、キヌガサソウ、シナノキンバイ、クモマスミレ、シラネアオイ、コイワカガミと高山の花のスターたちが勢揃いです。

 

シラネアオイ

 

キヌガサソウ

 

鹿島槍ヶ岳との分岐に立つ種池山荘

 

唯一、残雪の残るガレ沢を越えると視界が広がり、種池山荘に到着しました。種池山荘から岩小屋沢岳、新越山荘間は、まさに天空のお花畑を行くが如くです。ハクサンチドリやハクサンフウロ、小さいが美しい花を咲かせるミヤマクワガタも群落を作っています。

連休前とあって登山者にもほとんど会わず、宿泊する新越山荘まで花の撮影をじっくり楽しむことができました。

夕刻にはガスの切れ間より、明日向かうスバリ岳や針ノ木岳山頂や針ノ木雪渓を垣間見ることができ、明日への期待につながります。

 

岩小屋沢岳と鳴沢岳の間に立つ新越山荘

 

翌朝も曇り空で、日の出時刻より、早くもガスが上がってきて、稜線を覆い始めます。朝日に輝く剱岳山頂の岩峰群を雲の切れ間から一瞬とらえることができたのが最後でした。

すっかり霧に包まれた稜線を、まず鳴沢岳へ。少しでも雲が切れるのを期待して待ちましたが、かなわず。立山、剱岳を拝めることはついにできませんでした。ガスの切れ間に緑色の黒部湖の湖面が見えたのがせいぜいでした。

赤沢岳からスバリ岳からは、天空の散歩道から一変して、ざれた岩稜帯が続き、北アルプスらしい険しい登路となります。花もシャクナゲ、チシマギキョウやハクサンイチゲ、ミヤマオダマキなどが目立ち始めます。そしてスバリ岳の砂礫の斜面にはコマクサが見事な群落を作っていました。

 

スバリ岳の砂礫の斜面に咲くコマクサの群落

 

展望のないガスに覆われた稜線でのお楽しみは、ライチョウとの出会い。子連れの母鳥やつがいのライチョウにもご対面できました。ここまで出会った登山者はドイツから来た父娘を含めて4人だけ。出会ったライチョウの数より少ない、静かな稜線歩きでした。

 

ガスにけむるハイマツの岩場を警戒しながら現れたライチョウの親子

 

スバリ岳から急降下するとマヤクボ沢ノ雪渓に出会いますが、ここから間違って迷い込まないように大きな×印があります。

この日向かう4つ目のピークが針ノ木岳です。マヤクボのコルから浮き石に注意しながら急斜面のガラ場や岩稜を登り切ると、まっ白のガスの中に2821mの黄色い標柱が見えるだけの世界でした。

 

はじめて全容を見せた針ノ木岳の雄姿。岩稜地帯の険しい登りが続く

 

針ノ木岳から針ノ木峠へは岩混じりの斜面のトラバースで、数カ所、雪渓を横切りますが、雪切りがされているのでアイゼンは使いませんでした。しかし、滑落には注意です。ステップが崩れているところもあり、ここでは最近愛用しているウィペット(ピック付きのストック)が役に立ちました。

針ノ木小屋で情報を確認し、いよいよ針ノ木雪渓を下ります。12本爪のアイゼンと念のためのピッケル。斜度が強いのは最上部とノドの部分です。急傾斜の箇所はベンガラでマークがしてありますが、大穴が開いていて水流が見えているところもあり、現場判断が必要です。

 

針ノ木岳大雪渓は最上部が急峻。ベンガラでコースが示されている

 

ノドを過ぎれば傾斜は緩くなって両手ストックで快適に下れますが、雪の上の大小無数の石が示すように、音がしない落石には要注意です。このあたりから断続的に雨となり、視界が悪くなりましたが、赤旗のついたポールが立ててあり、迷うことはありませんでした。ただ、雪渓取付から大沢小屋を経て扇沢へ下る山道は、雨に濡れた岩場のへつりや鎖場が滑りやすく、増水した沢の徒渉やゴロ石のアップダウンもあり、最後に残った体力も使い果たしてしまいました。

長丁場の最後に扇沢の駐車場がみえてやっと安堵することができました。(取材日=2018年7月11~12日)

 

プロフィール

奥谷晶

30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。

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