一面に咲くオオキツネノカミソリと展望の日帰りハイク 佐賀県・八幡岳
佐賀県・八幡岳へ、オオキツネノカミソリの群生を訪ねます。コースタイム2時間程度で、お花畑と山頂の大展望が楽しめます。
九州の初夏を代表する花であるミヤマキリシマや、森の貴婦人と呼ばれるオオヤマレンゲも終焉をむかえ梅雨の晴れ間を狙っての花山行も一息つきます。
そして、梅雨開け間近の強い夏の日差しが照りつける頃になると、今度はオオキツネノカミソリの花を見に行くのが楽しみになってきます。
北部九州には、長崎・佐賀県境の多良岳、福岡の井原山や釈迦岳などにも大きな群生地があり、7月下旬から8月上旬まで花が楽しめるので、各登山地のオオキツネノカミソリ巡りが楽しめます。
オオキツネノカミソリは、「日本植物学の父」牧野富太郎博士の命名です。
ヒガンバナ属多年草で、早春にのびだした葉は夏になると枯れてしまい、葉が枯れたあと花茎がのびて橙色の花を3~5個つけます。細長い葉の形をカミソリに見立て、花の色が狐色に似るという説や、葉が枯れてなくなったあとに花茎を伸ばしきれいな花を咲かせることから、葉は花を知らず花は葉を知らず。まるで狐につままれたようだ。などの説があるようです。
八幡岳山頂には無線中継所の電波塔が林立し、車道も山頂まで伸びているため登山の対象としては忘れられがちな山です。しかし、山頂の展望台からは北は玄界灘、南は佐賀平野と有明海、西は黒髪山などの展望が雄大で、眼下には相知の棚田百選に選ばれた蕨野の棚田が広がり、マイカーで訪れる人も多い山です。
今年も花好きな友人を誘い八幡岳へ向かいました。登る前に国道203号線沿いの道の駅厳木に立ち寄っておやつに食べるお団子を買います。
車窓から蕨野(わらびの)の棚田の景色を楽しみながら池高原八幡岳キャンプ場に向かいます。
キャンプ場付近の駐車場に車を停め歩き出すと、すぐ珍しい中国風の石門がありその奥には、池の観音がひっそりと祀られています。ここから登山口になる八幡峠まではおよそ2kmの車道歩きのあと、九州自然歩道の大きな標識がありここを右折して川内林道終点まで進むと登山口(川内峠分岐)です。
植林の中の滑りやすい苔むした石段の道を登ります。以前、流れの中に小さなサンショウウオに似た生き物を見つけた事があり、今度も探してみました。
「もしサンショウウオなら希少な生き物なので静かに見守りたいし、豊かな自然が残っていることが嬉しいね。」と話しながら。
植林から自然林に変わると、左に鎮西八郎為朝を祀った石祠が現れます。為朝は、日本各地に多くの伝説を残した平安時代の武将で、黒髪山にも大蛇退治の伝説が残されています。八幡岳の山名は為朝が八幡大菩薩を祀ったことが由来だと伝えられています。
ここをすぎると、すぐにオオキツネノカミソリ群生地となります。
自然林の美しい森の中の、緩やかにカーブを描いた石段の道の両脇を橙色の花が鮮やかに飾るオオキツネノカミソリのお花畑が広がっています。
少し薄暗い森の中に広がるお花畑を初めて見る友人の、「妖艶な美しさ」と例えた言葉がぴったりだと思いました。
山頂部の車道に出て、無線中継施設の左側を進むと八幡岳山頂につきます。
黒髪山や遠くには多良山地までの展望が楽しめます。花の時期には混みあうこともある山頂です。北へ進んで八幡大菩薩を祀った展望所にもベンチがあるので、ここまで移動して休憩するのもいいでしょう。ここからは天山や作礼山、唐津の海など北の展望が楽しめます。
下山は、車道を下ると途中2箇所の車道をショートカットする登山道があります。そのまま車道を下っても、遠回りですが所々で展望を楽しむこともできます。
池高原八幡岳キャンプ場まで戻ったら、道の駅厳木近くのきゅうらぎ温泉佐用姫の湯で汗を流して帰りました。
山頂まで車道が通じる山は敬遠しがちなのですが、八幡岳に残る美しい自然と展望の良さに友人もとても喜んでくれました。
プロフィール
池田浩伸
佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。
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