古の旅人に思いを馳せて浅間尾根を歩き、素朴な味わいの手打ちそばに舌鼓

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古くから生活の道として人々が行き来をし、今は人気のハイキングルートになっている浅間尾根。登山口には、心地よいお風呂と地元食材の料理が味わえる一軒宿が建っている。

写真・文=西野淑子

 

 三頭山の東側に延びる、南秋川と北秋川を隔てる浅間尾根は、心地よい尾根歩きが楽しめる人気のハイキングルートだ。江戸時代から昭和の始め頃までは五日市と檜原をつなぐ生活の道としても歩かれていたといい、ところどころに石仏や石碑、祠などを見ることができるのも楽しい。

浅間尾根を歩く場合は、浅間尾根登山口からスタートして尾根に出て、浅間嶺を経由して払沢の滝に下山する…というのが定番。浅間嶺の展望台からは奥多摩の山々も丹沢方面の山々もきれいに眺められるし、フィナーレが日本の滝百選のひとつでもある払沢の滝なのもいい。しかし今回は逆ルートで。払沢の滝をスタートして、時坂峠の集落を抜け、ゆるやかに登り続けて浅間嶺へ。思ったより眺望がよくてほっとした。

写真の説明

浅間嶺展望台から奥多摩方面を望む。大岳山(右)、御前山(左)が見える

モデルコース:浅間尾根

 

コースタイム:払沢の滝入口バス停(55分)時坂峠(1時間40分)浅間嶺(25分)人里峠(1時間30分)数馬分岐(40分)浅間尾根登山口バス停 合計5時間10分

アクセス:JR五日市線武蔵五日市駅からバス30分、払沢の滝入口下車

お風呂で汗を流してさっぱり、素朴な山の恵みも嬉しい

登りが多くなる逆ルートを歩いた理由はただひとつ。「浅間坂 木庵」さんに行きたかったから。

浅間尾根登山口バス停から歩き始めると、コンクリートの急な登り斜面の途中に建物がある。日帰り入浴や昼食もとれる民宿だ。道沿いにいい感じの看板がいくつもあり、いつも心そそられていた。そういえば10年近く前に一度、沢登りの帰りに訪れたことがあったっけ。そのときは日帰りのお風呂だけ入って帰った気がする。

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「浅間坂 木庵」。日帰り入浴と食事ができる

小走りで登山道を下り、お店の前にたどり着いた。雰囲気のよい木造の建物。入ってすぐのところが食堂になっていて、すでにお客さんが数組入っている。入口で声をかけ、まずは日帰り入浴をさせてもらう。お風呂は敷地の奥にある。汗を流して湯船にとっぷり。窓から山々が眺められるのが嬉しいな。今日は暑いなか、よく頑張った…と自分をほめる。

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広い窓から周りの緑を眺められる店内

風呂から上がり、ふたたび食堂へ。日帰り入浴だけならここでお支払いをして帰るのだが、今日は食事もしていきたいので上がらせてもらう。入口近くのテーブル席に腰掛けた。奥には小上がりもある。窓からは、木々の緑や山々が見えていい感じだ。メニューを見て、石臼曵きそばを注文。山菜御膳や、おいね飯など気にある料理はたくさんあったけど、ここはシンプルにいこう。

お茶請けのユズがおいしいなあ、と思いながらボーッと待っていると、奥さんが「これどうぞー」と小鉢を出してくれた。たけのこの煮物ではないか。このへんでとれたものかな。薄味で少しえぐみがあっていい感じ。

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サービスしてもらったたけのこの煮物

「うわぁ、ビール飲みたくなっちゃうな…」と思わず呟くと、奥さんが「いいんですよ、飲んでも♪」と笑いかけてくれた。改めてメニューを見ると、手作りの刺身こんにゃくやヤマメの塩焼き、おお、シカや猪肉の燻製もあるのか。えええ、どうしよう…。しかしこの店からバス停まではコンクリートの急な下り坂を10分ほど歩かなくてはならない。今日は、我慢我慢、我慢…。

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石臼曵きそば(850円)

悶々としながら待つうちに、そばが登場。ちょいと太めで存在感のあるそば。まず一口、風味がよくて、のどごしがごっつい、いかにも「田舎そば」という感じ。するすると食べられる細切りのそばが好きだけど、そばの風味やうまみを噛み締めながら味わう田舎そばもいいなあ。見た目はそれほど多く見えなくて、大盛りにすればよかったかなと思ったけど、十分お腹いっぱいになった。最後はそば湯をいただいて、ごちそうさま。

お風呂代と合わせてお会計。 「宿も営業していますから、また来て下さいね」と奥さんが微笑みかけてくれた。そうなんだ、泊まりで来れば、地元食材のおつまみを味わいながら、ゆっくりお酒が飲めるじゃないか。いや、お酒はともかく、深い緑に囲まれた宿で山の一夜を過ごせたらどんなに素敵だろう。次回はぜひ泊まりで。バスの時間を気にして急な坂道を駆け下りながら、心に誓ったのだった。

店名:浅間坂 木庵

浅間尾根登山口からの道中に建つ民宿で、日帰り入浴や昼食にも対応。昼食は手打ちそばや地元の山の幸が味わえる。

電話:042-598-6201

住所:東京都西多摩郡檜原村2315

アクセス:JR五日市線武蔵五日市駅からバス55分、浅間尾根登山口バス停から徒歩15分

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きからアルパインクライミングまで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

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