連続する垂壁の岩稜登下高とから氷河地形の美しいアルペン風景の中へ。北穂高岳より大キレットを踏破して南岳から天狗原
北穂高岳から涸沢岳への急峻な岩稜地帯をしのぎ、北アルプスの縦走路のなかでも最難関を誇る大キレットを越えると、そこは氷河時代の地形がおりなす美しいアルペンの世界が広がっていた、そんな最高の気分を味わえるルートです。

30代の頃、初めて穂高に挑んだのが槍ヶ岳〜奥穂高の大キレット越えでした。70代を目前にして、十分な体力のある内に、もう一度大キレットに挑もうと、30年前と逆の北穂高〜大キレット〜南岳の周回コースをとることにしました。
モデルコース:上高地~涸沢~涸沢岳~北穂高岳~大キレット~槍沢~上高地

コースタイム:
1日目 上高地~涸沢 6時間
2日目 涸沢~涸沢岳~北穂高岳~北穂高小屋 5時間
3日目 北穂高小屋~大キレット~南岳~槍沢ロッヂ 6時間35分
4日目 槍沢ロッヂ~上高地 4時間25分
涸沢岳から北穂高岳のガレた岩稜を歩く
1日目は涸沢小屋に宿泊。翌日、涸沢パノラマコースをたどり、正面に尖った三角錐の涸沢槍を見据えながら、高山植物が咲くガラ場を登ると、岩稜が見えてきます。これが「支稜」を意味するザイテングラートです。岩が積み重なるような岩場を登ると、眼下にはを雪渓が残る涸沢全体と涸沢のテント場、豆粒のような登山者を見下すことができます。



クサリ場やハシゴをへて傾斜の落ちた斜面を登りきると白出のコルで、穂高岳山荘が立っています。その右手から涸沢岳に向かう登山道が始まります。ハーネス、セルフビレイ用のスリングなどを準備して向かいます。ヘルメットは小屋出発時より装着済みです。涸沢岳頂上まではガレ場のゆるやかな登りです。
涸沢岳直下より、クサリ場の急降下が始まります。慣れていないと恐怖を感じるかもしれません。慎重に足場を見定め、確実に下降していきます。D沢のコルで一呼吸おき、涸沢槍の二つのピークの間を抜け、カメ岩の脇をトラバースし、最低コルに到達します。

ガスの切れ間より、前穂高岳北尾根や涸沢全体が見渡せます。ここで小休止。ここから北穂高岳へ登り返しです。涸沢側の斜面を登り、滝谷側へ回り込み、奥壁バンドのトラバースが続きます。滝沢ドームの基部を回り込むように登ると北穂高岳南峰です。少し下って北穂高岳南稜からのルートと合流し、松濤岩の基部を回り込むように登ると北穂高岳北峰が見えてきます。



さらにひと登りで北穂高岳北峰山頂に飛び出します。槍ヶ岳へ続く稜線が見えるはずですが、ガスの中。明日に期待することにします。この日は北穂高小屋に宿泊です。

いよいよ大キレットへ
翌日は朝方は晴れ、大キレット越しに、南岳~槍ヶ岳の雄姿を捉えることができました。装備を調え、気を引き締めて大キレットに向かいます。


まずは最難関、飛騨泣きの下りです。垂壁に近いクサリ場が連続し、必要なところはセルフビレイをとって、着実に足を置いていきます。ところが、ひねったのか、突然右手首に痛みを感じ、思うように右手に力がいれられなくなり、慎重の上に慎重をかさねるように、足をおいていきます。しばらくは緊張させられました。


A沢のコルまできて、応急処置として痛み止めの湿布をはり、小休止する内に痛みが和らいできたので、長谷川ピークへと向かいます。長谷川ピークでは狭いので、ちょうど反対側から大キレットを登ってくるパーティーとのすれちがいに気を使います。

最低コルまで進み、一息ついて、南岳への登り返しです。南岳小屋に着いたときは、さすがにほっとしました。いつも抱えている左膝周りに加えて、予期せぬ故障が起きやすいのが高齢者のやっかいなところです。


南岳からは氷河公園のある天狗原をめざします。横尾尾根上部のクサリ場が出てきますが、傾斜は比較的ゆるやかです。前方には、横尾右俣カールに広がる氷河地形が広がり、雪渓とグリーンバンドの美しい縞模様をなしています。この時期の天狗池は雪渓の下にまだ埋もれており、「逆さ槍」をみることはできませんが、日本随一のアルペン風景の名にふさわしい光景でしょう。

氷河によって運ばれた大石がゴロゴロする天狗原へは雪渓を横断しますが、傾斜は緩いのでアイゼンの必要はありませんでした。天狗池では、槍ヶ岳はガスにすっぽり包まれて全く見えず残念でした。槍沢モレーンから天狗原分岐への斜面にも、雪渓が残っており、ここは意外に傾斜が強く、雪が腐ってきていたので、軽アイゼンを使用しました。

大曲をへて槍沢ロッジに急ぎます。三日目は思いがけず長丁場になりましたが、槍沢ロッジに一泊し、翌日上高地へ下山しました。
プロフィール
奥谷晶
30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。
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