紅葉を輝かせる秋晴れのもと、剱岳の岩稜を登る

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岩と雪の殿堂、剱岳は北アルプスでも最難関を誇る峻険な山で、一般ルートでもきわどい岩稜登攀が連続し、登頂には十分な経験と、細心の準備と泰然たる心構えが要求されます。9月後半には登山道上の雪渓も消え、紅葉に色づきはじめた山々を眼下に、登頂の絶好の機会が到来します。

 

岩と雪の殿堂、剱岳全容

最初の剱岳登頂からは、実に40年ぶりとなります。そのときは社会人山岳会の合宿で、真砂沢に現地集合だったので、それなら登頂してから行こうとい思い立ちました。若気のいたりで重い荷をあまり苦にもせず、登頂後、北方稜線に入り、クレバスが口を開けた長次郎谷の雪渓を下って真砂沢の幕営地に向かったことが懐かしく思い出されます。

次に剱岳に登頂したのは源次郎尾根からで、この合宿で残した課題でした。最初から30年ぶり2度目の登頂でした。

膝の故障をかかえた70歳直前の今回は、体力のあるうちに、と考え、自重して一般ルートの別山尾根より登ることにしました。

 

モデルコース:室堂~別山尾根~剱岳(往復)

剱岳地図

コースタイム:

1日目 室堂~剣山荘 4時間20分
2日目 剣山荘~剱岳~剣山荘 6時間
3日目 剣山荘~室堂 4時間20分

⇒剱岳周辺の地図

室堂からミクリガ池を経て雷鳥沢を下り、剣山荘へ向かいます。山崎カールは紅葉がすでに始まっていて極彩色の絨毯を敷き詰めたようです。雷鳥沢のテント場も負けずと色とりどりのテントで埋まり始めています。

秋色濃い雷鳥沢

つづら折りの雷鳥沢を、息を切らして登り詰め、剱御前小舎へ。ここから剱御前の東側をトラバースするルートをたどります。この時期には雪渓は消えて、雄大な剱岳が次第に迫力ある姿で迫って来ます。それをみすえて、若い頃には明日への闘志をたぎらせたりしたのですが、今回は「お帰り、また来たか」と呼ばれているような思いにふけります。

剣山荘では、暮れゆく後立山連峰の山並みをながめながらゆったり過ごして明日に備えます。

朝陽に輝く前剱と剱岳本峰

剣山荘を午前5時に出発。裏手の登山道より、まずは一服剱をめざします。鎖場が始まりますが、このあたりは傾斜も緩く、足慣らしのつもりでゆっくりと高度を上げていきます。一服剱に立つと、いよいよ剱岳本峰が堂々たる姿を現します。一度下り、大岩の脇の3番鎖場を通過し、さらに鎖場を越えて稜線に出ると前剱頂上です。ふりかえると秋色濃い立山連峰と並ぶ高度になっています。

前剱ノ門と剱岳本峰

鉄のブリッジを慎重に渡り、切れ落ちた絶壁をトラバースする5番鎖場を通過し、6番鎖場を下降して平蔵の頭へ向かいます。登りルートは平蔵の頭を右から巻くようにつけられた7番鎖場を下降していきます。足下は平蔵谷の雪渓が迫っています。8番鎖場を過ぎると平蔵のコルに下り立ちます。

平蔵の頭から核心部へ

前方右手にカニノタテバイ(9番鎖場)に登山者が列をなして登る様子が見えます。人が多いと渋滞も発生します。カニノタテバイでは鎖にセルフビレイをとり、岩壁に着実にホールドをつかんで登ります。

頂上への岩稜地帯の核心部、カニノタテバイ

垂壁を登り切って岩溝を登り稜線に出た後も剱岳山頂までは、意外に長くガラ場の登りが続きます。山頂は大勢の登山者が休んでいます。予定通り、順調に登頂できて、一安心しましたが、登頂者の中には80歳の登山者がいて、さすがに脱帽です。体力の衰えを感じざるを得ないこのごろでしたが、まだまだ行けると勇気をもらいました。

剱岳山頂よりのぞむ立山連峰

下りも別山尾根のルートをとります。下山路を別山尾根にとるのは初めてです。

下山ルートは登りのルートとは別になっています。10番鎖場となるカニノヨコバイの一歩目が要注意です。ここもセルフビレイをとって慎重に下ります。ステンレス製の梯子の通過もあり、鎖場の下降が続きます。平蔵の頭を登る登山者の姿が眼下に見えます。平蔵のコルから再び平蔵の頭へ登る鎖場が続きます。平蔵の頭から反対側へ降り、12番鎖場を過ぎ、展望台で休憩し、前剱の門までゆっくりと下ります。

前剱を過ぎてから上りルートと合流し、一安心したいところですが、要注意です。滑落事故は下りで多く発生することが多いのですが、前剱から武蔵のコル間はガレ場で浮き石が多く、鎖がないところこそ慎重に足を運ぶ必要があります。一服剱を越え、剣山荘が見えてくるまで安心できません。下りで時間と気力を使ったので、剣山荘のベンチで一休み、おもわず一眠りしてしまいました。さて、気を取り直して、室堂へ向けて出発です。

剱御前の斜面をトラバースし、別山乗越の剱御前小舎までの登り返しはさすがに疲れた足腰にこたえペースは落ちていきます。別山乗越から雷鳥沢キャンプ場へ下りてゆくと、さらに色づいた雷鳥沢の紅葉がみごとで、沈む夕陽の光を浴びて輝くような色彩にそまる姿に魅入られ、撮影をせずにはいられません。

暮れゆく雷鳥沢の紅葉

雷鳥坂を登る途中で日が沈み、ヘッドランプをつけて一歩一歩重い足をひきずり、雷鳥荘についたのはすっかり夜のとばりが下りる時刻でした。夜、疲れた体に、24時間入れる雷鳥荘の温泉がどれだけありがたかったか、知れません。

翌日は室堂平を散策し、称名の滝を見学して帰りました。(取材日=2019年9月25~27日)

 

プロフィール

奥谷晶

30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。

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